人気コスプレイヤーになった彼女にフラレたので、人気漫画家になって見返してやろうと思います!
🎈パンサー葉月🎈
第1話 プロローグ
高校に入学してすぐ、僕の彼女が人気コスプレイヤーになった。
「――だから、釣り合わなくない? あたしフォロワー10万を超える人気コスプレイヤーじゃん? お金積んででもあたしと付き合いたいって男の子、たくさんいるんだけど。そのあたしが、いつまでも凡人を絵に描いたような
中学時代、オタク気質で友達のいなかった彼女。そんな彼女にコスプレを勧めたのは、僕だった。
自分には人に誇れる才能も趣味もない。自分は無価値な人間だと口にする彼女に、少しでも自信を持ってもらいたかった。だから、僕は彼女に漫画やアニメのキャラクターになりきるコスプレを勧めた。それをSNSに投稿し、自己肯定感を上げるように勧めたのも僕だった。
コスプレをするということは人に見られるということ。彼女には少しでも自信を持ってほしかった。
僕の考えは成功した。
前髪で隠れていた彼女の顔が見えるようになり、日々彼女の姿勢がより自信を持ったものに変わっていった。
元々かわいかった彼女は、コスプレイヤーになることで、多くの人に見られることで自信をつけ、さらに可愛くなっていった。そんな彼女を見るのがとても嬉しかった。
だけど、同時に彼女の口は悪くなり、恋人である僕に対する不満を口にするようになっていった。
あるイベントで知り合ったコスプレイヤーが、有名なアイドルやモデルと遊園地デートに行ったことを自慢してきたことが、彼女の僕に対する不満を頂点に引き上げた。
自身は人気コスプレイヤーなのに、なぜ一般高校生である僕と付き合っているのか、自分も芸能人と交際できるのではないかと考え始めたのだ。
「美空音だって薄々は気付いているんじゃない? あたしと自分とじゃ、ちょっと無理があるかなって」
「無理って……どういう意味?」
「今日も学校でさ、なんで
僕はただ、友達ができないことで自分に自信が持てないと嘆いていた彼女に、自信を持ってほしかっただけだ。恩着せがましくした覚えなんてない。
「たしかに瑠璃華は変わったよ。すごく可愛くなったし、綺麗にもなった。だけど、ひどい事を平気で言うようになったよね」
「は? なにそれ……」
「実際にひどいことを言ってるじゃないか。ちょっと周りにちやほやされるようになったからって、僕のことを馬鹿にするようになったじゃないか! 僕以外に友達もいなかったくせに!」
「なっ!? それを言うならあんただってそうでしょ! 根暗で陰キャなアニオタだったじゃん。有名コスプレイヤーになったあたしの方がまだマシよ。というか、あたしこれ以上あんたみたいな冴えない男と付き合っていたくないのよね。メリットなんもないし。あ、そうそう、いい忘れていたんだけどさ、某アイドルグループに所属する男の子が、あたしに会いたいってDMしてきてるんだよね。美空音と違ってイケメンだし、有名人。今度の日曜に会う約束もしたんだよね」
「かっ、彼氏の僕がいるのに何考えてんだよ! ダメに決まってるだろ!」
思わず大きな声を出してしまった。
「……あたし、才能もないのに束縛する男とかマジで無理。今日までずっと我慢してたけどさ、もう無理だから言うわ。
美空音、あたしと別れて」
「――――」
彼女の言葉に、僕の心臓がキュッと縮んだ。息を吸うことも、吐くこともできなくなる。
最近、彼女との喧嘩が増えていたのは事実だ。しかし、いつも最終的にはどちらかが謝って仲直りするというのが、僕たちの定番になっていた。だから別れの可能性など考えたこともなかった。だから今回も、いつものくだらない喧嘩だと思っていた。そう思いたかった。
でも、違った。
彼女からはじめて別れを切り出された瞬間、世界がぐにゃりと歪んで見えた。立っていることさえ困難になり、一瞬足元がふらついた。
「何言ってんだよ。……わかったよ。僕が悪かった。ほら、仲直りしよう」
「………」
仲直りの証に差し出した手を、彼女が掴むことはなかった。
彼女は死んだ魚のような目で、僕を見つめていた。
そして、大きくため息をついた。
「……ださ。あたしにフラれるとわかった瞬間それ? ま、美空音みたいな冴えない男があたしみたいな可愛い女の子と付き合えることなんて、今後永遠にないんだもんね。でも無理。あたしには凡人より、才能豊かなイケメンアイドルの方が似合うもん。じゃあ」
「えっ、ちょっと――」
「付いてこないでっ!」
話はまだ終わってないと呼び止めた僕を、彼女は振り払った。彼女は振り向くことなく、夕陽に向かって駆けていく。
「……うそだろ」
高校に入学した4月、僕は恋人にフラれた。
理由は僕が凡人だったから。
パッとしなかったから。
才能がなかったから。
アイドルにDMでデートに誘われたから。
「ふざけるなッ!!」
怒り、憎しみ、悲しみ、彼女のひどい裏切りに対し、様々な感情が腹の中で渦を巻く。
「今にみてろよ!」
この日、僕は決意した。
彼女よりも有名になって、僕を振ったことを後悔させてやると。
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