私を…探してください……。

進藤常吉

第一話 『赤い傘の老婆』

私がまだ学生だった頃。

日本でも有数の繁華街であるこの街の地下には、大きく広がる地下街があった。

いや、地下街自体は今でもあるのだが、人々が格好の待ち合わせ場所として利用していた噴水広場があったのだ。


1日の利用客が40万~60万人ともいわれるこの場所は、それこそ人であふれ、待ち合わせ相手さえ人混みに紛れてしまうこともあるほどの賑わいを見せていた。


しかし、誰かと待ち合わせをしている時に、いつも決まって目に入る老婆がいた。

ちょこんと噴水のわきに佇み、なにやらぶつぶつとつぶやいている。

まだ若かった私は、特に気に掛けることもせず、どこか不気味な感じのする老婆を出来るだけ視界に入れないようにしながら待ち人が来るのを待っていた。


携帯電話の普及した現代では考えられないが、当時は家を出てしまったら連絡を取ることは非常に困難で、「じゃあ先にお店に入っておくね」などと相手に伝えることは出来ない。

相手が来るまでは待ち合わせ場所から動くこともできず、「まだかなぁ……」などと思いながら周囲を見回していたのである。


時には友人。時には恋人。

何度となくその場所で待ち合わせをし、待ち人を待った。

あふれかえる人たちがひっきりなしに流れてゆく。

もう二度と会うことのないであろう人たち。

もしくは、会ったことさえ気づかないくらいの人たち。


しかし、なぜかその老婆だけは、確実に同一人物だと確信していた。

いつも決まってその場所に佇んでいたからなのか……。

焦点の定まらぬ目で、なにやらぶつぶつと呟いていたからなのか……。

それとも、雨の日も晴れの日も、いつも必ず持っていた赤い傘が、あまりにも色鮮やかだったからなのだろうか……。







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