短編集〜様々なジャンルの実験置場〜
少尉
懲役1000年
——この者を懲役1000年の刑に処す。
遠い昔、法廷という場所で裁判長の言葉が響いた。
その判決から時は過ぎ、
「ここは失われた文明の遺跡のようね」
「フラン、どんな仕掛けがあるかわからないから、下手に触るなよ」
「分かってるわよ。それにしても何で出来てるのかね」
フランと呼ばれた金髪の女性は、壁に手を当てながらゆっくりと歩き始めた。
それを見守るように黒髪の男が後ろに続く。
彼らは遺跡の調査をしている探索者だ。
今回調査しているのは、古代文明の遺跡だった。
今より300年程前に世界は滅びたと言い伝えられている。
それが真実かどうか、彼らには分からない。
だが、彼らには理解できない文明の遺跡が各地に残っていることから、それが真実ではないかと言われてる。
そして、遺跡は金になる。
だから、彼女達は探索者となり、各地を旅をしながら、遺跡を採掘している。
今回の遺跡は、小さな島の建物だった。
「古代文明なのは間違いなさそうね」
「しかし、これだけ見ても何の施設か分からないな」
機械と呼ばれる装置に、ガラスで作られた円筒状の容器。
それには液体が満たされており、中に何かが浮かんでいる。
それらは全て、彼らの知らない物だった。
「気味が悪いわ」
フランは顔を顰めながら、部屋の中を見渡す。
「そうだな、金目のものはバックに詰め込んでマッピングを済ませよう」
「賛成」
大型の機械など運び出す事ができない為、情報を売るのだ。
探索者として大成すればいざ知らず、今の彼女達には難しい。
だからこそ、情報が売れるなら売るし、手に入らないなら諦めている。
「地下があるみたいね」
部屋の中央に階段があった。
彼女達は、階段を降りて行った。
階段を降りた先に、金属製の扉がある。
「開かないわ」
「どいてろ」
フランが道を譲ると、男は強引に扉を蹴り飛ばした。
ドゴンッ!!
大きな音を立てて扉が開く。
「相変わらずの馬鹿力ね、グイン」
「強化人間ってやつの血が流れてるらしいんでな」
グインと呼ばれた男は、扉を潜って中に入る。
部屋の中は薄暗く、長い廊下は鉄格子によって仕切られていた。
「……なんか、上の階と時代が違うみたい」
「確かに、さっきとは随分と趣が違うな」
上の階は見慣れない作りだったが、この階は自分達の文明に似たような作りになっていた。
「これ牢屋よね?」
「ああ、懲役300年…どうやら間違いないな」
牢屋の一つに書かれた文字を見て、二人は頷き合う。
「…中に人はいないか」
「当たり前よ、骨も残らないんじゃない?」
「それもそうか」
牢の中を一つづつ確認していく。
中は何もない。
「どんな罪を犯したら、こんな年数になるんだろうな」
全て100年以上の罪状だ。
「……わからないわ」
二人は、廊下の突き当たりまで来ていた。
その壁には大きな鉄格子がある。
「……懲役1000年か」
「ここの主ね、中は…うん?」
フランが首を傾げ、グインが怪訝な顔をした。
そこには、二人の予想しない光景が広がっていたのだ。
裸の男が、壁に貼り付けられていた。
目は閉じており、両手は後ろで縛られ、両足も膝と足首をそれぞれ何重もに巻いた鎖で縛っていた。
まるで、囚人のような格好だ。
「うそ……」
「……」
二人は驚き、声も出ない。
「死体が綺麗なまま残っているのか?」
グインは鉄格子に手を掛けりと、強引に曲げた。
バキンッ!!
大きな音を立てて、折れる。
グインは牢屋の中に入り、男の頬を叩いた。
ペシッ!
乾いた音が響く。
「……あんたの脳筋具合には、呆れを通り越して尊敬の念を覚えるわ」
フランは頭を抱えて、溜息を吐いた。
「……こいつ」
暖かいぞ。
グインがそう驚きの言葉を呟こうとしていた時だった。
「いてぇな……」
男が目を開け、言葉を発した。
「生きているだと!?」
グインが驚いて、後ろに下がる。
男は壁に張り付けられたまま、グインを睨んでいた。
「……あん?誰だあんたら?飯の時間か?」
グインの後ろにいるフランを見る。
「なんだ、珍しく綺麗な姉ちゃんがいるじゃねーか」
男の好奇な視線に、嫌悪感を感じたフランは、一歩下がった。
「……あんた、なんでこの場所にいるの?」
私達より先に入った探索者の土産物だろうか?
「はぁ?おまえらが収監したんじゃねぇか。っていうか、この拘束具いつ付けたんだよ、取れよ」
グインは無言で男を拘束している鎖を掴んだ。
そして、力任せに引っ張る。
「いでででっ!!」
「……夢じゃなさそうだ」
グインが呟く。
「……大金になりそうね」
本物なら生きた古代人という事になる。
「連れて帰るか」
「あんたら、何の話してるかわかんねーけど、これ外してくれよ」
グインは、男の言葉を無視して、再び鎖を引っ張った。
ガシャンッ!!
両足の鎖が外れる。
「いってーな、もうちょっと優しくしろよ!」
男は立ち上がると、手足を動かしながら、抗議する。
グインとフランは、呆然とその様子を見ていた。
「両手も頼むぜ」
グインとフランが目を合わせる。
「悪いが、逃げられたら困るんでな」
「じゃあ、前で縛ってくれよ。これじゃコケちまうぜ」
グインは溜息を吐くと、男に近付く。
「これでいいか?」
グインは、両手を縛る鎖を外した。
「サンキュー、あんた馬鹿なんだな」
ズボッ!!
「ぐっ!!」
男の拳がグインの胸に突き刺さる。
「グイン!!」
「おっと、動くなよ」
グインは膝をつくと、崩れるように倒れた。
「てめぇ!!」
フランが短剣を抜く。
それを見た男は、素早くフランを蹴り飛ばした。
「ぐふっ!!」
フランは壁に叩きつけられ、床に倒れる。
「あんたら、俺の罪状知らないの?」
「……罪状?」
「殺人、強姦、強盗に……あとなんだったかな?」
男が顎に手を当てて、考え込んだ。
だが、直ぐに思い出したようだ。
その顔には笑みが浮かぶ。
「まあ、女は殺さない主義だ。その点は安心してくれよ」
男はそう言って、フランに向かって歩き出す。
「まあ、楽しませてくれよ」
フランは立ち上がり、男に殴りかかる。
男はそれを避けると、そのまま服を強引に破り床に押し倒す。
(こいつ、本当に人間!?)
馬乗りになった男は、フランの胸を弄び始める。
「辱められるくらいなら、死ぬわよ?」
「ああ、死姦もいいなぁ」
ゾクッ!!
フランの背に悪寒が走る。
「……懲役1000年……あなた、今何年か知っているの?」
「あん?うーん」
男の目が泳ぐ。
そして、廃墟となった牢獄の姿に違和感を覚えた。
「なあ、まさか1000年経ったなんて言わないよな?」
「知らないわよ。外に出てみればわかるんじゃない?」
男はフランの上から退き、立ち上がる。
「ヤル気が失せたわ」
「……」
フランは黙ったまま、男を睨み続けていた。
「人間は1000年も生きないよな?」
「そこの常識は共通しているようね」
フランはゆっくりと立ち上がる。
服は破れ、ボロボロだ。
「……出てみるかぁ」
「あんた……」
フランは血溜まりに沈む相棒を見る。
グインはピクリとも動かない。
「……懲役1000年」
それなのに何事もなかったかのように振る舞う男を見て、彼女は思わず呟く。
それが、二人の最悪な出会いだった。
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