弓精霊の伝説回 ~武器強化チートを持つ弟子、修行中に女の子を助けてバズり守破「離」でダンジョン配信始めました。でも貧乏なので武器がない~
坡畳
暗殺事件編
第一話 配信開始。
布地のブリオーを着た人々が石造りの町を往来する。
野外酒場のテーブル席に座る人々は、液晶パネルが全面に付いた小型端末を片手に持ち、その画面にはダンジョン配信を流していた。
窓から差す日に当たり、ベッドで両腕を上げたままの少女が瞼を開く。
体を起こし、木先を細く切り込んだブラシで歯を磨き、寝巻から狩人服に着替え藤色の髪を束ねる。
そして一枚鏡の前でフードを被り、壁掛けのフックに差していた木製矢筒を外し取って、ベッドに座る。
矢を一本一本見つめながら矢筒の中へと入れていき、背のホルダーに差し込む。
最後に台上の麻袋と弓を握り、部屋を出た。
出た先の受付横に張り出されている電子ボードには、配信者ランキングが10位まで張り出されている。
6位の右には鏡で見たのと同じ顔写真、さらに右は【
八生はそれを眺め、ニタァッと頬を緩ませる。
(まだダンジョン配信を始めて一ヶ月経たないけど、300万人中6位かあ)
「おはようさん! よく眠れたかい?」
「おはようございます、おかげさまでぐっすり眠れました」
「そうかい。八生ちゃん、これからダンジョンに行くの?」
八生は受付にいる宿屋の主から目線を逸らし、口をモゴモゴとした。
(今日はランク上位者で集まってダンジョンに向かうんだけど、配信開始まで秘密なんだよね……)
「はいっ。配信の方、ぜひご覧になってください……!」
「分かった、楽しみにしてるよ。気をつけて行きな! 油断禁物だよ」
宿屋の主は歯を見せて笑いながら親指を立てる。
八生は励ましに頬を熱くし、弓を握り締めた。
「私、強いんです。油断なんてしませんよ!」
「頼もしいねえ。それじゃ任せたよ!」
「はい!」
八生は宿屋の主に深々と頭を下げ、宿屋を出て麻袋から端末を取り出し眺める。
端末画面には[アルシから着信履歴あり]と中央に表示されていた。
そこに触れ、端末上部のスピーカーを耳に押し当てる。
『何してんの。もう皆集まってるわよ』
「すみません、アルシさん。急いで向かいます!」
『……アタシらの方がランク上なんだから、あまり待たせないでよね』
通話が切れ、ツー、ツー、と音が鳴る。
八生は耳元から麻袋へと端末を戻した。
(集合早いような……でも急がないと)
息を切らしながら着いたその場所は、洞窟型のダンジョンであった。
入り口横に刺された看板には、[PT推奨超危険ダンジョン! 現在立ち入り禁止!!!]と書いてある。
不意に唾を呑み込むと、重装を身に纏い剣と盾を背に付けた剣士が肩に手を乗せてきた。
「立ち入り申請は通してあるから心配すんな。そんじゃ、配信準備したら突入しますか」
兜の中でくぐもった声に、八生は呼吸を整えてからきっちり返事をする。
その後に片目眼帯で黒いローブを着た金の長髪女、エハクが気怠そうな返事をした。
もう1人の、周りと合わない防弾チョッキにスパッツ姿で青髪ショートの配信者、アルシは無言のまま磨いていたナイフを腰の鞘にしまう。
(ザップさん、配信外だとこんな感じなんだ。配信中は淡々と解説しながら攻略してくから、もっと冷たい人だと思っちゃってたな)
兜の男を見て、八生の頬が少し熱くなる。
アルシとエハクの握っていた端末が変形し、2台宙に浮かび始める。
八生が麻袋を開くと中の端末も浮かび、端末のライトが一斉に点き、パーティーメンバーたちを照らした。
「あれ、お一人分のカメラが足りていないようですが」
「ああ……オレが忘れて来ちまった。PTから外れるわけにも行かないし、普段で稼いでっからそう気にすんな」
苦笑いするザップを見て、八生は目元の力を抜いて笑顔を向けた。
ザップが最前列、八生が最後列に並び、一行は矢印型の陣形を保ちながら洞窟内を進み始める。
(危険な場所だけど、ダンジョン配信者たる者、こういった時間での掛け合いも大事だよね。みんな私たちのコラボを見に来てるんだし!)
「このダンジョン、綺麗な場所ですね。あちこちで宝石が光ってて」
「静かに。先手を取られちまうと、一層のフロアマスター相手でも全滅させられかねない」
「し、失礼しました」
ザップは入り口での様子とは違い、ピリピリとした空気を出しながら八生の言葉を遮る。
(みんな真剣だし、配信で見るザップさんと同じ雰囲気だけど。コラボなのにこんな配信で……町のみんなは楽しめるのかな)
八生は首を左右に捻り、洞窟のあちこちに視線を配りながら3人に付いていく。
(これでザップさんの配信で感じるスリルを演出できてたらいいんだけど……)
その様子は全くの挙動不審であり、まるで3人を背後から矢で射抜く機会を伺っているような様子が端末のレンズに反射する。
「さっきから何やってんの? 入る時はそんなにおどおどしてなかったでしょ」
「ひょえ……! アルシさん、脅かさないでくださいよ」
「……わざとらしい」
「ま、まあ。楽しく配信しましょう?」
八生はアルシから舌打ちされ、苦笑いする。
「2人とも静かに。モンスターが目の前だ」
不機嫌そうに囁くザップの声に、2人は真剣な目をダンジョン奥へと向けた。
少し遠くでは、レッドベアがガリガリと音を響かせながら壁で爪を研いでいるのが見える。
(PTメンバーの装備はザップさんが剣と盾、アルシさんがナイフ、エハクさんがマジックスクロール。レッドベアはただの赤い熊だけど、大きい個体だし油断できないっ)
「ヤエは後方からガンガン攻撃してくれ」
「はいっ」
レッドベアがこちらに振り向く。
その鼻に八生の絞った矢が突き刺さり、レッドベアは困惑した様子で逃げ出す。
「あまり戦意はないみたいだな。エハク! パラライズ頼む!」
「ほい」
エハクがスクロールを広げると周囲が薄青く輝き始め、エハクが睨むとレッドベアは動きを止めて体から電力のようなものを漏らす。
「止めたよ」
「よし、あとはオレがやる!」
ザップが剣を青く輝かせながら一振りすると、剣圧でレッドベアの体は切り裂かれ、青白い光を発しながら消えていく。
フロアの奥には次の階層の入り口であろう階段が見える。
「すごい、一撃だなんて」
「そうだな。危険らしいが大したことなさそうだ」
階段を降った先は4つの道に別れており、ザップは立ち止まって3人の方へと振り向いた。
「別れ道は丁度4つだな。皆それぞれ道を進んで、行き先にまた分かれ道があったり、フロアマスターがいたりしたら戻ろう」
「ほい」
「ま……待ってください。それってどういう意味が……」
八生が止めようとするも、皆聞こえなかったかのように進んでいき、八生は1人、暗がりに残された。
八生は麻袋から火種と布を巻いた木の棒を取り出して即席の松明を作って、持ち手の先を口に噛む。
「端末故障しちゃったかな。……まあ行こう」
向かった先はさらに別れ道があり、戻ると帰り道はなくなっていた。
壁を手で探るが、何もない。
「おかしいな。階段なくなってる」
何かを蹴り、違和感から足元に目をやる。
足元には干し肉のような物が落ちており、八生はそれを拾い上げて眺めた。
「こんなの、来た時に落ちてたっけ?」
すると、地面をズサズサ擦る音がダンジョン内に響き始める。
分かれ道の先からは複数の赤い光が見え、大量のスケルトン達がこちらへと這い寄り始めた。
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