新生活

 案内されたのは、なんと和室だった。

 私がイメージしていた病室というのはベッドが有って、仕切りのカーテンが下がっているものだった。

 ところが、この病室は間仕切りなど無い。

 広くもない畳敷きの和室に、ただ、布団のセットが6組、畳んで、あるいは敷いてあるだけだ。

 畳は色あせて摩耗し、毛羽立っている。

 部屋には女性が5人居た。

 四人の女性が畳んだ布団の山に腰掛けて、何もせずに座っている。

 一人は布団を敷いて寝ていた。

 驚きはまだ有る。

 その五人は程度の差はあれ、全員太っていた。

 何故なんだろうか?

 食事のせい?

 薬のせい?

 私は標準体重だと思うけど、ここに入ったら仲間になって太るの?

 「こちらです。」

 内海医師が素っ気なく言って帰って行く。

 あ!

 ぼんやりしてないで、最初が肝心!

 「三好 英花あやかと言います!

よろしくお願いします!」

と早口に言うと、私は深々と頭を下げた。

 しかし、ここの病室の誰もがぼんやりと、ただ私を眺めている。

 「三好さんはここの布団を使って下さい。

今、衣装ケースを持ってきます。」

 看護師が布団のセットの内、誰も座っていない物を示す。

 「あ、はい。」

 看護師が出て行き、やや間が空いて後、病室の中で最も若いであろう女性が口を開いた。

 「若宮です。

よろしくねぇ。」

 若宮さんは根元から、15センチ程が黒髪で、そこから先は明るい茶髪だ。

 髪15センチ分、入院している事がうかがい知れる。

 病室の中で二番目に太っているであろう、私より少し年上だと思われる、白髪交じりの女性も自己紹介してきた。

 「中原です。」

と会釈をしてきたので、こちらも会釈を返した。

 しばらくの間があいた後、

「山下です。」

 病室の中で最も年を取っているであろう女性が言って、丁寧にお辞儀した。

 私も深々とお辞儀をする。

 山下さんの髪はおかっぱでボサボサだ。

 クシを通していないのだろうか。

 白髪交じりの直毛が広がるその様子はまるでグレーのタンポポの綿毛の様だ。

 それに覇気が無いというか、ぼーっとしていた。

 ぼーっとしているのは、ここに居る全員がそうだった。

 自分も含めて。

 しかし、自分はぼーっとしていると気がついている分ましだろうなと思う。

 私はしばらく後の二人の自己紹介を待った。

 一人は病室の片隅で体育座りをしていてそっぽを向き、挨拶したくもない様子だ。

 もう一人、病室の中で最も太っている女性は横たわってはいるが眠ってはいない様子。

 だが、新しく自分が病室に入ってくる事が分かっているのかどうか・・・。


 そうこうしているうちに私の衣装ケースが来た。

 半透明の衣装ケースは私の布団と指定された、たたまれて積まれた布団の後ろに据え付けられる。


 ここが私の居場所だ!

 これからは衣装ケースの中をいつでも触れる。

 何という自由?

 病室の人達とお友達になって少しでも楽しく、暮らすの!

 期待感を抱いた。


 自己紹介をしなかった二人についても病室の入り口に有る名簿の様なプレートで、すぐに分かった。

 部屋の片隅で体育座りをしていたのが、不破 恵美子さん。

 一番太っていて横たわっていたのが、大丸 奈々さん。

 それぞれの名前のフルネームも判明した。

 中原 りかさん

 若宮 甘絵さん

 山下 和子さん

 しっかりちゃんと覚えないと。

 プレートには私の名前も既に入っていた。

 三好 英花

 本当に所属がここになっているんだな・・・。

 感慨深かった。

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