能面イケメンと弱気・病弱な泡吹き姫の私が夫婦になり、溺愛されながらも公務をこなす! ~愛人候補がいます~

夕日ゆうや

第1話 結婚からのセカンドライフ!

「ここにキャリー=アンナソンと、ジークフリート=カーターベルの結婚を祝福します!」

 牧師の言葉で湧く民衆。

 これから私はキャリー=カーターベルになる。

 この領地・カーターベル領の長。その奥さんになるのだ。

 これからは普通の生活はできないと思って欲しい。ジークにはそう言われた。

 でも私はジークが好きなのだ。好きで好きでしょうがなかった。

 だから私は彼と結婚することにした。もちろんジークも了承した上で、だ。

 甘い結婚生活が始まったかと思えば、公務があるらしく、明後日には朝見ちょうけんの儀があるらしい。現領主へのあいさつをすませ、新たな領主になるための儀式だとか。

 ドレスを用意してもらい、すぐに試着してみる。

 体系には自信がないけど、そこは従者の腕の見せ所。

 あっという間に私のサイズにあったドレスを用意してくれる。

 試着だけでも五十種類ほどあり、その中で選ばれた衣服は飛ぶように売れるという。

 試着するだけでも体力を使った私は、なんとか似合うドレスを選ぶ。

「キャリー様の仰る通り、綺麗な花柄ですね」

「ありがとう」

 私が否定していたらどうなるのだろう。

 この国でも右腕と呼ばれるカーターベル家。その上様じょうさまになったのだ。

 肝っ玉の小さい私だけど、ジークと一緒になれたのは嬉しい。

 いつも弱気な私を支えてくれるの。

 現領主のアーロンとベラ。

 私は膝がガクガクと震える。

「大丈夫だよ。キャリーならできる」

 ジークがそっと後ろからバッグハグをして、ささやく。

 もう。そんなことされたらドキドキしちゃうよ!

「大丈夫」

 ジークはそっと頭を撫でてくれる。

「ん。ありがと」

 にへらと相好を崩しジークに甘える。

 爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。

 弱気で臆病ものの私をいつも気遣ってくれる。

「もう。大丈夫」

 私はそう言ってジークと一緒に屋敷に向かう。

 ジーク充電をばっちりと決めた私は幌馬車に乗り込み、ドキドキする気持ちを抑え込む。

 自分の感情を殺すのは得意だった。誰にも悟られずに恋を消した日々。

 でも今の私は違う。

 恋をなかったことになんてしたくない。

 だってこんなにも素敵な彼と出会ったのだもの。

 幌の窓枠に羽休めした小鳥をみたジークは窓を開けて、小鳥を送り出す。

「さ。小鳥さん、おゆき」

 優しいし、クールで格好いい。何よりイケメンだし。

 小石に乗り上げたのか、ガタンと音を立てて揺れる幌。

 私は体勢を崩し、ジークに寄りかかる。

「ご、ごめんなさい」

「いいんだよ。もう夫婦なんだから」

 クスッと笑みを零すジーク。

 この可愛い姿を私にしか見せないというのは、本当だろうか。

 前まではいつも堅い表情を浮かべていたけど、今はそうではない。

 能面のうめんと言われていたジークも柔らかくなったよ。

「どうした。不思議な顔をして?」

「ううん。なんでもない」

 ふふふと笑みが零れる。


 現領主の二人のもとにたどり着くと、大きな屋敷がそびえ立っていた。

 部屋数は二十を超えており、母屋だけでなく離れも見える。

 屋敷手前の庭は、緑豊かでトリのさえずりも聞こえてくる。

 大きな噴水が透き通った透明な水で沸き立つ。

 銅像や草木の庭園が迎えてくれているようだった。

 こんなにも大きな家に、しかも従者メイドが三十人を超えている!?

 私は泡を吹いて倒れそうになるが、ジークがそれを支えてくれる。

 気弱な私はこの屋敷と迎え入れてくれるメイドだけで、泡を吹いてしまった。

 虚弱体質だし、気弱だし。で私はショックを受けるとすぐに泡を吹く。

 泡吹き姫というあだ名をもらうほどだ。

 姫って言われるのはちょっと嬉しかったりする。

「これから、このお屋敷で三日間滞在してもらいます。明日には朝見ちょうけんの儀が始まります。それまでごゆるりと」

 メイド長らしき人物が前に出てそう告げると一歩下がり、道を空けてくれる。

 私は怖ず怖ずとジークの隣を歩く。

「そんなに怯えなくとも大丈夫だ。ここにいるのはみんな、キャリーの仲間なんだから」

「で、でも。平民の私が貴族になるってよくない顔をすることも多いですよね?」

「ははは。世の中、そんなに怖くないよ」

 困ったように頬を掻くジーク。

 優しく私の髪を撫でてくれる。

 もう。私の夫ってば、優しいんだから!


 割り当てられた部屋に行くと、調度品と最低限の設備がそろっていた。

「何かあれば、このメイドにお召しつけを」

 そう言ってドアの前で一礼するメイド。

 私が持ってきた荷物はあまり多くはない。

 本邸があるのだから、今回は旅行みたいなものだ。

 持ってきたのは衣服くらいだ。

 疲れた身体をそのまま、ベッドに預ける。

 ふかふかで気持ちいい。

 でも本邸にも似たようなふかふかベッドはあるもの。

 目新しいものは何もない、かな。

 本棚に目を向けると、そこには読んだことのない本がいくつか。

 私は本を読むのが好き。

 だって未知の世界へ行けるのだから。

 学術書もあるみたい。

 勉強していれば、何か役立つかもしれない。

 それに領主の奥様となれば、求められる技量も違うでしょう。

「キャリー。いるか?」

 ノックの音とともにジークの声が耳に届く。

「は、はい!」

 本をさっとしまうと、ジークがゆっくりとドアを開ける。

「ん? ああ。本を読んでいたのか。邪魔をしたな」

「いいよ。どうしたの?」

「ああ。そろそろお腹が空く頃合いだと思って、食堂に一緒にいかないか?」

 そう言われてると、もうお昼過ぎだ。

 十三時だ。

 きゅぅぅうと腹の虫が鳴る。

「す、すみません!」

「いや、まさかお腹で返事を返すとはな。ははは」

「もう! ジークの意地悪!」

「まあ、いいよ。来て」

 手を伸ばしてくれるジーク。

「はい」

 その手をとり、二人で食堂に向かう。


 長机に椅子が何個も並んだ食堂。

 その上手にはジークが座り、私はそのそばに座る。

 領主がいないことに泡を吹きそうになるが、押しとどめる。

「あ、あの……」

「ん? なんだい?」

「アーロン様とベラ様は?」

 アーロンは現領主。ベラはその奥様。

「ああ。二人ならとっくに食事を終えているよ」

「そうなのね」

 ホッと胸を撫で下ろす。

 ジークの両親とはいえ、初対面になる方々だもの。しかも地位が高いときている。

 私でなくとも心臓がバクバクいうのは当たり前だと思いたい。

 食事はよく分からなかった。

 説明を受けたけど、何がなんだか分からないし、緊張で味が分からなかった。

 貴族ってこんな高級そうなものを食べているんだ。

 そうは思った。

 これからはそういった知識も身につけなければならない。

「ごちそう様でした」

「ふ。キャリー、よく頑張った」

「え。ただ食事をしただけだよ?」

「だって、食べ物の名前や種類を熱心に聞いていたじゃないか。俺ならテキトーに返すというのに」

 そう言われるとジークは表情一つ変えずに食べていたっけ。

「もうちょっと美味しく食べることはできないの?」

「そう言われてもな。俺には味の濃い薄いくらいしか分からん」

 貴族なのに貧乏舌らしい。

 それを見てクスッと笑みを零す。

「おかしいか?」

「はい。とっても♪」

「まあ、キャリーは笑っている方が可愛いからな」

「か、わ……!」

 顔が赤くなるのを自覚しつつ、顔を背ける。

 と、メイドと目が合った。

 クスっと笑みを零すメイドさん。

 もう恥ずかしいったらありゃしない。

「もう。からかわないでよ。ジーク」

「何を言っている。大真面目だぞ?」

 ジークは能面のように表情を変えることなく頷く。

 じゃあ、私が笑うと可愛いのは本気で思っているのね。

 なんだか恥ずかしい。

 気弱なせいか、すぐに恥ずかしくなる。

 もっと耐性をつけなくてはジークと一緒にいられない。

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