第4話 変身シーン
次の日。
今日は久しぶりに二人の休日だ。だから、「デートしよ!」と
「それで。何処へ出るのですか」と
いつもはラフで
可愛らしい丸いハートのペンダントはそのまま。「肌身から離さないように」と葦月から注意を受けているからだ。
なぜ外してはいけないのかは教えてもらっていない。だが、いつかは教えてもらえるだろう、とあまり気にしていない。
「うーん。あ、そうだ。この間話題になってたスイーツ食べたい!」
「ではそこに行きましょう。……あの周辺だとショッピングモールも近いですし、退屈はしなさそうですね」
元気いっぱいに答える橙花に、葦月は頷く。これで主な行き先は決まった。あとは買い足す必要のある生活用品や興味の惹かれるものを見る事になりそうだ。
「きみが行きたい所はないの」
「行けば思い付くでしょうね」
彼の行き先への希望を問うてみるも、曖昧な返事しか返ってこなかった。
きっと、どこに何を売っているのかも興味が無いのだろう、と橙花は思っている。だから、その場に行って目に付いた物達に興味を向けるのだ。
葦月が敵幹部だった時はもう少し計画的だった気がするな、とは思うもののそれでもいいかと橙花は思い直す。
多分、彼がしっかりと計画を練った際にはその窮屈さに橙花の方が音を上げてしまうだろうから。
それから用意を済ませ、「はやくはやくー」と急かす橙花の声を背に葦月は自宅に施錠を施した。
「急かしてもスイーツは逃げませんよ」
「なに言ってるの。話題だし人気なんだから、遅れたら売り切れちゃうんだよ!」
「……話題が過ぎた後でも良いのでは」
「それじゃあ意味ないの!」
頬を膨らませる橙花に葦月は「そういうものですか」と首を傾げる。この世界の人間、特に若い女子についてはさっぱり分からない、と嘆息した。
若い女子についてがよくわからなかったために、己達は
「そうなの!」
言いつつ橙花は歩き出す葦月の手を握り込み、恋人繋ぎにする。
しっかりと繋いだ両人の手は、互いの温度を手のひらを介して互いへと伝わる。橙花の手の柔らかさ、葦月の手の硬さ、互いの指の長さや骨や筋の張りに血管等、作りの違いがありありと感じられる、特別な繋ぎ方だ。
「この繋ぎ方、どうにかなりませんか」
ちら、と葦月は一瞬だけ視線を手元に向けた。大人だと言うのに柔らかくふにふにな手の触感に、葦月は少し、いや、かなり動揺していた。表情には一切も表出していないが。
「良いじゃん、減るもんじゃないし」
橙花は逆に主張するように少し手を強く握る。彼女の手の柔らかさがより強く葦月は感じ取る。
「こちらの精神的な何かが、減りそうなんですが」
「なんでさ」
と言い合いする合間に『
「せっかくのデートだったのに!」と眉を寄せて周囲を見回した。それと同時に、するり、と繋いでいた手を離す。それに一瞬、葦月が表情を歪めたのだが、周囲に気を取られている橙花が気付くことはない。
周辺に人の気配はないらしい。この場所はまだ
それに、変身の瞬間はただの人間には見えないので人の目を気にする必要もない。
「ごめん、ちょっと行ってくる!」と橙花は鞄から丸いコンパクトケースを取り出し、構えた。
×
「『レインボーパクト』!」
掛け声に応呼し、コンパクトが虹色に光る。それから橙花を中心に周囲に強い光と風の奔流が起こった。
「『オレンジ・フラワー』!」
強い光と風の奔流の中で、橙花はコンパクトを開き、内蓋の丸型ミラーに自身の姿を映し取る。すると彼女はオレンジ色の光に包まれ、14歳程度の少女の姿へ変わっていた。
それから虚空より現れた、オレンジ色に輝くリボンが腕や胴体、脚部へと巻きつき、花びらのような粒子を溢しながら衣装へと作り変わってゆく。
腕に巻き付いたものは手袋や長袖の上衣へ、脚部に巻き付いたものは太腿丈のストッキングソックスへと。
胴体に巻き付いたものは胸元の飾り付きのリボンや細かな意匠を作りながら変化した。
出来上がった衣装は橙色と白を基調とした、フリルやレース、リボンたっぷりの可愛らしいブレザー風のロリータ。膝上丈のスカートとフリルカフス、手袋、シュシュで結われたサイドテールが特徴的だ。
「元気になれるビタミンカラー、幸せを告げる『フロースオレンジ』!」
ビシッ! とポーズを決めた所で、パチパチと手を叩く音がした。
「いつ見ても鮮やかですね」
夫の葦月である。それを自覚してから彼女はさっと頬を朱に染めた。彼は
つまり、目の前で変身していた際、その最中を見られていた……かもしれない、ということだ。名誉のために他の
「何見てるの! 早く避難してよ! 危ないよ!」
「……分かりました」
やや渋々とした様子で、彼はその場を離れた。元々は敵幹部だったとしても、現状では『
だから、何も出来ることはないはず。
「じゃあ行ってくる!」
タン、とやや厚底のヒールブーツで地面を蹴り、彼女は高く跳んだ。
×
「たぁっ!」
勢いよく『
その衝撃で『
「よくも、せっかくのお休みだったのに!」
見事に私怨であったが『
「はっ!」
短い掛け声と共に素早い蹴りが繰り出される。それを受け、『
それが建物に当たれば衝撃で建物は砕け、凹む。
「あちゃー。直るかな、そこ」
小さく呟きつつ、
「『オレンジ・ショット』!」
虚空から取り出した可愛らしい銃を『
「よし。これでしばらく『
額の汗を拭う動作と共に、橙花は一息吐いた。いつも、戦闘直後に建物類の修復は行われるが、それは
だから、壊れた箇所周辺に向けてあえて力を放出し、修復の範囲を拡げる。
実際、集団の
「そもそも、ひとりじゃあ必殺技なんてそう使えないもんなぁ」
頬を掻き、小さく呟いた。それに、どうやってやるのかも知らない。
×
それから、付近の
そして『
駆け付けた魔法少女達が去った後、人気のない場所へ移動した。
「……よし、大丈夫そう」
周囲に人が居ない事をよく確認してから変身を解除した。するすると衣類が解けて光となって消え、みるみるうちに身軽になって行く。
「もう、出てきても良いよ」
「バレましたか」
そしてすぐ近くの物陰より夫の
その残骸は柔らかいハートのような形をしている。
「調べるの?」
「はい。しかしまあ、後ででも良いので」
そう言いつつ葦月は受け取った残骸をガラス瓶の中に放り込み、手荷物の中へと仕舞った。そして
「どうぞ」
「え、なに?」
葦月は片手を差し出す。その意図が汲めずに橙花が首を傾げると
「手を、繋ぐのでしょう」
そう、
一瞬、呆気に取られた。だが、彼が頑張って橙花が喜びそうな事を考えてくれたのかと思うと、自然と笑みが溢れた。
「えへへー。ありがとう」
差し出された手を
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