第14話 再始動
隼人たち四人が訓練を開始してからさらに数日後、教官から会議室に集まるよう指令が入った。
それまでの間も彼らは二人での、あるいは四人での訓練に明け暮れ、今までとは比較にならないほどの力と絆を手に入れていた。
もちろん隼人たちは今までも自身の身体能力や異能をコントロールする訓練は行なっていたが、ルーラーが現れるまでは自身の異能そのままの力でも事足りていた。敗北を経験し、力が足りないと感じた彼らの訓練に対する真剣さ、思い入れはこれまでと一線を画している。たった数日間だったとはいえ、その間は全てを訓練に費やすことができた彼らの強さはもはや別人と言って良いほどであった。
隼人が奏衣の件に何か進展があったのだろうか、それともこれからの屍界探索の件なのだろうか、そう思いながら会議室に入ると、そこには奏衣以外のチームメンバー全員が既に集まっていた。
奏衣も復帰できるかもしれないという隼人の微かな希望は早々に打ち砕かれたが、それでも彼女を救うと決めたことは揺るがない。
隼人が部屋に入ってしばらくすると、彼らの教官である莉沙がゆっくりとした手つきで扉を開けて中に入ってきた。ルーラーが発見されて以降初めての集会、当然だがその足取りは重い。
「……集まってるわね。始めるわ」
四人の前に立った彼女は隼人たちを見回し、少しだけ目を見張った。
「もう少し気落ちしているかとも思ったのだけれど、無用な心配だったみたいね。心強いわ」
その言葉に顔を見合わせる隼人たち。この教官にしては珍しい言葉に自然と笑みが溢れる。基本的に厳格で厳しいことばかりを言う彼女がここまで驚き、賞賛するのは隼人たちの記憶にある限り初めてだった。
そんな隼人たちを見てわずかに表情を緩めた莉沙だったが、すぐにその表情は再び引き締められた。
「当然だけど、良いとは言えない報告が続くわ。覚悟するように」
「……はい」
「まず祈さんの件。率直に言えば、何も分かっていないわ。良いことも悪いことも、何一つね。どのような悪影響があるのか、他のメシアにも同様のことが起きる可能性があるのか、全て分かっていない。強いて言うなら進行しないことに関してはメシアであることが関係していると考えられているけれど、それもあくまで予想よ」
「そう、ですか……」
会議室が沈鬱な空気で満たされる。これでもう本当に、奏衣を治す手がかりはルーラーしか残っていないということになる。
「次に、今後の任務について」
その空気のまま莉沙は話を続ける。心を鬼にしてでも伝えることが彼女の仕事であり、遅らせても何の意味もないのだ。
「しばらくの屍界探索は範囲を縮小、今までに踏破済みの地点のエニグマを掃討することに決まったわ。ルーラーという異常個体がいる以上、あまり危険は冒せないというのが理由ね」
「教官、奏衣は……」
そこで口を挟んだのは隼人。普段であればあまり誉められた行為ではないが、今回は状況を鑑みて莉沙も彼を諌めてはいない。
「無理ね、まず許可が降りないわ。ですから今後、あなたたちには四人で屍界探索をしてもらうことになるわ」
「……はい」
一縷の望みに縋った隼人だが、直ぐにそれも断たれてしまった。
駄目ではなく無理。この決定は彼女の意思ではない、そのことは隼人にも伝わっている。それに、危険性を考えれば連れて行けないということも理解はできた。
だからといって隼人が気落ちしないというわけではない。見るからに肩を落としている隼人だが、誰にも何も言うことはできなかった。
「そのことにも関連して、あなたたちにはこの街に近い地域を担当してもらうことになったわ。一人少ないあなたたちをあまり遠くへは行かせられない。分かるわね?」
「はい」
「よろしい。とりあえず連絡はこんなものね。探索は明日から再開するわ。何か質問は?」
そこで声を挙げたのは澪だ。
「教官、ルーラーが現れてから屍界に出たメシアはいるんですか?」
「いないわね。全員安全圏内で待機させていたわ」
「分かりました。ありがとうございます」
そう言って一歩下がった澪。それを見て、教官は再度口を開いた。
「小柳さんの言う通り、今の屍界はどうなっているか分からない。街周辺であれば目視で監視は続けているけれど、少し離れればどう変わっているか定かではない、いわば安全圏成立初期に近い未知の領域よ。気を引き締めて頂戴」
「はい!」
他には、という莉沙の声に答えた人はおらず、その日の会議はそれでお開きとなった。
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