第22話
七月一日 四神学園大学中庭 特設リング 九時四十五分
「さぁ、第一試合の興奮醒めやまない中の第二試合! 赤コーナー、相撲部、大田原大悟!」
百九十三センチ百十キロという、学内でも有数の巨体がリングインする。まるで、ひとつの大きな岩がそこにあるような、そんな安定感すら感じさせた。
「青コーナー、アマチュアレスリング部、佐原誠!」
対角のコーナーに上がった佐原は、大田原の巨躯を前にしても落ち着き払っていた。なにか、勝算があるかのようでもある。
「大田原先輩。伝統芸能がこの大会に出るなんて、怪我しても知りませんよ?」
早速、佐原が挑発する。相撲を格闘技とする者にとっては、伝統芸能と括られるのは最大限の侮辱である。だが、大田原は意外に落ち着いていた。
「相撲がただの伝統芸能だかどうだかは、やってみれば分かるさ」
佐原の挑発にも動じることなく、淡々と言葉を返すのみ。彼は彼で自信を充分に持っていることが窺い知れる。
「さぁ、第二試合どうなるか! 今、開始のゴング!」
「な、なにが起きたんスか、賢治先輩!?」
「わからねぇ……久遠サン?」
結果から言えば、試合は秒殺試合だった。
リングの上で起きたことがまるで理解できず、困惑するプロレス研二名。久遠も少し驚いた表情で、リングの上を見つめている。
「立ち合いからの、ぶちかまし――今、リング上で起こったのはそれだけだよ。いや、驚いたな。ここまでの立ち合いをこの大会で観ることができるとはね」
リング中央で仁王立ちする大田原の足元で、佐原が伸びている。それが、この試合の結果に他ならない。観客もなにが起きたのか理解できない様子で、ざわざわとざわついている。
「試合のゴングとともに大田原くんが仕切りの体勢になった。そのまま、佐原くんにぶちかましを決めてみせて、一撃KOというわけさ。相撲のぶちかましの衝撃は一説には一トン以上にも達するというからね。それをまともに受けてしまったら、ああもなるさ」
久遠の解説に、賢治と陽子も事態を飲み込んだ。プロレス研としても、相撲の実力は高く評価するところだったので、そこまでの驚きはない。
「となると、準決勝第一試合はプロレス対相撲か。なかなか見ごたえのありそうなカードじゃあ、あるが……久我山の野郎も佐原みてぇになっちまうか?」
賢治の疑問には、久遠も迂闊に答えられない様子だった。
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