真夜中の出来事

雨月 史

丑三つ時って何時だ?

ついこの間まで閑静な住宅街を

賑やかしていた蛙たちの合唱も、

どうやら先日の台風と共に、

季節の移り変わりに乗じたようだ。


幾分暑さもおさまり、今日はエアコン無しで寝られそうだ……なんて思いながら、自転車のペダルを漕ぐ深夜の帰路。


寝静まる家の中を音を立てないように鍵を開けて、電気もつけずに箪笥を探り下着を取り出すと僕は素早くシャワーを浴びて、髪を乾かし歯を磨いた。


けれども寝床に就くと意外と蒸し暑い。

たまらず部屋の窓際に向かい風の温度を確かめると、妙に生暖かい風が頬を撫でた。


「これはあかんわ……。」

なんて呟きながらエアコンのスイッチを入れてタイマーをかけて寝床もどる。

本来エアコンは苦手だ。

あんまり長時間あたると体が冷え、

気管に痰が絡んできて咳がでるからだ。

昔はそんな事無かったのだけれど……。

仕事の疲れもあって(元から寝つきが良いほうだけど)そのまま知らないうちに、

眠りについた。



「ケホケホ……ケーンケーン……ヒューヒュー……。」

少し体の冷えを感じ目覚める。

それ見たことか……と眠りを妨げる咳。

家族を起こさない様に小さく咳き込み、

羽織る物を探す為に静かに箪笥をもう一度探る。「なんでもええわ……。」と誰に言い訳してるのか?薄手のシャツを取り出して素早く袖を通すとタオルケットをしっかりと体に巻きつけた。


早く眠りにつきたかった。

なのに……。


「おいおい……まさか今か?」


突然耳鳴りが始まった。

昔から夜中の耳鳴りは前触れだ。


金縛りの……。


早く寝たいのにな……。

気を紛らわす為に他の音に神経を研ぎ澄ます。が夜中の住宅街は静寂を守っていた。

蛙たちの合唱が妙に随分昔の事の様に感じ、すこしばかり懐かしく思っていると、

虫の声が微かに聞こえてきた。


「そうか季節は秋に向かっているんやな……ん?!」


耳鳴りのせいか、その虫の声すら奇妙に思えてきた。


「ぴゅー、ろー。ぴゅー、ろー。」


という不協和音が少し気味の悪い……というかまるでテレビ番組で怪談話の時に用いる効果音の様に聞こえる。

そう思うとエアコンをつける前に外の空気を感じた窓から冷たい風が、

締め切ったはずなのに、


「ぴゅー」


と足を撫でた……。

耳鳴りが今日に高音にかわり、

ゾクゾクと背筋に寒気が襲った……かと思うと


「ゲホゲホゲホゲホ……!!」


と急に喉の奥にが絡んで、

大きくむせこんだ。



どうにかして

咳をおさめると、

耳鳴りはおろか、

先程の虫の声すら聞こえなくなっていた。

咳をしたせいか体も少し暑くなり、

程よく疲労した体には、

やはり眠りが必要だった。


「ったくもー……いったい今何時だよ。」


2時22分……。

これはたしか……と枕元のスマホで調べる。


あー……丑三つ時か……。



つい3時間ほど前の話だ。

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真夜中の出来事 雨月 史 @9490002

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