第6話
安徳天皇の伝説によると、その後出家して、亡くなるまでお寺からは出なかったと言われている。母親の方は寺に着いて、すぐに亡くなってしまったそうだ。お墓もお寺の敷地にあった。
俺はひたすら山道を登っていたが、誰にも会わなかった。
三十分くらいかけて寺の建物のある山頂までたどり着いた。そこには、以前見たままのお寺がいつも通り建っていたが、やはり誰もいなかった。普通はお坊さんなどがいるんじゃないだろうか。前は意識していなかったから、人がいたかどうかわからないが、無人ということはなかったと思う。普通はお守りを売ったりするところに人がいるもんじゃないだろうか。俺はお寺の賽銭箱の近くまで行って、10円を入れて手を合わせた。
「妹が見つかりますように」と、俺は祈った。妹の供養云々ではなく、俺が見つけて注目されるためだったと思う。
お布施や賽銭で10円玉一枚を入れるのは縁起が悪いらしい。
10円は遠縁になるという意味になり、語呂がよくない。
しかし、小学六年生にそんなことがわかるはずがなかった。
本堂はしんと静まり返っていて、誰もいないのだが、ちょっと奇妙だった。
本尊の目の前に線香とろうそくを手向ける場所があるのだが、そこに立っていたろうそくと線香はどちらも火がついていた。線香がどのくらいの時間燃えるかなんて正確には知らないが、ついさっきまで人がいたであろうことは容易に推測できた。
俺は取りあえず寺の境内を回った。人がいたら話しかけるというわけではないが、誰かいればほっとするだろうと思った。
しかし、そこには誰一人いなかった。なぜかわからない。
ちょっと気持ちが悪くなって来た。以前読んだ世界の不思議百科のような本に書いてあった、メアリー・セレスト号という幽霊船の話を思い出した。発見時、船内には直前まで人が生活していたような形跡があったというものだった。人だけが忽然と姿を消したと言われている。(事実ではないが、超常現象の本などにはこのように記載されているものが多い)
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