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椎奈ゆい

#1 告白

10/1 (木)


 青いラインの入ったヘッドホンを付けて帰宅のバスを待っている女子高生、一色いしき あおいに一人の男子高校生が声をかけた。


 「~~~~・・・。」


 葵は気づかずに一人の世界に没入している。


 ブレザーの下に青のカーディガンを着て、スカートの丈は少し短く、胸元には紺色のリボン。学校指定のバッグには、アニメのキャラクターのキーホルダーをいくつもつけている。墨を頭のてっぺんからひっくり返したような漆黒の髪は艶やかで、毛先にかけて外側にはねている。

 

 「一色さん」

 ヘッドホンを取って振り向くと同じクラスの今井いまい 凛久りくが立っていた。


 背は高めで体は少し細い。整ってはいるが薄く特徴がない顔。制服はボタンを第二ボタンまで外して、ブレザーの下にパーカーを着ていた。

 ブレザーの下にパーカーて。寒い季節にたまに男子がよくやっているスタイルだが、正直これはダサいと葵は思っていた。


 「今井君?なに」

 今井凛久は休み時間によく会話する程度の仲だった。


 「ちょっと話したいことがあるんだけど、いいかな」

 ふと周りを見回すとさっきまでいた三人組女子高生の姿がない。まさか、いま目の前で出発しようとしているあのバスはあたしが乗るはずだったバスじゃないだろうか。

 停留所にさっきまでいた人たちはみんなバスに乗り込んでしまったらしく、バス停には葵とこの男しかいなかった。


 「一色さんのこと気になってて・・・その・・・一色さんが良ければだけど、つっ・・付き合ってくれない・・・?」



 ・・・・・・・まじか。


 男子に告白されたら・・・、と葵も一度は考えたことはあるが、いざその立場に立ってみると、嬉しいとか嫌とかいう以前に・・・なんだろこの感じは。


 困惑


 そう、この言葉は一番しっくりくる。


 今井とは、授業の合間によく話す仲ではあるが、彼がどんな人なのか、葵は全然知らない。

 お互い黙ったまま気まずい時間が10秒ほど続く。


 なにか言わなくては


 だが、なんというべきか、

 迷う。


 「あのさ・・・」

 さらに20秒ほどたってからようやく葵が口を開いた。ゆっくりと息をしながら純粋な疑問を告げる。



 「あたしのどこがいいの?」


 なんだその質問は。もっとマシな聞き方があるだろ。

 と自分でツッコミを入れてしまう。


 これでは自分のいいところを言わせて、相手を試すようではないか。

 葵もまんざらではなく、相手の出方によっては告白をOKしてやらんでもないという風な言葉にすら聞こえる。


 「えっ・・っと・・」

 ほら、相手が言葉に詰まっているじゃないか。「ごめんっ・・・・・・あのっ」とっさにさっきの質問を訂正しようとすると、


 「なんか自分を持っているっていうか・・」


 「は?」

 今井から思わぬ返答が返ってきた。


 「周りに流されないところとか・・・・・・、かっこいいなって。そのっ・・素敵だと思ったから。一色さんのそばにいて、一色さんのこといろいろ知りたいと思ったんだ」

 

 「・・・・・・・・」


 嬉しいような、恥ずかしいような。

 いままで味わったことのない感覚が葵の胸にこみあげてきた。


 顔が熱い。

 もう夏は終わってるはずのに。

 自分がいまどんな表情をしているのか絶対に見られたくなくて、思わず下を向いた。


 さっきの言葉が頭をよぎる。

 周りに流されないところが素敵ってなんだよ。


 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

 思考が追い付かなくなってきてる。


 葵が黙っていると、答えに悩んでいると思い込んだのか

 「まあ・・・考えておいてよ!んーーー・・・来週、いや、今度の日曜日!どこかでかけようよ。その時にまた聞かせて。」

 と今井が言った。


 え、

 これはまずい。非常にまずい。


 完全に断るチャンスを牽制されてしまった。

 「じゃあ、日曜日の10時にどっか出かけよう!詳しいことはまた連絡するから。じゃあね!」

 「あっ・・・うん。また」


 今井は一方的に約束を取り決め、手を振って学校の方へ戻っていった。残された葵はひたすら困惑するばかりでもはや手を振り返すことしかできなかった。強引な奴だと思う。

 

 男子から告白された。

 初めての体験だった。


 中学生の時、誰と誰が付き合ってるとか、別れたとか、そんな話をただ横目に見ているだけだった葵が、告白される立場になるとは思いもよらなかった。

 初めての体験に恥ずかしいような嫌なような・・


 20分ほど待って次のバスに乗り込んで帰る間、脳みそがふわふわとしていた。

 さっきまでの体験が信じられない。あれは現実だったのだろうか。


 なんだか自分が自分ではないような、不思議な感覚を覚えながら家に帰った。



***


10/2 (金)

 

 葵のいつも通りの日常は一変していた。

 駅へ向かう道中、バスの中、ずっとふわふわとした感覚に襲われていた。


 昨日の出来事が頭から離れない。


 「アオ?」

 クラスの友達、鈴木すずき茉莉まりが話しかけてきた。


 「んー?」

 「どしたん?なんかぼーっとしてない?」

 「そーお?」

 「なんかあったん?」

 「う―――ん」


 葵は昨日の出来事を茉莉に話した。男子に告白され、今週末に二人で出かけることになったこと。その出来事が衝撃的過ぎて昨日からふわふわとした感覚に襲われ、授業に集中できないこと。

 

 「え!!告白って・・ま、、じ?」

 茉莉は葵より高いテンションで言った。

 「まじまじ」

 「えー-やばやば・・」


 興奮している茉莉とは裏腹に、葵は告白された衝撃と週末のデートのことで頭がいっぱいだった。


 「どうしたらいいかわかんないんだよね・・・男子ともまともに話したことないのに、二人きりで出かけるなんて・・・」


 「あ―――、確かに・・」

 「服とかなに着てったらいいんかな」

 「いつもアオが着てるやつでいいじゃん」

 「あんなの着てったら引かれるでしょ」

 「そうかなあ」

 「そうですよ」


 とにかくいろいろと準備しなくては。男子ってどんな服が好みなんだろう。髪とか巻いたりしたほうがいいのかな。アイロン、お姉ちゃんから借りるか。


 「男子ってどんな服が好みなのかな」

 「あ―――、確かに。どんなだろ」

 「ちょっと調べてみよ」


 スマホで「女性 服装 男子ウケ」と調べてみる。とにかく勉強だ。


 「あ、そだ。アオ」

 「なに?」

 「昨日新作更新してたね」

 「そう!見てくれた?」

 「見ました。サイコーでした」

 「ふふふ・・ありがとう」


 「相変わらず服のしわ描くのうまいよなー肌の質感もめっちゃ描くの綺麗だし」

 「ありがと、めっちゃ褒めてくれるやん」


 葵は趣味で自分の描いたイラストをSNSに投稿していた。

 といっても全然有名とかではなく、友達数人と、ネットで知り合った同じ絵描きさんと絵を見せ合って「素敵です!」と全肯定しあってる程度である。


 茉莉はそんな葵の数少ないフォロワーの一人で、葵の新作イラストが更新されるといつもその話をしてくれた。

 茉莉は自分で絵は描かないが、見るのが好きらしく、いろんな絵描きさんをフォローしている。茉莉も葵も漫画やアニメが大好きで、最近話題のアニメの話や、お互いが大好きな作品の話をよくしていた。


 「いま、また新しい絵描いてるよ」

 「えー-、どんなやつ?みせてみせて」

 「いいよ」


 葵は写真のアプリを開こうとスマホを開くとさっき調べようとして途中になっていた「女性 服装 男子ウケ」という検索画面が出てきた。


 男子のために服装を変えるなんて。デートって、相手の好みに合わせて、上っ面の自分を演じなくちゃいけないのかな。

 あたしがアニメオタクであることも隠しておいた方がいいだろうか。バッグに括り付けたアニメキャラのキーホルダーを見つめる。



 デートするの大変だな・・・



 「アオ」

 「え?」

 「まーたぼーっとしてるよ」

 「ごめん、今、絵みせるね」


 なんだかうわのそらの親友を、茉莉は心配そうに見ていた。



***


10/2 (金)夜


 今井凛久はパソコンにかじりつきながら「う―――ん」と唸っていた。日曜日のデートに向けてデートプランを練っていたのだ。

 先日、クラスの女子、一色葵に人生初の告白をした。


 今年の4月に高校二年生になり、クラス替えがあった。

 そのとき、葵と初めて出会った。


 二回目の席替えで、彼女の斜め後ろの席になった。

 最初は特になにも意識することはなかったが、斜め前に座った彼女の姿は、自然と今井の視界に入っていた。

 ある時、葵が授業中にノートになにか書いているのを見た。なんだろうと気になってよく見てみると、絵だった。

 とても綺麗な絵だと思ったので、授業が終わったあと話かけた。


 それが葵と初めての会話だった。


 最初はぎごちない会話だったが、絵のことについて今井が質問すると、とても嬉しそうにこの描き方はどうだの、ここの線をこだわっているだのと話してくれた。

 今井は絵のことなどまったくわからなかったが、楽しそうに話す彼女の笑顔はとても可愛らしいと思った。その笑顔が見たくて、今井はその後も、授業の合間に話しかけに言った。


 彼女の描く絵はたいてい女子高生の絵で、アニメ系の可愛いイラストではなく、三次元の人間に近い絵柄で、体の動き、肌や服の質感を繊細に表現していた。

 彼女曰く、自分の中に表現したいものがあり、それを絵で形にしていくのがとても楽しいのだという。


 今井は自分の考えをあまりもたず、他人に合わせてばかりなところがあった。そんな自分に嫌気がさすこともよくあった。

 葵の絵はどこまでの自分らしさを貫いていくような勇敢さを感じた。自分が持っていないない葵のそんな一面に今井は惚れたのかもしれない。



 気づけば彼女を好きになっていた。




 デートプランはいろいろと調べていく中である程度固まってきた。今井の検索履歴は先日から「初デート スポット」だの「女の子 デート」「高校生 デート」といったキーワードで埋め尽くされていた。


 ○○駅に10時に待ち合わせ。駅近くのショッピングモールで映画を見て、そのあとは女子が好きそうなおしゃれなカフェにいくことにする。

 プランがある程度決まり、ほっと一息つこうかと思っていたところで



 電話が鳴った。

 葵からだった。


 昨日学校であった際に電話番号を交換していたのだ。

 好きな人からの突然の電話で少し動揺する。心臓を落ち着かせ、平然を装いながら電話に出る。


 「もしもし」

 「あ、今井君?こんばんは」

 「あ、こんばんは」

 電話で聞く葵の声は少し低く、大人っぽく聞こえた。


 「どうしたの?」

 「急にごめんね。いま時間ダイジョブ?」

 「大丈夫だよ!」

 「日曜日のことだけどさ」

 「あっ、そう!いま集合時間とか連絡しようと思ってて・・・」

 「あっ、いやそのことでさ。日曜日の約束だったと思うんだけど、土曜日にしてもらってもいいかな」


 「いいけど、どうしたの?」

 「あっ・・えー-っと・・その、日曜日に用事ができちゃって」

 「いいよ」

 「ありがと」

 「どこに何時集合にする?」

 「○○駅に10時でどうかな?」

 「わかった。じゃあ、土曜日にね」

 「うん」


 なんだか、このまま電話が終わるのが少し寂しい気がした。もう少し話したくて電話を切らずにいた。だが、なにを話していいのかわからない。

 「今井君?」

 「あっ、えっと・・・」


 くそ、なんか話題、話題話題話題話題


 「土曜日、」

 わだ・・え?

 まさか葵の方から喋ってくれた。


 「楽しみしてるね」

 「あっ・・うん俺も・・」

 「じゃあね」


 すでに電話が切れているスマホの画面を今井はしばらく見つめていた。

 楽しみにしてる、か・・・・


 土曜日のデート、絶対彼女を楽しませなくては。

 その日の夜は興奮でなかなか寝付けなかった。



***


10/3 (土)


 今井凛久は約束の30分前に待ち合わせ場所である○○駅で、そわそわしながら待っていた。

 電話で待ち合わせの時間を伝えてしまったのが少し心配だったので、念のため前日にLINEで「10時に○○駅集合で!よろしくね!楽しみにしてる!!」と送っておいた。


 女の子と二人きりで出かけるのは生まれて初めてだった。昨日の夜までしっかりデートプランを練って、服も妹に頼んで新調してもらった。

 白のTシャツの上に黒のジャケット。茶色のズボンに黒のスニーカーという服装だった。

 ファッションにはとことん疎い今井には、これがデートにふさわしい恰好なのか、不安で仕方なかった。


 妹曰く、

 「結局無難なのが一番だから」

 ということでこの服装になったが。


 まだ待ち合わせ時間まで相当時間がある。スマホでもう一度今日のデートプランを復習しながら、そわそわ待っていると


 「おは。早いね今井君」


 後ろから声をかけられた。

 「え、一色さん?」

 まだ待ち合わせの30分前だというのに、葵はもう来てしまった。


 ピンク色のセーター、その胸元には金色のネックレス。灰色のスカートからは黒のタイツを履いた葵の細長い足が伸びていた。少し赤みがかかった透明感のある髪は毛先に向かってふわりとゆるかなカーブを描いている。

 

 学校とはかなり異なる彼女の雰囲気に、今井はすこし驚いた。初めて見た私服と、メイクをしていることもあるだろうが、学校で会っている葵とはまるで別人のようだった。

 

 「今日はどこいくの?」

 葵にそういわれ、はっと気が付いた。


 「あ、今日はね」

 しまった。つい見惚れていた。今井は練りに練った今日のデートプランについて説明した。近くのショッピングモールにある映画館へ行って映画をみて、その後おしゃれなカフェへ行くというプランだった。

 

 「映画ってどんな映画?」

 「あっ、それはね『君が落とした星空』っていう、いま旬の俳優さんが出てて、人気なんだって!」

 今井は、映画の公式サイトをスマホで見せながら言った。


 今旬の映画を調べて、女の子でも好きそうなタイトルということで選んでみた。

 葵は今井に体を寄せながらスマホを覗き込んで「ふーーーん」とつぶやいた。彼女の白い顔が近くに寄せられる。まぶたに引いたピンクのアイシャドウが彼女の鋭く大きな目をより際立たせていた。葵のつややかな髪からふわりと爽やかなリンゴの香りがした。

 

 「いいね、いこ」

 葵は顔を上げ、嬉しそうににこりと笑った。

 


***


 映画のチケットはすでに二人分買ってあった。もし混んでいて席が空いてないことにならないようにするためだ。

 葵が別の映画を希望する可能性も考えたが、席がなく、映画が観れなくなることの方がリスクの方が大きいと判断した。

 休日ということもあり、映画にはたくさんの人がいた。


 「俺、ポップコーン食べようかな。一色さんは?なんか食べる?」

 「ん――――・・私はいいや。今井君食べたかったら買ってきなよ」


 葵が食べないのに自分だけ食べるわけにはいかないので、「じゃあ、俺もいいや」と言った。


 「なんで?食べたかったんじゃないの?」

 「でも一色さんが食べないのに俺だけ食べるわけにはいかないでしょ」

 「・・・別に気使わなくていいのに」


 葵は少し不服そうに言った。

 映画館はすでに会場していたので、二人で並んでスクリーンに入っていった。



***


 映画の内容はまあ、中の上というか。ベタな恋愛映画という感じだった。ただ主人公の悩み葛藤は共感できる部分が多く、それなりに感動した。


 「映画どうだった?」

 葵の方は楽しんでもらえただろうか。


 「うん、すごく面白かった!今井君は?」

 「全体的なストーリーがよかったかな。最後の展開は結構泣けるし。」

 「あー-、確かにストーリーよかったね」

「一色さんは?どこがいいと思った?」


 「・・・・え?」

 「さっきの映画、どこがいいと思った?」

 「あーーー、私普段恋愛映画とかあんまり見ないからわかんない・・・」

 「えっ、そうだったの?普段はなに観てるの?」


 「普段は・・・んーーー洋画とか?」

 えへへと苦笑いを浮かべながら葵は言った。

 恋愛映画はあまり好みじゃなかったのか。言ってくれれば好きな映画のジャンルにしたのに


 「このあとどうする?」

 葵が聞いてきた。


 「あっ、えー-っと、カフェで少しお茶しない?」

 「いいよ。なんてお店?」

 「あっ、ここなんだけど・・」


 再びスマホの画面で店を紹介する。

 「いいね、いこう」



***


 ショッピングモールの中にあるカフェ。休日ということもあって混んでるかと思ったが、数分程度待って入ることができた。

 葵はパスタ、今井はサンドイッチとコーヒーを頼み、二人で向い合わせに座る。


 「今井君は休みの日はなにしてるの?」

 「俺は、音楽鑑賞が好きで音楽よく聴いてる。」

 「へーー、私、普段音楽あんまり聴かないんだけど、どんなのがおすすめ?」

 「えーーっとね・・・・」

 今井は自分のスマホで音楽アプリを開き、おすすめのプレイリストを葵とイヤホンを片耳づつつけて再生した。


 それにしても今日の葵はどこか普段と違うように思えた。

 雰囲気だけじゃない

 

 いつもの葵なら最近描いた絵の話や好きなイラストレーターさんの話をマシンガンのように話すのに

 今日はあまり自分のことを話さないように思えた。


 どこか他人行儀というか。

 初めてのデートで緊張しているだけだろうか。



***


 何気ない会話を続けて、時刻は15時くらい。今日はこれで解散にする。


 駅に着き、改札に向おうとしている葵に

 「今日はありがとう」

 と言った。


 「いえ、こちらこそ」

 葵はぺこんと頭を下げ、にこりと笑った。これで解散はすこし早い気もするが、また学校で会えるだろう。

 「じゃあ、またね!」


 手を振って改札を通る葵を、今井は見えなくなるまで手を振っていた。あとで告白の返事を聞くのを忘れていたが、また学校であった時でいいかと思った。



***


10/4 (日)


 今井は10時過ぎになってもベッドでゴロゴロとしていた。もともと今日がデートの日だったため、暇である。昨日のデートはなんとなく違和感を感じていた。葵は本当に楽しんでくれていたのだろうか?

 次のデートは葵の好きな場所がいいかな・・・


 そんなことをあれこれ考えながら、暇だし部屋の掃除でもするかとベッドから立ち上がった時、急に電話が鳴った。


 葵からだった。


 「もしもし?」

 「なにやってんの?」

 第一声に声を荒げられて驚いた。なんだかすごい怒ってる。なんだ。


 「え?」

 「待ってるんだけど」

 「なにが?」

 「は?今井君が誘ったんじゃん」

 「ん?」

 「日曜日に二人で出かけようって、今井君が言ったんじゃん。10時に○○駅集合でしょ?待ってるんだけど」


 葵はなにを言ってる。

 「いやいや、昨日でしょ?それ」

 「なに言ってんの」

 「だから昨日デートしたよね、俺たち。」

 「は?まじでなに言ってんの。」


 なに言ってるはどっちだよと思った。しかし葵の口調は冗談をいってるようにも今井をからかっているようも思えなかった。


 「そりゃ、待ち合わせ時間より10分くらい過ぎてたかもしれないけどさ、あたしだって服選んだりとか色々準備してたし・・・」



 ぶつぶつと言っているのを遮るようにして、

 「確認なんだけど、土曜日の10時に○○駅前集合だったよね」


 「日曜日の10時でしょ?バス停で日曜日って言ってたじゃん」

 「いや、最初はそうだったけど一色さんが電話で日曜日に用事ができたから土曜日にしようって・・・・」


 ちょっとまて、

 日付を日曜日から土曜日に変更する会話をしたのは電話。

 土曜日のデート。その前日に送ったLINEは「10時に○○駅集合で!よろしくね!楽しみにしてる!!」という内容で、「土曜日に」という単語は含めていない。



 そんなまさか、


 だって疑うはずもないじゃないか。



 デートの日程を変更した電話。あの電話の主が一色さんじゃない"別人"であることなんて________



 「ちょっと、今井君?」



 じゃあ、俺が土曜日デートしたあの人は・・・・・・・・

 一体、誰なんだ?



 「聞いてんの?」


 今井は自分の疑問が恐ろしくなった。

 自分を呼び掛けている葵の声がすー-っと遠くなるのを感じた。












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