ある屋敷の足音

美由紀

第1話

 私は大田区S池近くのそこそこ大きい家で生まれ育った。

 その家を買ったのは父方の祖父で、そこに両親と姉と四人で生活していた。

 両親は事業をやっていたので毎日忙しく、学校を終えて家に帰ってきても自分一人という日が珍しくなく、そんなときは少し広い家のなかは寂しいので決まってテレビがある和室でゲームをして時間をつぶすのが日課となっていたのだ。


 ある日、私はいつも通り学校から帰るとランドセルを放り出し、ジュースを冷蔵庫から取り出すと、それを手にいつも通り和室へと向かったのだ。

 ニンテンドー64という今ではかなりレトロゲーになってしまったゲーム機でマリオをプレイし始めた。


 大人になった最近はてんでゲームをしないが当時は凄いゲームが好きで内心、親がいないからこれだけゲームができると喜んでいたのかもしれない。

 ゲームを初めて少しすると和室の前の廊下から足音がし始めた。

 姉が帰ってきたのとかと思ったが何やら少し様子がおかしい。


 廊下で走る音が聞こえるのだ。

 ふすまをしめているので姿は確認できないが、

 だだだっ、と走る音が聞こえるのである

「ねね~?」


 当時、私は姉のことをねねと呼んでいたのでそう問いかけるが足音はやまない。

 最初はふざけていたのかと思ったがどうにも様子がおかしい、姉はこんなよくわからないおふざけをする人間ではなかった。

 何度か呼びかけるが足音はやまない。だだっ、だだだっ、と子供がふざけて走るかのような音が聞こえる。


 誰もいないはずの家で聞こえる足音、姉ではないなにかではないかと思い私はさすがに怖くなってきてゲームどころではなくなった。

 集中力を欠いてしまったので、テレビ画面の中でマリオがやられた時の間の抜けたBGMが鳴る。


 だが足音はやまない、だだっ、だだだ! 和室の前の廊下を行ったり来たりと走る音が響いている。

「ね、ねね~……?」

 そう力なく呼びかけたが返答はない。

 だだだ、だだだっ! 足音が響いているが突然それがぴたりと止まった。

 ちょうど和室の前だ。

 このふすまを隔てた先に何かがいる。

 何かがいるのだ。


「ただいま~」

 家の扉が開く音がし、姉の声が聞こえた。

 そしてこちらに歩いてくる音が聞こえ、ふすまが開け放たれた。

「ねね!」

 そこにはいつもと変わらぬ姉の姿があった。

 それ以外は誰の姿もない。

「どうしたの?」

 不思議そうに姉は首をかしげていた。


 それからしばらくして住んでいた家は親が事業に失敗し手放すこととなった。

 大人になり、ふと当時のことを思い出して父に話した。

 すると、しばらく思案したのちにあることを話し始めた。

 それは父の兄弟ではないかということだ。

 私は父は一人っ子だと思っていたが実は幼いころに亡くなった兄弟が二人いたらしい。


 その子たちが遊んでいたのではないかというのだ。

 そうだとすると、事業に失敗した際に墓の権利も手放し墓じまいをしてしまったので、供養を受けることすらない私の伯父達は分譲され建売が何件か立つあの土地にまだ囚われているのであろうか、いまだに廊下を走って寂しく遊んでいるのだろうか、いくら考えたところでもはや確認するすべはなかった。

                                   終わり

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ある屋敷の足音 美由紀 @miyumiyuki45

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