プロローグ
初エッチして処女を失い、ラブホテルから夜中に自宅へ帰ると、サクッと母親にばれた。
なぜなら、パンツが真っ赤だったからだ。
こんなに血が出るなんて知らなかった。
母親はそれを見るなり刹那、顔を真っ赤にして、
「
おまえセックスしたね!
なんてはしたない!」
と怒鳴る。
母親はキーッと口から音を立ててつかみかかってきた。
私はそれを手で払って、
「ママには関係ないでしょ!」
と怒鳴り返す。
「妊娠したらどうするの!」
母親は太く吠え、またつかみかかってくる。
私は母親の頭をこぶしで殴ろうとした。
母親はそれをかわそうとして足を滑らし、お風呂のドアノブに側頭部をしたたかにぶつけ、その場で倒れた。
そこは脱衣所だった。
母親の頭から床に数滴、血がしたたり落ちる。
この状況には私も母親もびっくりして動揺した。
「英花!
おまえなんてことしてくれたの!」
「私は何もしてない!」
私は目を丸くして答える。
母親は震え声で、顎をがくがく鳴らして、私を睨みつけながら凄みを効かせてくる。
「みー、見てなさいよ!
ひどい目にあわせてやるよ。」
鬼気迫る表情。
ちょっと怖い。
「いいからそこどいて。
お風呂入るんだから。」
お風呂から出て長い髪を丁寧に乾かしたら、なにか外が騒がしい。
人が数名いて、話声がするような?
こんな夜中に何かな?
もしかして・・・。
家に用かしら?
と思った瞬間、大きく家のチャイムが響いた。
え!?
なに?
何事?
ドキドキしながら、
「ママ!
チャイムだよ!
起きてきて!」
と呼びだしたが、どうやら母親が家にいない様子。
私はドアの向こうをうかがい知ろうと玄関に立つと途端に、ドアが向こうから開いた。
凍り付いた。
そこには黄色い服を着た警察官が二人で立っている。
夜気がお風呂で火照った私の体を包みこみ・・・。
そういやパジャマでノーブラだったなと、ぼんやり考えていると。
「三好 英花さんですね?」
「あ、は・・・い。」
濃密な非日常に少しクラっときていると、
「警察の者です。
署まできてもらいます。」
とするりと両脇を二人がかりで抱えられ、無理矢理、警察署へ連れて行かれた。
ここの管轄の警察署、前を通ったことはあるけど中に入ったことなどもちろんなかった。
へぇ、こうなっているんだ。
と、ちょっと感心していると、おじさんの警察官が来て聞いてきた。
「何があったか、話してくれませんかね?」
表情をのぞき込まれている様で、顔が近い。
薄くヒゲが生えていて、口を大きく開けて、しゃべるたびに、それはあたかも汚い絨毯のように波打っていた。
「あ、・・・え。
いや、何も、何もないですよ?」
ちょっと緊張してしどろもどろになる。
「本当にそうですか?」
警察官は穏やかだ。
だが、腹の底では何考えているかわからない。
そういう、雰囲気だった。
「はい。
本当です。」
「お母さんの頭から血が流れていましたが?」
「え!
まさか、母が死んだとか?」
「お母さんはあなたに殴られたと言ってますよ。」
「な!」
頭の中が真っ白になる。
なんという嘘をつくの!
私は母親への怒りで身を震わせた。
「心当たりがあるんだね?」
警察官は押し付けるように言ってくる。
「違います!
誤解です!
嘘!
そんな!」
私は慌ててまくしたて、おじさんの顔つきを見て、全く功を奏していないことがわかった。
人を疑う事しか知らない顔だった。
おじさんはゆっくりと、噛んで含めるように言った。
「三好さんは病気だから、お医者さんに聞かないとな。」
戦慄が走った。
私は統合失調症患者だ。
もうダメだと思った。
何もかももうダメ。
私はどうなってしまうんだろう?
そればかりが頭の中をクルクルと空回りして何も考えられなくなった。
そのまま、警察署の中の会議室のようなところへ通され、女性の警察官が見張るように付けられた。
トイレに行くときも一緒だ。
お互い、何も会話をしなかった。
しかし、私は一言、言ってみる。
「あの、スマホを取りに戻りたいんですけど。」
女性警察官は拒絶の笑みを浮かべ、一言。
「諦めて下さい。」
何時間が経ったのだろう?
警察署から出され、また車に乗せられ、役所みたいなところに連れて行かれた。
もう日は昇っていた。
眩しい。
何時ぐらいだろう?
今の季節だと8時ぐらいかな。
その建物の中の一室に通され、一人のおじさんに引き取られた。
女性警察官とはここで素っ気なく別れた。
部屋には大きくて立派な机と質素な応接セットが揃っていた。
その他はぎっしりファイルが入っている、スチールキャビネットが有るだけだった。
何だろう?
これ、状況を誰か話してくれるのかな?
このおじさんが?
と混乱していると、程なくして今度はグレーの何も描かれていないマイクロバスに乗せられる。
中には座席が並んでいる。
私はその最後部座席の真ん中に乗せられ、周りを何人かが取り囲むように座った。
おじさんも前の方の座席に座る。
私が座った、最後席のその椅子はビニールシートに包まれていた。
例えオシッコやウンコを漏らしても。
ゲロを吐いても。
涙を流しても。
血を流しても。
一切受け付けないように仕込まれている様子だ。
不安でいっぱいで恐ろしかった。
どうやら高速を抜けてひたすら走り、ぐねぐねした山道に入ってからのち、やっと降ろされた。
どこだろう?
大きな建物。
病院の様だ・・・。
私は入り口に連れて行かれる。
入り口は異様な不幸が黒々とした口を開けている様で、その中に飲み込まれていくのは戦慄の恐怖を覚えた。
これは、私、三好 英花が精神科単科病院に入ってから、出るまでの記録。
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