第5話 検体実験

まあ、別に構わないんだけどな、どうせ捕まるつもりだったしさ。

抵抗しても無駄だってことは分かりきってるし、それなら大人しく従った方が得策だろうと判断したわけよ。

そんなわけで素直に捕まったんだが、その際にちょっとしたトラブルが起こったんだ。

それは何かと言うとだな、俺が捕まったのはいいんだけど、何故か俺だけが捕まってしまったんだよ。

つまりアンナとは別行動になってしまったというわけさ、しかもゴンザレス達も全員捕まっちまったらしくてな、

今じゃ俺一人だけが牢屋の中に閉じ込められているってわけなんだよなあ、

いや〜参ったぜこりゃあ」

そんなことを考えているうちに眠気に襲われてしまいそのまま眠りに落ちてしまったようだ。

次に目覚めた時には既に朝になっていて、牢屋の中で目が覚めた俺はとりあえず状況を把握するために周囲を見回してみたんだが、そこは薄暗い部屋だった。

窓はなく、あるのは鉄格子の扉だけというシンプルな作りになっているようだね。

そんなことを考えていると不意に声をかけられたので振り向くとそこにはゴンザレス達の姿があったんだ。

どうやら無事だったみたいだなと思ったんだが、よく見ると様子がおかしいことに気がついたんだよ。

何故か全員ボロボロの姿になってたんだよな、一体何があったんだろうかと思っているうちに今度は別の人物が現れたんだ。

その人物を見た瞬間思わず叫び声をあげちまったぜ。

何故ならそこにいたのはあの魔術師の男だったからだよ。

しかもそいつはニヤニヤ笑いながらこっちを見ていたかと思うとこう言ったんだぜ。

「やあ、おはよう勇者くん」

その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍りついたような気がしたね。

なぜならそれは、かつて俺が名乗っていたはずの呼び名だったからだよ。

何故こいつがそれを知っているのか不思議に思ったんだが、すぐにその理由を理解したんだ。

何故ならそいつは俺に向かってこう言ったんだよ、

「残念だけど君はもう勇者じゃないんだ」

ってな……それから続けてこうも言ったんだ、

君の役目は終わったんだってさ、それを聞いて愕然としたね。

まさかこんなことになるとは思ってなかったからな、だがもう遅いぜ。

俺は既に捕まってしまったんだからな

これからどうなるのか、不安で仕方なかったよ。

でも仕方がないよな、だってそうしないと殺されちまうかもしれないんだぜ?

そんなの嫌に決まってるじゃないか。

だから俺は仕方なく従うことにしたんだよ、それが最善の選択だと思ったからさ。

それにどうせ逃げられやしないしな、

それならいっそ開き直ってやろうと思ったわけだぜ。

というわけで早速尋問が始まったんだが、その内容というのが酷いもんだったね、

まずは名前や年齢なんかを聞かれたんだけど答えられるわけねぇだろうが、

それでもしつこく聞いてくるもんだからついキレちまったんだよな。

そしたら殴られて気絶させられたってわけさ、目が覚めた時には既に牢屋の中ってわけだよ。

「さて、それでは本題に入ろうか」

そう言って男が取り出したのは一枚の紙切れだった。

そこには何やら文字が書かれていたようだが読めないのでさっぱりわからない、

一体何が書いてあるんだろうかと思っていると、それを手渡されたんだが読めなかったんだよ。

「これは何でしょうか?」

そう尋ねると男は笑いながら答えたんだ、それはどうやら契約書のようなものらしいということが分かってきたんだけど、

その内容というのがとんでもないものだったんだよな。

なんとそこに書かれていた内容はこうだったんだ。

「お前はこれから一生、我々の命令に従って働くことになる」

いきなりそんなことを言われて面食らっちまったが、まあしょうがないよな。

だってそうしないと殺されちまうかもしれないんだぜ? だから従うしかなかったんだよ。

でもまさかそれがあんな事になるなんて思いもしなかったけどな……

(一体何をされるんだろう)

ドキドキしながら待っていると、男が近づいてきてこう言ったんだ。

「まずは服を脱げ」

そう言われたので素直に従ったんだが、何故か俺だけ裸にされたんだよな。

「お前は大事な検体なんでね」

「検体……?」

何のことだか分からないまま戸惑っていると、今度は注射器を取り出して俺の腕に刺してきたんだよ。

そして中の液体を流し込まれたんだが、それが何なのかは分からなかったぜ。

ただ、体が熱くなっていくような感覚に襲われて息が荒くなるのを感じたんだ。

しばらくすると段々と頭がボーッとしてきて何も考えられなくなったんだが、それと同時に体が疼き始めたんだよな。

まるで何かを求めているかのような感覚に襲われたがその正体まではわからなかったよ、

だが一つだけ言えることがあるとすればそれはとても気持ちが良かったということだな、

今まで味わったことのないような魔力だったと言えるだろう。

(なんだこれ?)

そう思った次の瞬間には気絶を迎えていたようで意識を失ってしまったようだ。

それからどれくらい経っただろうか、

「おい、起きろ」

という声と共に体を揺すられて目を覚ましたんだが、目の前にいたのは先程の男だった。

どうやらあれからずっと気を失っていたらしいな、

「魔力増強は失敗だ、また試すぞ」

「はい、わかりました」

そう答えながら立ち上がると、再びあの注射を打たれた。

すると今度は体が焼けるような熱さに襲われて思わず悲鳴を上げてしまったよ、

だがそれも一瞬のことですぐに収まったんだが、その代わりに力が漲ってくるような感覚を覚えたね。

(これは凄い)

そう思いながら周りを見回すと、そこには信じられないものがあったんだ。

魔法人形だった。

「魔力増強の効果を見る、目の前の敵を倒せ」

そう言われて、目の前の敵を倒してみると、自分でも驚くほどの力が出たんだよ。

(これが俺の力なのか?)

そう思った瞬間、俺は無敵になったような気がしたね。

それからというもの、毎日のように魔力増強の実験を繰り返したんだが、その度に新しい発見があって楽しかったぜ。

例えばなんだけどよ、魔力を込めることで武器や防具を強化することができることが分かったんだわ、

しかもそれは無限に使い続けることができるんだぜ。

「素晴らしい、この研究が成功すれば我々は最強の軍隊を手に入れることができるぞ!」

そう言って喜ぶ魔術師の男を見ながら、俺はあることを考えていたんだ。

「魔力増強はモンスターにも使えるんじゃ」

「なるほど、試してみる価値はあるな」

そして俺はモンスター狩りに出かけることになったんだが、そこでとんでもない奴に遭遇しちまったんだよ。

その化け物は全身が黒くて巨大な翼を持っていて、まるで悪魔のような姿をしていたんだ。

そいつは俺を見つけるなり襲いかかってきたんで慌てて逃げ出したんだが、途中で転んでしまい追いつかれてしまったんだ。

もう駄目だと思ったその時、突然目の前に現れた人物によって助けられることになる。

その人物とはなんとアンナだったんだよ!

(助かった)

そう思った瞬間力が抜けてしまいその場に座り込んでしまったんだけど、彼女が来てくれなかったら間違いなく死んでいただろうな。

その後俺達は無事に帰還することが出来たんだが、その際に色々と話を聞かせてもらうことができたぜ。

「ねえ、あんた一体何してたのよ?」

そう聞かれたので正直に答えることにしたんだ。

「実は俺、異世界から召喚された勇者だったんだ」

そう言うと彼女は驚いたような顔をした後でこう言ったんだよ。

「なるほどね、それであんなところで捕まってたってわけね」

(どうやら信じてくれたみたいだな)

そう思ったんだが、次の瞬間には何故か胸ぐらを掴まれていて壁に押し付けられていたんだ。

(え?)

と思っているうちに彼女の顔が近づいてきてキスされてしまったんだけど、すぐに離れていったと思ったらこんなことを言われたんだぜ。

「別に怒ってないから安心しなさいよね!それより早く着替えてきなさいよ!」

そう言って部屋を出て行ってしまったんだが、一体なんだったんだろうな?

まあ、いいかと思いながら着替えを済ませると、俺たちは食堂へと向かったんだ。

「さて、話を聞かせてもらうわよ」

そう言って彼女が切り出した話は衝撃的なものだったんだ。

「あの研究所でそんな事が」

「奴隷を買ってはあの研究所で実験に使って、 魔力増強の実験をしていたのよ」

それを聞いて思わず絶句してしまったんだが、更に驚くべきことがあったんだ。

なんとあの研究所が何者かによって襲撃を受けたらしくてな、生き残った者は誰一人いないらしいんだよ。

(一体何があったんだ?)

そう思った時、突然アンナが言ったんだ。

「貴方、これからどうするの?」

そう聞かれたので、俺は正直に答えたんだ。

「アンナと一緒に旅をしたいと思ってる」

それを聞いた彼女は嬉しそうに微笑んでくれたんだが、その後にこう続けたんだぜ。

「でもその前にやらないといけない事があるわよね?」

そう言われて思い出したんだが、そうだったな、まだやるべきことがあったんだったよ。

俺はあの研究所に忍び込んで奴隷を逃がし、魔術師の男を殺して復讐を果たしたわけだが、このままでは終わらなかったんだよな。

俺に追っ手をかけてきた奴がいるらしくて、そいつを倒さないとまた捕まってしまうかもしれないんだ。

「そうだな、でもその前に腹ごしらえをしようぜ」

そう言って俺達は食事を始めたんだが、そこでアンナがこんな事を言い出したんだ。

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