烏《カラス》の巣【カクヨム版】

川越 地星子

前日譚

 スーパーの果物売り場で母親のスカートを必死になって握りしめ、引っ張っているちいさな女の子が居る。

「ママ?

見て!

編み目のメロンが有る!

あやか食べた事無いよ・・・食べてみたいよ!」

 「英花あやか、あれは大人の食べ物だから。」

 そう答える母親の姿はどことなくやつれ、生命としての精彩を欠いていた。

 「え・・・

クラスのお友達がね?

編み目のメロンが一番美味しいって!

食べた事無いなんて、損してるって!

お友達は大人じゃないよ?

あやかも!

あやかも食べたい!」

 かんしゃく起こしそうな子供に母親は少し慌てて、

「他の売り場も見てみようよ。」

と促した。

 不承不承、母親について行く英花。

 そして、パン売り場へ行き。

 「ほら、編み目のメロンのパンが有るよ。

きっと同じ味だよ。」

 それはメロン味の蒸しパンだった。


 家に帰り着き、オヤツの時間にメロン味の蒸しパンを出されると、英花は明らかにむくれていた。

 「パンじゃん。」

 それでも袋を開けて、食べ始める。

 同じテーブルに着いた母親が声を震わせて言った。

 「ごめんね・・・。

来月になったら、編み目のメロンを買おうね。」

 母親の苦痛を感じ取ったのか、英花は懸命に言う。

 「あ!

あ!

これ!

美味しいよ!

編み目のメロンの味がするよ!

すごく美味しい!

甘いし!」

 母親は泣きそうだった。

 「あ!

ママにも半分上げるよ!

美味しいから!」

 蒸しパンの半分をもらって頬張りながら、母親はボタボタと涙を落とす。

 「・・・大きくなったね・・・。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る