Rp.8・高高度心理戦
「あ、出て来たぞ!」
ようやく大樹とのえるが立ち上がれるようになったころ、残りの二人が現れた。
「おーい、どうだったー?」
勢い込んで大樹が感想を聞きに行く。
「すっごい楽しかった、ね、悠!」
「お…おう、そうやな」
またしても悠星の顔色が悪くなっている。
「カエデは、こういうの、得意なのか?」大樹が尋ねた。
「うん、私ホラー映画大好きだから!ああ、一人でもう一回入ってこようかなあ?いいとこで悠にしがみつかれて邪魔されちゃってさあ」
「あ、ああ…そう。」
楓はほらほら、と言いながら悠星の背を押してベンチに向かわせる。
うまく悠星にポイントを稼いでもらう算段だったが、どうやら確率の神様のバチが当たったようだ。神様ごめんなさい、と小さくつぶやく大樹だった。
園の中央にある時計台が、テーマソングのチャイムで正午を告げる。
4人はメインストリートに面するレストランに入り、マスコットキャラの名を冠したランチを注文した。
ちょっとしたキャラ飾りの付いたスプーンがおまけに付いて来るといった、正直高校生が喜んでいいものか迷う特典付きだ。しかし楓とのえるはどうしても欲しいと言って譲らなかったのだ。
キャラは水色基調デザインのイルカっぽい男の子「ガルフィンくん」と、サンゴをモチーフにしたピンク基調の女の子「リーファちゃん」の2種である。大樹と悠星はそれぞれのおまけを女子組に渡すことにした。
「ええの?」「うわ、ありがとう、愛してるよ二人とも!」
「愛が安すぎる上にバラマキすぎる。もう少し小出しにしろカエデ」
体をくねらせて喜ぶ楓に、大樹が苦言を呈した。
「でも、はなみんはええなあ。ウチが同じことやったらささっちにすごい目で睨まれんねんで。チッ、て舌打ちされながら」のえるがぼやく。
「ええ、本当なの、ヒロ?あたしの妹分に何してくれてんのよ」
おおよしよし、と大げさにのえるを抱きかかえて慰める楓。
「すごい告げ口するじゃん…返してもらおっかなあ」大樹もぼやき返す。
「あ、うそうそ、ウチも愛してるて!おおきにささっち!」取り返されてなるものかと小さなスプーンをがっちり抱え込む。どうやら恨みより物欲が勝るようだった。
昼食後は動きの激しいものを避け、観覧車に乗ることになった。4人掛けのカゴにそれぞれのペアが向かい合って座る。今回は大樹の隣が楓、正面にのえるという形になった。
「それにしてもヒロ、ずいぶん大きくなったわねえ。なんセンチあるの?」
なんだか親戚のような言い草だった。
「180くらいだよ。カエデだって、だいぶ伸びただろ?」
「あたしは今176だね。これでも中1のころはのえると同じくらいだったんだよ?」
「でもはなみん、夢の170台やん、羨ましいわ」
のえるのその言葉に大樹と悠星は顔を見合わせ、そしてうつむいた。
「え、どないしたん、ウチなんか変なこと言うた?」
「あ、いや…」大樹が不安そうなのえるに曖昧な返事をして目をそらす。
「まあ、ウソが下手なのが、のえるのええところや」悠星がフォローした。
「………あ!」
のえるが自分の失敗に気付く。彼女は自称179cmなのだ。おそらく最近、とうとう正確な測定結果が出たのだろう。
「や、やってもうた…」
真っ赤になって頭をがっくりと落とす。大樹は気安く触っていいものか、ちょっと迷ったが、自分の膝の前に来た茶髪の頭を「よしよし」と言いながら撫でて慰めた。
4人の乗ったカゴが最上部に近づいた。
「ちょっと、悠、大丈夫?」
見ると悠星が冷や汗を流している。
「いや、実は俺、高いところ苦手やねん」
学校一のモテ男のくせに弱点多すぎだろ、と、大樹は心の中で舌打ちした。たぶんひと昔前の自分だったら、本当にしていたと思う。
「はいはい、これ、使いなさい」
楓がショルダーバッグからフリルの付いたハンカチを取り出す。
「す…すまんな」受け取った悠星が首筋をぬぐった。
「はなみんは女子力が高いなぁ、ハンカチ一枚でも女の子っぽいわ」
のえるが感心したように言う。彼女が「ウチなんて、ほら」と取り出して見せたハンカチは実用性重視のタオルハンカチだった。
「の、のえるが女子力やと?」
ハンカチ効果か、少しばかり復活した悠星が驚いたように言う。
「むっ」のえるが右手を掲げ、「脳天スパイク」の構えを見せる。「女子力ゼロのくせに、ってこと?」
「待て、のえる、誤解だ!」
悠星に助け舟を出そうと、大樹がそれを制した。んー?と、のえるが大樹に振り向き手の動きを止める。
「悠星はな、のえるが女子力を気にしたことに、純粋に驚いただけなんだっ!」
そう言い放ち、悠星に礼はいらんとばかりに大きく頷く。
「なお悪いわっ!!」
ズパアンと爽快なスパイクの音がカゴの中に響き渡った。さすがバレー部副キャプテンだけのことはある。
「あっ俺!?」そして目から火花を散らせた大樹は頭を抱えた。
「やめて、あんたたち、カゴが揺れるじゃない!」
そう言いながら楓は涙を流すほど笑っていた。
「あーあ、楽しそう。あたしも朋学館に行くべきだったかなあ」
しばらくして楓が言った。
「いや、もったいないだろ。」大樹は答える。楓の通っている高校は勢秀学院という、県内屈指の進学校である。行きたいからと言って、おいそれと行ける所ではない。
ふと気が付くと、悠星は目をそらし外をじっと見つめている。
――ひょっとしたら、あまり触れたくない話題だったのかも知れなかった。
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