浮気ゲーの主役に転生しちまった

@Arabeske

序章

第1話


 浮気ゲー、というジャンルがある。

 確定している彼女がもういるのに、

 他のヒロインに浮気をし、修羅場になるやつだ。

 

 メインヒロインは、だいたい、信じられないくらい健気で、

 なんでこんな奴信じるんだ? っていうくらい一途。

 それを裏切っちまう主人公にはヘイトが溜まるわな。


 そして浮気相手になるヒロインと、メインヒロインが修羅場になり(当たり前)

 よくてビンダ、悪ければ殺し合いとなり、主人公も無事に殺される。

 おなかのなかになんてなにもないじゃありませんか、的な。

 

 っていうのに転生するならばさ、

 ふつう、脇役とか悪役とかモブだろうよ。

 

 で、甲斐性も節操もない主人公を他所に、

 サブヒロインでハーレムを作っていくわけだろ?

 で、ヘタレ不貞野郎の主人公は断罪され、

 社会的地位を喪って地に転げ落ちるわけだ。

 

 めでたしめでたし、ってな?

 

 はぁ。

 なんだよ、俺はっ!!

 

 今日び、誰からも同情されない悪役そのものじゃねぇか。

 声を充てた中の人から、

 「こいつだらしねぇw」「こんな人好きになれない」

 みたいなこと言われちまった(当たり前)奴だよ。


 ……はぁ。

 

 って、言ってもしょうがねぇな。


 藤原ふじわら純一じゅんいち

 

 これが、俺の名前らしい。

 名前からしてアウトな奴だわ。

 修羅場臭がビンビンきてる。家庭裁判所に改名を申し出たい。


 ともかくコイツの行動はイミフなのだ。

 高校から付き合って二年目の、清純派そのものみたいな彼女が、

 18にもなって「私、アイドルになりたいの」なんてぬかした瞬間に

 即否決すりゃ良かっただけなのに、

 「あ、いいんじゃないか?(考えなし)」みたいにおっぽり出してしまい、

 元アイドルの女性秘書に囲われて手出しできなくなって、

 その欲求不満をサブヒロインたちにぶつけまくる。


 その時点で彼女と別れりゃまだいいんだが、

 彼女には隠して彼女のデビューコンサートなんぞにしれっと行きながら、

 裏で複数の女とヤルことヤってやがるわけで、

 そりゃ修羅場にもなるっていうか、修羅場製造機っていうか。


 まぁ、そういうゲームなんだからしょうがないけどさ、

 もうちょっと慎みを持てよお前ら。

 大学生なんだから、ちゃんと勉強しろよ。な?

 

 はぁ。

 

 で。

 

 「ありがとう、純一君っ!!」

 

 ……

 イマ、ココ。

 

 ……に乗り移って来たんだよ、俺。

 なんだよっ!? あと5分、いや、20秒前なだけで、

 フラグのすべてを消し去れたわけじゃねぇか。

 たったいま、オゴポゴの飼い主パラ〇マサイ〇を殺しそこなったんだよっ!


 あぁ……

 だめだこの無垢満面の笑顔。

 いまさら取り消せるわけがねぇ……。


 ってか、この子、

 なんでアイドルなんかになりたかったんだっけな?

 ほとんど覚えてねぇんだよなぁ……

 

 確か、「引っ込み思案な自分を直したい」みたいな

 クソみてぇな理由だったんじゃなかったっけな。

 

 !!

 だ、だめだだめだそんなもんっ!

 

 「由奈、もういち」

 

 「じゃ、わたし、雛さん淫乱秘書を待たせちゃってるから。

  それじゃ、純一君、またね?」


 うぐっ!?

 強制力に瞬殺されやがったっ!!


 そういやこの子、わりと彼氏の考えよりも、

 自分の想いだけで勝手に動いちゃう子だったな……。

 清純一途でも、浮気される要素、バリバリってわけだ……。

 

 はぁ。

 この世界、おわった。

 なにも、かもが。

 

 ……なんか、ちょっとわかっちゃったよ。


*


 浮気系鬱ゲーの歴史的記念碑とされる、

 『Assorted Love』

 略してアソラブ。もう浮気感しかないタイトル。

 

 勿論、リアルタイムは知らん。

 この続編、『Assorted Love2』が、

 海外で人気が出てしまったのをちらっと知ってるが、

 密林で見たら作画が嫌いだったので、一切見なかった。

 

 その原作であるアソラブ。勿論よく知らん。

 なんでわざわざゲームで浮気をせにゃならんのだ。

 

 浮気なんてお金も労力も掛かるだけだし、

 自分の人生の中で、異性沙汰にかける時間なんて、

 短ければ短いほどいい。斡旋お見合いシステム万歳。

 

 そんな考えの俺が、どうしてこの世界にいるのか。

 はっきりいってなんにも分からん。

 

 ただ、さっきも言ったと思うが、

 アソラブの世界は、彼氏がいるにも関わらず、

 白川しらかわ由奈ゆながアイドルなんかになろうとするのが全部悪い。

 

 だから、そここそを遮断しようとしたのに、

 恐るべき強制力の仕組みで戻されてしまった。


 今後の方針?

 まだ、なんもねぇよ。

 だってこの世界のこと、なんもしらねぇもん。


*


 ……うぁぁ。

 いらんこと、わかっちまった。


 チャート上位は、アイドルしかない。

 大事なことだからもう一度言うぞ。


 アイドルしか、ない。

 

 おかしいだろう。

 この世界のベースである1980年代後半っつったら、

 ニューミュージックやらロックバンドやらが主流になって、

 アイドルなんてなスペンと駆逐されてしまうはずだ。


 深夜番組で大きな扇風機の前で口あけて

 折角化粧した顔面がめちゃくちゃになってすっ飛ばされるような

 切ない役どころしかねぇはずもうちょっと先の話なんだよ。


 なんでオ〇コンチャート一位から二十位までぜんぶアイドル枠なんだよ。

 アイドル枠以外の音楽関係の連中はどうやって飯食ってんだ。


 しかも。

 アイドルの中での男女比、2:8。

 

 どうかしてんのか。

 女子アイドルTVかなんかなのか、この世界は。


 不良とか、ツッパリとか、謎の応援団とかいねぇんだよなぁ。

 コンサートとかも、TV司会者とかも、わりと上品だし、

 この時代にゃ普及してない筈のペンライトとかあんのよな。

 

 俺ですらわかるぞ。

 この時代の上澄みだけ掬い取ってやがる。

 製作陣、資料映像、ちゃんと見てたのか?


 液晶画面がまだ出てないんだよな。ブラウン管TV。

 こんなの、マヨ〇カテレビでしか見たことねぇぞ。

 音質もめちゃくちゃ悪いしな。

 オーディオとテレビが別の世界のものだったわけか。

 

 はぁ。

 建物は面白いんだけどな。

 この時代らしく、めちゃくちゃ尖った公共建築があったりするし。

 

 んで。

 

 仮に、この世界が、「アソラブ」の原作通りだとするなら、

 由奈は今頃、沢埜啓哉の元で契約書を書いてるわけだ。

 圧倒的に事務所有利な奴な。取り分9:1だっけ?


 沢埜さわの啓哉けいや

 

 この世界では最大のヒットメーカー。

 元バンドマンだけど、ある理由で頭がトチ狂って引退し、

 ほとぼりが醒めた頃に妹の梨香をプロデュースして芸能界返り咲き。

 

 白川由奈は、沢埜啓哉が梨香以外に手掛けた最初にして、唯一の例。

 そして、由奈の才能に溺れて惚れてしまい、

 部屋に誘って強姦しちゃってなにもかも台無し。

 アニメ版では由奈は拒絶するんだっけ?

 密林でざらっと見ただけだから記憶にない。


 で、沢埜さわの梨香りか

 

 はっきりいってブラコン。

 ブラコンパワーで啓哉の無茶ぶりを全部聞いて、

 凄まじい実力派アイドルに成長して覇権を握るが、

 兄が由奈に溺れていくと依存先を喪って精神を病み、

 主人公に寄り掛かっていく、という流れ。

 

 ちなみに、兄に替わる依存先がないとどうなるか?

 そう、めでたく自殺する。

 …このへんが、鬱ゲーの走りと呼ばれる所以でもある。

 

 だから、

 オゴポゴの飼い主を殺すところが、αでありΩだった。

 うぁぁぁぁぁぁぁ。ロードしてぇぇぇ………。


 ぜー、ぜー、ぜー……。

 

 あぁ、もうっ。

 

 とりあえず、だ。

 

 この世界は、基本、浮気を誘っている。

 というか、浮気をしないと、世界が滅んでしまう。

 

 ように、見せかけている。

 

 手を出さないと、関係者の精神が破滅するパターンと、

 そうでもないパターンが混在している。

 

 できる限り腑分けし、

 関係者の精神が破滅するパターンは、

 最小限、適切かつ効果的に介入。


 そうでもないパターンは極力無視し、

 でき得る限り、俺の貞操を維持しながら。

 

 白川由奈と沢埜梨香。


 二人の死の運命を、回避する。

 

 これが基本戦略だろう。

 

 闇兄? どうでもいい。むしろ死ね。

 あとのサブヒロイン? しらん。

 この世界に転生したモブさん、よろしくやってくれよ。

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