第28話 最前線へ

 この日は週末。

 ゆっくりとゲームができる日だ。

 この日ついに極一突は最前線である天国ステージの第三エリアに挑戦する。


 「よーっしっ! お前らぁ! 行ける所まで行くぞぉ!」


「「「おう!」」」


 第三エリアへ入る。

 各エリアはパーティ、もしくはクラン毎に別のインスタンスエリアになっている為、他のパーティやクランと被ることはない。


 だからこそ攻略法も他のクラン、パーティがどうやって攻略したのかが分からないのだ。だからこそ、情報屋が潤うゲームなのだが。


 「天使来てるよー」


 前を歩いていたアルトがいち早く天使の接近に気づいた。ここまで来ることができる俺達には天使などは取るに足らない。


 いつもの様に笛で落としてバカラさんが叩いている。それも段々と種類が出てきて、剣を持っていた天使は、槍を持つようになり、リーチを出してきた。これにより、笛の効果範囲の中まで攻撃が通るようになってしまった。


 少し前の方で笛を使わないとアルトが攻撃をくらってしまう。シルドが防げばいいのだが、数が多いので捌けなかった時がこわい。


「アルト、下がった方がいい」


「おk」


 俺が声をかけるとシルドの後ろに下がったアルト。その後ろにはバカラさん、俺は先頭である。一番後ろはシルフィが陣取っている。


 所々を雲が壁のように行く手を阻んでいてこちらを揺さぶってくる。

 

 少し顔を出したら頬をレーザーが掠めた。


「魔法で応戦してきてます! シルフィ!」


「任せるのですわ!」


 雲の壁から少し顔を出し敵がいる方向を確認したシルフィは、だいたいの狙いで魔法を放った。


「零度砲!」


 ────ズンンッ


 当たったかは分からないが、俺が先に出る。全速力で駆け抜け狙いを定めていた一体の天使の体を真っ二つに切り裂く。


 残りは凍りついて倒れていた。トドメをさしてドロップアイテムに変える。


「流石シルフィ! 狙いバッチリ!」


「一体打ち漏らしていましたわね。申し訳ないですわ」


「全然! この位は俺が対処できるよ!」


「マセラ様…… 」


 何やらホワンとしているが、そんな空気にしている場合ではない。また天使が魔法を打ってきた。


 同じように対処していきエリアも後半に来たと思う。要塞のような雲があり雲の隙間から魔法を放ってきている。


「シルフィが各個撃破だ! あとはマセラ、突っ込んで蹴散らしてこい!」


 バカラさんの指示が飛ぶ。


「なんか俺だけ特攻みたいになってますよ!?」


 光魔法のレーザーが飛んでくるなか、ジグザグに躱しながら雲の要塞に突っ込んでいく。入口が見当たらないので、天使が魔法を放っている穴にタイミングを見て突っ込む。


 刀を突き立てて天使を倒すと奥に進む。すると、建物のように各部屋につながっているような通路に出た。


 片っ端から部屋のようなところに入っていき天使を後ろからドンドン切りつけて撃退していく。シルフィが撃ち落としている場所もあったのでとばしながら端から端まで駆ける。


 片付いたところでこっちに来るように呼びかけた。呼びかけたのには理由があって、通路の奥に裏に抜けれる道があったのだ。


 そこを抜けると神々しい天使がいた。


「良くぞここまで来たな。我はガブリエルなり。我の並列魔法を前に無事に帰れぬであろうな」


 そういうガブリエルの周りには球体の光が滞空していた。それも六つである。


「マセラ!」


 ────ィィィィィィィ


「ぐっ! 小癪な! しかし、魔法までは落とせまい!」


 下の雲に膝をつきながらガブリエルは滞空させていた光の玉からレーザーが放たれた。

 咄嗟に横に跳躍して転がり何とか避ける。再びガブリエルへと駆ける。


「くらいたまえ!」


 六つあった光の玉が俺の行く手を阻む。六個同時に放たれてレーザーが迫る。


「ぐっ!」


 体勢を低くして刀に手を当てたまま下の雲スレスレを駆ける。

 肩口をレーザーが焦がすが、これだとHPは問題ない。


「はっ!」


 俺は抜刀して切りつけた。


「ふん! この程度まだまだだ!」


 腕をきりつけただけだったようだ。まだまだガブリエルは動ける。


 ───ィィィィィィィ


「ぐっ! こ、小癪な!」


 体が地面に引き寄せられているかのように膝を着く。


「ふっ!」


 抜刀して首を狙ったが、仰け反らせて躱される。しかし、俺の仕事はここまでだ。


「陽動ご苦労」


 仰け反った先の頭上にはバカラさんの拳が待ち受けていた。


 ────ドコォォォォンッッ


 潰れた天使はそのままダメージエフェクトが溢れ、ドロップアイテムに変わっていった。


「ギャハハハハハハハ! 俺たちが、最前線だぜぇぇぇ! ヒャッハァーーーー!」


 両手を広げて点を見上げ雄叫びを上げているそのバカラさんを見て、思った。


(俺よりバカラさんの方がイカれてるんじゃないだろうか?)


 周りのみんなの顔を見ると皆も口が引き攣っていた。そして、あまり近づかないように離れてみていたのだ。


「よっしゃぁ! どうせ今日は時間があるんだろ? このまま第四もいっちおうぜぇ?」


「ワレはいいが、みんなは?」


「ワイもいいけど、休憩せんで大丈夫なん?」


「僕、ちょっと休みたいな……」


「ワタクシも疲れましたわ」


 みんな疲れているようなので、今日はやめた方がいいのではないだろうか。その気持ちを悟られたのがバカラさんに凝視された。


 (ヤバッ。どうしよ)


「マセラ? お前はどう思う?」


「えーっと、皆がモチベーション高い時に挑まないと、綻びが起きてデスペナくらうと思うんですよ。だから、今日の午後は、祝勝会ってことで、どうですか? ねっ? お祝いしましょうよ! せっかく最前線クリアしたんすから!」


 俺の言葉は宙に消え、しばし沈黙の時間が流れた。逃げ出したい気持ちに駆られながらなんとかそこにとどまる。


「ギャハハハハ! それもそうだな! よぉぉしっ! 祝勝会だ! 極に行こうぜ! いや、まだ時間はある! リアルで飲もうぜ!」


 その言葉でまた皆の顔が引き攣ったのであった。


 あれ? 俺余計な事いった?

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