第7話 桃太郎 後編

 ここは『鬼ヶ島』と言われた離れ小島。


 桃太郎部隊が上陸を果たした翌日の事。

 桃太郎が目を覚ますと、東屋の天井が目に入る。

 左右に首を振れば、部下たちは気持ちよさそうに眠っている。


「起きられましたか?」

 桃太郎が声の方に顔を向けると、女の白鬼がゆっくりと桃太郎の近くに来てしゃがむ。

 ゆっくりと体を起こし、変な頭痛に襲われてしまう桃太郎さん。


「二日酔いですよ。

 飲み過ぎたんですね。」

 コロコロと笑いながら、水を手渡してくる女の白鬼。

 喉の渇きを覚えていた桃太郎さんは水を受け取り、一気に飲み干す。

 頭痛が少し治まったところで、桃太郎は女の白鬼に尋ねる。

「ここは何処ですか?」

「ここは『鬼ヶ島』にある、村長の屋敷です。

 皆さん、宴会で盛り上がった勢いのまま浜辺で寝て居られましたので、こちらに引き取った次第です。」

 桃太郎はハッとして腰に手を当てると太刀エモノが無い!


「武器でしたら、床の間に置いておきました。」

 女の白鬼が指さした先、床の間に子分たちの武器ともどもに置かれている太刀エモノ


「貴方たちは、我々を恐れないのか?」

 桃太郎は語気を強めるが

「飲み仲間を一方的に排斥は出来ませんわ。」

 コロコロと笑って答える女の白鬼だった。


 ◇ ◇ ◇


 村長に正対するように桃太郎部隊が居並んでいる、ここは屋敷の中央座敷。


「…では、あなた方は村人を襲ったり、街を襲撃したことは無いと?」

「ええ、我々の果実酒と野菜などの食料を物々交換してもらいたく、村や街に伺うことはありました。」

 桃太郎の質問に村長が答える。


 桃太郎が、鬼退治の状況を思い返すと、たしかに白鬼と荷車を引いていた黒鬼はおどろおどろしい姿では有ったが、攻撃的意思はなく、返って自分達のほうが辻強盗ではないかと思う程だった。


「桃太郎殿、鬼たちの襲撃に村人や町民たちが困っています。

 どうか、貴殿のお力で鬼どもを退治して下さい。」

 そう言って、自分達を送り出したのは、気の弱そうな地元の代官であった。

 しかし、彼の言葉に反し、村人や町人たちの鬼に対する反応は、極めて良好だった。


 そして昨夜の宴会での出来事についても…少なくとも鬼達かれらは友好的であった。


「だとするなら…。」

 桃太郎は立ち上がり、子分たちも同じように立ち上がる。

 村長に深々と頭を下げると、中央座敷を…そして屋敷を後にし、自分達の乗ってきた小舟で鬼ヶ島もあとにした。


 目指す先は、あの気の弱そうな地元の代官である。


 ◇ ◇ ◇


 ここは代官屋敷の中央にある座敷。

 池を臨む中庭には錦鯉が泳いでいる。

 その座敷に居るのは、あの気の弱そうな地元の代官と廻船問屋「伊勢屋」の大旦那が向かい合って座り、指しす指されつでお酒を飲んでいる。


「伊勢屋よぉ、ソチも悪よのぉ~。」

「いえいえ、お代官様程ではありませんよ。」

 下卑た笑いを浮かべ、酒を酌み交わす二人。


 -- さて、ここでBGMが流れ始める、曲名は『ヘッドライト・テールライト(中島 みゆき)』 --


 そして、中庭に一人の鎧武者が登場する。


「ひと~つ人世の生血を啜り」

 ゆっくりと太刀の束に手をかけ


「ふた~つ不埒な悪行三昧」

 太刀を引き抜き


「みっつ醜い浮世の鬼を」

 正眼の構えに入り


「退治てくれよ桃太郎」

 不敵な笑みを浮かべる桃太郎


 -- ここで画面は止め絵となり、カラーからモノクロへ、そしてセピアへと変わっていく。

 その間に、BGMは『サビ』から『間奏』に入り、田口トモロヲの名調子でセリフが発せられる。 --


「桃太郎の…誕生である。」

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