こっきゅりさん

紙月三角

第1話

 ねえ、知ってる?

 これは、私の友だちの、そのまた友だちから聞いた話なんだけどさ。


 「こっくりさん」って、あるじゃない? 文字を書いた紙の上にコインを置いて、そこに指をのせて何か質問をするとコインが勝手に動き出して、その質問に答えてくれる、っていうやつ。

 タヌキとかキツネの霊を降霊してるとか。あるいは、「エンジェル様」なんて呼び方をして、天使が答えてくれるなんてパターンもあるらしいけど。

 実は、その私の友だちの友だちの地元にもそれと似たような遊びで……「こっきゅりさん」っていうのがあったらしいんだよね。


 「こっきゅりさん」は、動物の幽霊とか天使とか、そういう曖昧な存在じゃなくって、ちゃんと実在した普通の女の子だったんだって。

 彼女は百合……いわゆる、女の子同士がイチャイチャするのが本当に大好物で、百合に目がなくて。日頃からそういうことを考えすぎたせいで注意散漫になってたせいでうっかり赤信号で道路に飛び出して……車に轢かれて死んじゃったんだ。

 でも、大雑把で小さいことを気にしない性格だった彼女は、自分が死んじゃったこともそれほどショックじゃなくて。それどころか、生前のころの友だちがこっくりさんをしているところに紛れ込んで、イタズラで質問に答えたりして……。

 それがいつの間にか広がっていって、「こっきゅりさん」って呼ばれるようになったんだって。


 もともと百合好きな女の子だったからか、「こっきゅりさん」が答えてくれるのは、百合に関する質問だけ。例えば、「ある女の子が、どの女の子と付き合ったらいい?」とか。「あの女の子とお似合いの女の子は誰?」とか。

 そういう「女の子同士」の関係を尋ねる質問をしたときだけ、コインが動いてその質問に答えてくれるんだって。

 「こっくりさん」+「ゆり」=「こっきゅりさん」、ってことかな?


 ま、ぶっちゃけすっごい下らないけど……でも、小学生くらいだった彼女たち――仮に、陽鞠ひまりステラ月子つきこっていう名前にしておくね?――は、そんなこと気にしなかった。だから、その三人は毎日のように学校が終わったあとに教室に残って、その遊びをしていたんだって。




 例えば……。


「こっきゅりさん、こっきゅりさん……A組の真夏まなつちゃんの好きな女の子を教えてください……」

「ゆ、ら……り、つ……か……。って、B組の由良ゆら六花りっかちゃんのこと⁉ きゃーっ! やっぱあの二人、そうだったんだーっ⁉」

「あぁ、確かにぃ。あの二人、一時期ウワサになったりしてたもんねぇ?」

「あれ? でも六花さんがこの前、『真夏ちゃんはただの友だちだよ!』ってキレ気味に言ってたような……」

「もーう! そんなの照れてたんだよーっ! 照れ隠しに決まってるじゃーんっ!」

「あぁ、確かにぃ。あの必死さは、逆にちょっと怪しかったよねぇ?」

 

 とか……。


「こっきゅりさん、こっきゅりさん……百合の美玖みくちゃんが将来恋人として付き合う相手は、誰ですか……」

「こ、じ……し、ゆ……り⁉ って、えーっ⁉ コジシュリ⁉ 天保山46の、小島こじま珠里しゅり⁉ うっそーっ! やっばーっ!」

「あっ、確かにぃ。この前カラオケ行ったときぃ、美玖ちゃん、天保山46の曲歌ってたよぉ。あれって、そぉゆうことだったんだぁー?」

「いやいやいや……いくらなんでも、現役アイドルと付き合うとか無理があるわよ。今の、絶対二人のうちのどっちかがふざけて動かしたんでしょ?」

「もおーうっ! 美玖ちゃんが現役アイドルと恋人になる可能性だって、あるかもしれないじゃーんっ! 月子ちゃんってば、夢なさすぎーっ!」

「いや、陽鞠が夢見すぎなのよ……」


 とか……。



 それが本当かどうかなんて、どうでも良かった。

 本人たちに確かめたりもしなかった。

 そのころの彼女たちは、ただただ無邪気に、何も考えずに「こっきゅりさん」をして、その結果を楽しんでいたんだ。


 それがやがて、あんなことになるとも知らずに……。

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