第20話 攻略とネムさんの手料理

 笛を手に入れた次の日、リハビリ終わりにインしていた。

 攻略まで少し時間がかかるかもしれないが、強行でクリアすると決めた。


 インした現天獄の中は昼間で、日光がサンサンと照っている。


「おぉー。なんか変な感じ」


 うーんと伸びをする。

 最近は足の感覚がインした時は動くものだという認識にしっかりと変わっているため、違和感がない。


 街を出ると第一、二、三と露払いをしながら駆け抜ける。第四は靴を履き替えて駆け抜ける。白い狼とか出たりするが早いだけで大したことは無かった。


 第四はいきなりエリアボスに行っちゃったみたいで、通常の魔物がでることは無かったんだけど。


 第五に入ると雪はなくなり空が近くなる感覚に陥る。木々の抜けた先には青空が広がっており、山頂であることを認識させられる。


 そこまで一気に駆ける。


 途中でキノコのような魔物が行く手を阻んだ。

 胞子を撒き散らし、体には良くなさそうなので吸い込まないように注意し、連続攻撃で屠っていく。


 ドロップも胞子袋だった。一体何に使うのか分からないが、一応取っておくことにした。


 その後も何体かキノコが出てきたが胞子袋を落とすばかりだった。


 山頂に着くとエリアボスが居るはずだが、見当たらない。

 少しキョロキョロしていると、飛んでいた。


 あれは……亀?に羽が生えている。

 だから、鳥類じゃないって言ってたんだ。

 あれって踏めばペコッていって倒せるんじゃないのか?

 完全に土管工の人のゲームに出てくる敵じゃないか。


 こっちに来ないので、笛を吹いてみる。


 ────ブゥゥォォォォォ


 急にこっちに迫ってきた。

 俺もカウンターで迎え撃つべく構えて待つ。

 ただ突っ込んでくる。


 タイミングを合わせて首を斬りに行く。

 すると、当たると思った瞬間に首を甲羅の中にしまった。

 やられた。


 咄嗟に跳躍して背中を踏みつける。

 翼が消えた。攻略法これじゃん。


 また首を出した。

 そこを居合で斬る。


 一撃加えると首を引っ込めた。

 引っ込めたまま出てこないのでまた笛を吹いてみた。

 するとすごい煩わしいような顔をして顔を出す。


 そこを連続で斬りつけダメージを加えていく。

 この方法が分かるとそれを何度も繰り返し、やがて亀は力尽きた。


 【レベルが上がりました。】

 【レベルが上がりました。】


 ドロップは羽根である。

 このアイテムは使用すると羽を生やす事が出来、飛べるようになるらしい。


 皆これをドロップすれば、天国で戦えるんじゃないか? そう考えたが、俺が考えるようなことはみんなが考えているだろう。


 そこで現世エリアをクリアしたことによるエンドロールのホログラムが流れる。

 空に映像が流れ現世が魔物に支配されたこと、そして攻略者が降り立ち解放するために奮闘していること。


 このゲームの設定がそれによりわかった気がする。次の天国も天使に支配されているという話が流れると映像は終わった。


 俺はさっさとネムさんのご飯を食べに行くことにした。


 行くまでに報告しておこう。


◆極一突グループチャット


世:第五、クリアしました!


馬:おぉ!? 遂にクリアしたか! キンド行ったのか?


金:行ってまへん。


有:次はこっちに合流だね


宍:ようやく一緒に攻略できるな


風:流石ですわ! マセラ様! 一緒に攻略できるなんて幸せ


世:皆で攻略するのを楽しみにしています!


宍:ハッハッハッ! まさかホントに一人で攻略するとはなぁ。しかも最速ではないか?


馬:だなぁ。恐らく最速だろうよ。ギャハハハハ! 最速の称号はマセラのもんだな。


有:たしかに早かった


風:楽しみですわぁ


世:じゃあ、天国へは明日顔出しますね!


馬:明日なら夜インできるわ。少し話そう


世:はい! では、これで! 俺はネムさんの定食を食べて寝ます!


馬:行っちまったな。あいつホントに凄いやつかもな。


金:せやから恐いねん。


有:明日マセラも交えて下見しよう


宍:ホントに毎日ネムちゃんのとこに行くんだな。ワレもルルちゃんとこでパン買ってるけど


風:シルドも同じじゃありませんか


馬:有罪


金:有罪


有:重罪


宍:なんで重くなるのだ!?





 チャットしながら戻っていた俺はまた定食屋『膳』の前にいた。


 引き戸を開けると笑顔のネムさんが待っていた。


「あら? 今日も来てくれたのね? マセラさん!」


「はい! 今日は、第五をクリアしてきました! 明日は天国へ行ってきます」


「ついに、現世ステージをクリアしたのね。おめでとう! 今日は私のお祝いの気持ちよ。お代はいらないわ」


「えっ!? でも……」


「いいのよぉ! いつも食べてくれてるから! ちょっとまっててね」


 そういうと奥へ消えてしばらく戻ってこなかった。不思議に思って心配していると、一つの定食を持って出てきた。


「これは、ホントに私が作った定食。生姜焼き定食は練習中なの。いつもは私の手料理じゃないけど、これはホントに私の手料理よ?」


 込み上げてくるものがあった。

 嬉しい。

 一口食べると生姜の風味が鼻に抜け、甘塩っぱい味が口に広がる。本当に美味しい。愛情がスパイスになっているかのように、いつものより何倍も美味しく感じた。


「美味しいよ。ネムさん。本当に美味しい。俺は幸せ者だ」


「ふふふっ。味わって食べてね?」


 ウインクすると奥に消えていった。


 これがNPCだって?


 俺はその事の方が信じられないね。

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