第10話 一寸法師と親指姫 後編

 オレの名前はコタロウ、隣の美女はアヤメ。

 お互いに『一寸法師』と『親指姫』と言われたモノだ。


 オレを死ぬ目に合わせた公家連中の屋敷が眼前に広がっている。

 復讐の時が訪れたのだ。


「すまないなアヤメ。

 こんな事の片棒を担がせてしまって。」

「いいえ、旦那様。

 私も彼らに苦しめられました。

 意趣返しは臨むところです。」

 オレの弁に笑顔で答えるアヤメ。


 身体のサイズを最大限に利用して無事に潜入したオレたち。

 さて屋敷を歩いていると、座敷牢のようなところに幽閉されている子供が居る。

 見慣れない服装の童は『doüdyドウヂ』と名乗った。


 彼の足枷を外し、座敷牢から逃がす手伝いをする。

 途中、仲居の人々とすれ違いひと悶着起こしかけるが、アヤメの傀儡使いマリオネットによって、不審がられること無く『doüdyドウヂ』を逃した挙げ句、公家連中の寝室に潜入する事もできた。


 家主の首筋を切り裂き、失血死をプレゼントしていくオレ。

 アヤメは傀儡使いマリオネットを使い、彼らの動きを封じてくれたおかげで、手間なく始末が出来た。


 その夜から、『後亀山天皇』の息が掛かった公家衆の邸宅にて、次々と家人たちが変死を遂げる事案が発生する。

 陰謀論から呪術の話まで、京都みやこでは、いろいろな噂話が飛び交っていた。


 さて、無事に目的を果たし、桂川の袂に佇むオレとアヤメ。

 すると、『doüdyドウヂ』が、どこからともなく狸のような青いロボットの首根っこを抱えたままオレたちの前に現れる。


「君の友達を失いたくなければ…。」

「わ…わ…分かってるよ!」


 童の腕を振り払うと、青いロボットは腹のポケットから道具を取り出す。

「ビッグライトぉ~!」

 取り出した懐中電灯を照射すると、見る見る大きくなっていくコタロウとアヤメ。

 やがて、コタロウはたくましい好青年に、アヤメは誰もが見惚れる麗しの令嬢になった。


doüdyドウヂ』は、狸のような青いロボットに声をかける。

「君の友達は、あそこだ。」

「あぁ~~、のび◯くぅ~~ん!!」

doüdyドウヂ』の指さした先に倒れている黄色い服の子供の名を叫び走り去る青いロボット。


「さぁ!

 これで、あなた方も人並みの生活が送れるでしょう。」


 コタロウの袴の脇には、日緋色金ヒヒイロカネが怪しく輝いている。

「行こうか、アヤメ。」

 明るい色のワンピースに、フレアスカートを重ね着したアヤメは、コタロウの右腕に縋る。

「ええ、あ・な・た。」


 歩み去る二人の姿をにこやかに見送る『doüdyドウヂ』だった。


 時に南北朝時代末期。

 南朝第四代の『後亀山天皇』が北朝第六代の『後小松天皇』に皇位を譲位し、新しい時代が始まろうとしていた。

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