第23話 ラジエル

 この日は、第一エリアで天使を落とせることが判明したのでそのまま進むことにしたのであった。


 なんと、パーティーをこの人数で組むと凄い敵が襲ってくることが判明した。

 俺がソロで現世ステージクリアを出来たのはそういう要因もあったようだ。


 この笛は半径十メートルの範囲が効果範囲みたいなので結構近くまで来てから天使が落ちるからそれはそれでやりづらかった。


 バカラさんが片っ端から殴りつけて倒していき、打ちこぼしや勢いがつきすぎてそのまま襲いかかってくる天使もいた。それは俺が対処したから被害は出なかった。


 数が多かった為、シルフィが魔法で近付く前に蹴散らしていく。この前あげた氷の心臓を付与した杖が完成していてそれを存分に使って氷漬けにしている。


「マセラ行った!」


「はぁい」


 一応本来はシルドさんが盾になるんだが、この状況は前にいられると邪魔になるので、戦法として止めている。


 エリアボスになれば活躍する時が来るだろう。

 結構長いこと天使を倒していたと思う。

 現世ステージより一エリアがデカいのを実感したころ。


「おっ!? 見ろよ! 何やら神々しい天使様がいるぜぇ?」


「我はラジエル。天国と現世を見張るものなり。ここからは天の領域である。立ち去るがよい」


 警告のようなものを発している。


「嫌なこったぜ! マセラ、笛!」


 ────ィィィィィィィィ


 俺は肺にあるいきを全部使って笛を精一杯吹いた。ラジエルなる天使は雲の上に落ちた。


「よっしゃ! 楽勝!」


 バカラさんが殴ろうとするとラジエルの身体が薄くなっている。そのまま拳を振るうが素通りしてしまう。


 バカラさんが目を見開いて固まっていると再び実体化したラジエルが光のレーザーを放ってくる。


「バカラさん!」


 バカラさんの体を掠めた。それだけで大部分のHPがもっていかれた。これが極振りの貧弱なところである。

 一芸に特化しているが、他がボロボロだ。


零度砲れいどほう!」


 シルフィの氷属性のレーザー魔法が放たれる。

 ラジエルの体にあたり凍りつかせる。

 これで同化は出来ないんじゃないかと思うが。


「出番だぞ!」


 バカラさんに言われるのと同時くらいだったんではないだろうか。全力速で駆け出していた俺はもうすぐでラジエルの元にたどり着くところだった。


 ラジエルは俺に光のレーザーを放ってきた。

 それをスライディングする事でかわす。

 頭のすぐ上をレーザーが通り髪の毛をジリジリと焦がす。


 肉薄してすぐに首を目掛けて斬り付ける。

 少し浅かった。

 すぐに返す刀で再び切りつける。

 それでも浅い。


 ラジエルはこちらに手をかざす。


「っ!」


 咄嗟に射線から外れるように下がる。

 頬の横をレーザーが過ぎ去る。

 このままでは近付けない。


「時間稼ぎご苦労」


 ラジエルの後ろには口を釣りあげたバカラさんが光を放つ拳を振り上げていた。

 何かのスキルのようだ。


「終わりだ」


 振り下ろされた拳はラジエルの頭の上部に凄まじい音をさせて衝撃を与える。

 その頭からダメージエフェクトが溢れ体が崩壊していった。

 残ったのはドロップアイテムだけだった。


「よっしゃ! マセラ、いい仕事したやないか! 流石や!」


「ワレは、役に立たなかったな」


 キンドはマセラを褒め、シルドは役に立たなかったことを嘆いた。


「僕は見てただけ」


「ふふっ。ワタクシは役に立ちましたわ」


 アルトとシルフィは正直である。


「いやぁ、良かったですよ。決めてくれて。危なかったぁ」


「ギャハハハハ! いやぁ、同化するなんて能力持ってたからヤバかったけど、シルフィ! よくやった!」


 凍らせた事により同化を防いだのだから、今回のMVPかもしれない。


「当然ですわ」


 髪をかきあげて得意げなシルフィ。


「今日は戻りますか?」


「そうするか。マセラ、またネムちゃんの所で飯食いてぇんだろ?」


 俺が問いかけると意図を察したようでニヤリと笑いながら逆に質問されてしまう。


「そうです!」


「じゃあ、皆で第一クリア記念に飯食いに行くか!」


 バカラさんの提案でみんなで食べに行ったのだが、予想外の事態が起きた。


 目の前には定食屋『膳』の入口。

 そこにはプレートが掛けられていた。

 プレートには『準備中』とあった。


「えっ!? 休み!?」


「あー。ちゃんと休みがあるんだな」


「俺の毎日の楽しみがぁぁぁぁ」


 頭を抱えて地面に伏す。


「まぁ、他のとこにしようや」


「マセラ、たまには別の店で食べるのだ」


 キンドさんとシルドさんに諭される。


「いやだぁぁぁぁ」


「ギャハハハハ! マセラ、よかったじゃねぇか!」


「何がですか!?」


 俺は思わず、くってかかった。


「ネムちゃん、休みの日があるってことだろ?」


「というと?」


「休みの日に食事にさそったらどうだ?」


 俺はその言葉に衝撃を受けた。

 それは盲点であった。

 定食屋で食べることばかり考えていたが、そう考えればチャンスがあるって事か。


「なるほど! ネムさんどこー!?」


 探すために街をさ迷うのであった。


「ワイは恥ずかしいわ」


「ワレは清々しささえ感じるがな」


「僕はやっぱり恐い」


「ワタクシもあそこまで愛されたいですわ」


「ギャハハハハ! あー面白ぇ」


 マセラ、頑張れ。

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