第3話 人魚姫 後編

(さて『復讐』を唱えたdoüdyドウヂという少年は、何をしようというの?)

 不安を抱えながら、城の自室で夜明けを迎える人魚姫。


 室内に浸透してくる朝日を浴びた肢体は泡となって消えることはなく、心地よい朝を迎えたことに安堵する人魚姫。


 すると、ドアをノックする音が部屋に響き渡る。

「どうぞ。」

 人魚姫の言葉に誘われ、部屋に入って来たのは、くだんお嬢さんフィアンセだった。

「プレセア様、お身体の具合は大丈夫ですか?」

 白々しく問いかけるお嬢さんフィアンセに、憎しみの眼差しを向けようとする人魚姫プレセア

 その一瞬の刹那にdoüdyドウヂの言葉が、彼女の心に去来する。

『あれを掌中に収め、手籠めにしてみても良いのでは有りませんか?』


「ありがとう、ミリア。

 私は大丈夫ですよ。」

 作り笑いの仮面を付け、お嬢さんミリアに視線を送るプレセア。

「ああ、良かった。」

 ミリアは我が事のように安堵した顔になっていた。

(この子、こんなに真剣に心配してくれる、良い子だったの?)

 プレセアの心に一つの瑕疵かしが芽生えた。

「プレセア様のお元気な様子を拝見でき、安心しました。」

 そう言って扉を開き退室しようとするミリア。

「ミリアっ!」

 そんなミリアを呼び止めてしまったプレセア。

「はい?」

 想定外の言葉にビクッとして振り返るミリア、その眼は赤く腫れ上がり、眼の下にもクマが出来ている。


 昨夜のパーティーで突如浮上した、王子の許嫁候補発表と、その後の後見人論争ゴタゴタで、眠ることも出来なかったのだろう。

 にも関わらず、プレセアの心配をして駆けつけるミリア。

 プレセアこそが、王子の許嫁候補に相応しいと誰もが言っていた中での、突然の指名で、或いは気が動転してしまったのかも知れないミリア。

 何故か、その姿に危うさと愛おしさを感じてしまったプレセアは、思わずミリアを呼び止めてしまったのだ。


「ミリア。

 …あなたが良ければ、少しお話をしませんか?

 お茶菓子も用意しましょう。」

 しばらく立ち止まっていたミリアではあるが、小さく頷くとプレセアのもとに戻ってきた。

 すると、プレセアは当たり前のように優しくミリアを抱きしめ、額に接吻をした。


「私、王子様を敬愛することが出来ません!」

 驚いたことを口走る娘、ミリアである。

 しかし、よくよく話を聞けば、ミリアは政略結婚の道具でしかないこと。

 あまつさえ、嵐で遭難した船から王子を始め多くの諸侯を救助された上に、王子をお慕いしている恩人たるプレセアを蔑ろにするなど、有ってはならないと力説までする始末。


 そして、会話の最中プレセアはジッとミリアを観察していた。

 ミリアは、持てる美貌に反して、純真無垢で潔癖な性格の持ち主、そこが愛らしいところであり、危うく感じられ、母性本能を擽られてしまう。

 いつの間にか、ミリアにゾッコンになってしまったプレセア。


 二人は意気投合すると、ある作戦を練り始める。

 王子の排斥?


 そんな、生温いお話しじゃすみませんよ!

 国家転覆の方ですよ!

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