第11話 美人
月曜日の放課後。
俺は甘瀬さんと一緒に担任の先生の元に呼び出されていた。
「……話ってなんですか?」
俺が恐る恐る聞くと、担任の先生は意外にも軽い声音で話した。
「別に何か説教しようってわけじゃない、ただまた次の週が始まるにあたって、先週の話を聞いた後でペアの相性を確認して、もし相性が悪いなら別のやつと入れ替える、そのために教えることを担当してる生徒と教えられてる方の生徒たちにそれぞれペアごとに今話聞いてってるんだ」
とりあえず何か怒られるわけでは無いことに一安心だ。
……ペアの相性、か。
「それで、お前たちはどうだ?真面目な甘瀬と普段から勉強にやる気がない暁を組ませれば、暁がちょっとは勉強にやる気を出すかと思ってお前たちを組ませたんだが」
「暁くんは優秀です、私が休憩を取った方が良いと言っても休憩を取らないほどに」
甘瀬さんはクールな声音と雰囲気でそう言う。
……この甘瀬さんを見ていると、本当にいつも接しているあの甘瀬さんと同一人物なのかと疑いたくなってしまう。
「おぉ、相当甘瀬の教育が効いてるんだな、やっぱり俺の目は間違って無かったか」
……俺が勉強に集中しているという結果だけ見れば先生の目は間違っていないと言えるが、その過程は絶対に先生の思い描いているようなものでは無いだろう。
「なら、お前らのペアはこのままでも良いんだな?」
「問題ありません」
「……暁は?」
「……問題が無いのかと聞かれれば問題はありますけど、かといって何か不満があるわけでも無いのでこのままで大丈夫です」
「ん、問題ってなんだ?教え方が合わないとかなら────」
「そういうことじゃないんです、勉強の教え方は甘瀬さん以上にわかりやすい人は居ないって思えるほどわかりやすく教えてくれます」
「……わかった、お前がそれで良いならそれで良い」
先生は真面目な顔つきで言った。
「でも、もしその不満が不満で留まりそうに無くなったら言え、その時はちゃんとこっちでペアを組み直してやるから」
「ありがとうございます」
そして、先生との会話は特に何か大きなトラブルごとはなく終わって、俺と甘瀬さんは一緒に図書室に向かっていた。
「……暁くん、私に何か問題があるの?」
「問題……?」
「さっき私に問題があるって、先生に話してたよね」
……問題があるのか無いのかと聞かれれば、やはりあるになってしまうんじゃ無いだろうか。
勉強の最中にも甘々な態度を取られて、正直いつも勉強に集中するだけでも手一杯だ……だが。
「さっきも言った通り、別に不満があるわけじゃ無いんです……でも、俺も一人の男子高校生なわけで、甘瀬さんみたいな美人な人にあんなに距離を詰められて勉強を教えられると、集中できるものも集中できなくなってしまいそうというか……」
「……」
俺がそういうと、甘瀬さんは少しの間歩きながら沈黙した。
……もしかしたら、何かかなり不機嫌になるようなことを言ってしまったのかもしれない。
そう思った俺は、すぐに弁明をすることにした。
「何度も言いますけど、別に甘瀬さんに何か特別不満があるわけでは無いので────」
「暁くんって、私のこと美人って思ってくれてるの?」
「え……?それは、はい」
そんなことは学校全体の常識というか、なんなら世界中の人が甘瀬さんのことを見たとしても間違いなくその九割以上が甘瀬さんのことを美人だと言うだろう、なんだったら好きなタイプという概念があるとしても全人類が美人だと言うかもしれない。
それほどの美貌を甘瀬さんは持っている、それなのに俺が甘瀬さんのことを美人だと思わないわけがない。
「さっきまで色々と悩んでたけど、全部吹き飛んじゃった!私は、暁くんもかっこいいと思うよ!」
そう言いながら、甘瀬さんは俺に抱きついてきた。
「甘瀬さん!?ここ廊下ですよ!?」
それから数日後、学校では「甘瀬さんと暁くんが付き合ってる」という妙な噂が広まっていた。
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