ありがとう、愛しのワンルーム

SACK

ありがとう、愛しのワンルーム

大学卒業後5年間過ごしたこの部屋とも、今日でお別れだ。

突然言い渡された移動命令で、明日から別の県に移り住むことになった。

今日引越し業者に荷物を全て運び出してもらい、鍵を不動産屋に返して本当に最後。

ベッドや絨毯を敷いてあまり見えていなかった床が見え、この部屋ってこんなに広かったんだな、とミサキは漠然と思った。


この部屋に住んでいた5年間の出来事が蘇ってくる。

新卒で入社し、仕事がなかなか覚えられなくてずっと落ち込んでいた一年目の春。

彼氏と一緒にこのワンルームに住んで幸せな日々を送っていた時のこと、別れて3日間泣き続けた時のこと。

電気会社との契約は切れてるので、エアコンも付けれず暑い中、ミサキはTシャツの袖を捲りながらセンチメンタルな気分に浸っていた。


「あのー、お荷物の方こちらで最後なんですが」

窓から入る風が気持ちよくて、思わず目を細めていると、奥の部屋から引越し業者の男が段ボールを持ち顔を覗かせた。

この暑い中よく働くな…とミサキは感心する。

Tシャツはすでに汗で濡れて、休みもなく重い段ボールを何度も何度も部屋からトラックに運び出してくれていた。

「はい、ありがとうございました」

最後の段ボールをトラックに乗せ終わると、もう1人の男がエンジンをかけ車を出した。

後ろにもう一台小さなトラックが止まっていて、今部屋にいる男はこのトラックで帰るのだろう、とトラックを見送りながら思った。


本当に部屋がまっさらな状態になった。

両親と内見に来た時の日のことも思い出す。

この部屋で暮らしていくんだ、と期待で胸を膨らましていたあの日。

駅からちょっと遠いが、静かで、治安も良く、住みやすい家だった。

「すみません、こちら会社のアンケートなんですけどご記入頂いてもよろしいですか」

残された男が一枚のプリントとペンを差し出してきた。作業着の胸に「相良」と苗字がプリントされていた。

「あ、分かりました」

プリントの内容は、サービス内容はどうだったか、作業員の清潔感はどうだったか、また利用したいか、など簡単な内容のアンケートだった。

広くない部屋で、荷物もそこまで多くなかったからか作業員は2人だけだったが、2人とも清潔感もあり、段ボールに詰める作業も丁寧でとても良かった。

全ての「とても良かった」に丸を付け、最後の署名の欄でペンが止まる。

住所を書く欄があるのだが、今の住所か、引越し先の住所かどちらか分からない。

「すみません、この住所ってここのことですか?」

隣の部屋に姿を消していった相良に声をかける。

「はい!なんでしょう!」

慌てたように出てきた相良が上半身裸で、ミサキは思わずペンを落とした。

「あ、すみません、こんな格好で。着替えさせてもらってました」

相良は苦笑いしながら頭を小さく下げる。

引越し業者というのはやはり重労働なのだろう。整った甘い顔立ちとは裏腹に、男らしく太い上腕二頭筋と、Tシャツの上からでは分からなかった暑い胸板。腹筋もしっかり割れていて、思わず相良の上半身に見惚れてしまっていた。

「あっ、あの、ここなんですけど…」

テーブルも何も無い部屋で、アンケートを書けそうな台はキッチンのシンクだけだった。

ペンを慌てて拾い上げ、アンケート用紙をシンクに置くと最後の欄を指差す。

「ここの住所を書けばいいのか、引越し先のを書けばいいのか分からなくて…」

すると、上裸の相良がミサキの背後に立ったままシンクに手をつきアンケート用紙を覗き込んだ。

(ち、近い…!)

ミサキよりも20センチは高いであろう身長の相良が覆いかぶさるように近づき、あまりの距離感に体が硬直する。着替えながら制汗剤を使ったのか、ほんのり石鹸の香りが漂ってきた。

「これはここの住所で大丈夫ですよ」

耳元で声がし、更に身動きが取れなくなる。

そう思えば彼氏と別れて数年、男性とこんな距離まで近づいたことなんてなかった。

「大丈夫ですか?」

直立不動のミサキの顔を、相良が覗き込む。近くで見ると、大きな二重の目に、すっと通った鼻筋、少し厚めの唇がにこりと笑う。

「あ、大丈夫です。分かりました。すみません」

何に対して謝っているのか分からないが取り敢えず思いつく返事を全て並べた。しかし、背後から相良が離れる気配はない。

「あの…?」

少し振り向き顔を覗き込むと、黒目がちな瞳と目が合った。

「お姉さん、可愛いですね」

「えっ!?」

少し照れたように笑い、思いがけない言葉が返ってきた。

照れるくらいなら離れてくれ!服を着てくれ!ミサキは内心慌てふためきながらも、相良から視線を逸らすことができない。

「彼氏いますか?」

「え、いないですけど…」

「じゃいいですか?」

「何が…」

整った顔が徐々に近づき唇が重なった。引き離そうと筋肉質な腕を掴んだが、逞しい腕に胸が高鳴り離せなくなってしまった。

唇が離れにっこりと微笑まれる。この体にこの表情はずるい。

「…誰か来ますよ?」

「もう誰も来ないから大丈夫です」

もう一度唇が重ねられた。今度は深く舌を絡められ、行き止まりのシンクに手をつき体を支える。

汗ばんだ裸の上半身が、吸い付くようにミサキの上半身に密着した。

「はぁ…」

開いた唇の隙間から吐息が漏れる。柔らかく熱い舌が気持ち良い。

大きな手のひらがTシャツの上から胸に触れ、蕩けるようなキスを繰り返していた唇が首筋に降りてきた。

「汗めっちゃかいてるから…」

焦ったように静止するが相良はまたニッコリ笑い「大丈夫」と言うだけだった。

(この人さっきから大丈夫しか言わないじゃん…)

わずかに残る正常な意識でそう思う。だけど今更抵抗する気など残っていなかった。

首筋から耳にかけて熱い舌が何度も往復し、耳の中に舌が入ってくる感覚に思わずうわずった声が出た。

「あぁっ…!」

「もしかして耳弱い?」

新しいおもちゃを見つけたような無邪気な表情だ。

否定するように首を振るミサキに笑いかけ、再びTシャツの上から胸を弄りながら耳に何度もキスをした。

「はぁ…あっ…」

相良の手がTシャツの裾から忍び込んでくる。汗ばんだ肌を撫でながら背中に手を回すと、あっという間にブラジャーのホックが外されてしまった。胸元の開放感と共に大きな手で胸が直に包まれる。拒むように相良の腕を掴むと、シンクについて体を支えてるもう片方の腕に力が入らずにガクガクと震えた。

柔らかく乳房を揉みながら親指で器用に乳首を転がし、耳の中には舌が入りこむ。耳からダイレクトに脳に響く湿った音に思考が蕩け、窓を全開にしていると言うのに声が我慢できない。

「可愛い…」

付き合ってる彼女を見るような、愛おしくてたまらないような目でミサキを見つめる。

快感で震えているミサキの腕に気づくと、相良はスカートの裾を少しずつ手繰り寄せた。あっという間に捲り上げられたスカートから下着が覗く。

「ちょっ…それは…」

相良は軽々と段ボールを持ち上げるようにミサキを持ち上げ、シンクの上に乗せた。そして片足を持ち上げ、下着の上から膨らんだ中心に触れた。

「あっ…だめです…」

汗のせいか、または別の理由か濡れそぼったそこは相良の指に敏感に反応する。

「あぁっ…んっ…!」

布ごしだと言うのに、相良の指が下着をなぞる度腰が跳ねてしまう。直接触られたら一体自分はどうなってしまうのか、ミサキは不安と期待が入り混じった感覚に包まれた。

色が変わるくらい濡れた下着の隙間から、相良の長い指が侵入してきた。敏感な部分を隠すように生えた陰毛を掻き分け割れ目を見つけると、粘度のある液をたっぷり指に絡めながら撫で上げる。

「はあぁ…あぁ、んっ…」

少しだけあった羞恥心ももうどこかへ行き、ミユキはシンクに片足を立てた状態で、相良から与えられる快感を受け止める。

芯芽を優しく触れられいやらしく腰が揺れる。まるで相良の指を中に誘うようだった。

「お姉さん、エロい。腰揺れてるよ」

耳元で囁くように言われ、更に感じてしまう。所謂"言葉攻め“に自分は弱い部類だったんだと、初めて気付いた。

相良の指がゆっくりと中に入ってきた。ミサキの弱い場所を探すように、長い指に中を探索される。

ある場所に相良の指の腹が触れた瞬間、大きくミサキの腰が跳ねた。

「…っ!!」

声にならない声が漏れ、思わずミサキは自分で口を塞ぐ。

「ここ気持ちいい?」

悪戯っ子のように笑う表情と、卑猥な指先のギャップが更にそそられる。

十分解されたそこにもう一本指が足された。

「もうとろとろだね」

「んぅ…あぁっ…だめっ…」

掻き出されるような指の動きと、耳元で囁かれるいやらしい言葉に思うように体が動かず、いつのまにか口を塞ぐことを放棄していた。

だらしなく開いた口からは喘ぎ声がこぼれ、相良の指を離さないようにぎゅっと締め付ける。

「イキそう?」

耳たぶを優しく噛まれ、指の動きが激しくなる。

「イキそう…だめっ…ぁっ!」

相良の腕を強く掴み、中の痙攣が始まる。目の裏がチカチカするような感覚と、徐々に痙攣がゆっくりになる感覚に目を瞑って感じていた。

ミサキが落ち着いてきたことを確認すると、相良はゆっくり指を引き抜いた。そして自分の作業着のベルトに手を掛け、自分のものを取り出した。

「いい?」

眉毛を下げて子犬のような顔で聞いてくる。

(こんな表情ずるい…)

まだ少しボーッとする頭で頷いた。

シンクに乗ったミサキの下着を取り払い、両足をシンクに乗せた。

「やっ…恥ずかしい」

まだ日の光が差し込む明るい部屋の中でさすがにその体勢は恥ずかしい。ミサキはスカートの裾で隠すが、簡単にその手は退けられてしまう。

相良が近づき、先端でミサキの割れ目を探った。どちらのものか分からない液体で、滑りが良くそれだけでも十分な快感になる。

狙いを定めた相良がゆっくり腰を進め、強い圧迫感が襲ってきた。一番太い部分を通過し全て入ると、相良はまた恋人に微笑むように優しく笑い、ミサキにキスをした。

少しずつ大きく腰を動かし始め、さっき届かなかった場所まで快感が貫く。

「はぁ…はぁっ…」

突かれる度に声が上がり、部屋の暑さのせいで首筋に汗が流れた。

ぎゅっと瞑っていた目を薄く開けると、相良の首筋にも汗が何本もつたっている。汗で濡れた額に前髪が張りつき、眉間に皺を寄せ腰を振る姿がとても色っぽかった。

均等なリズムで突いていた腰の動きが止まり、相良はシンクについていたミサキの両手を自分の首に回すように促した。

戸惑いながらもミサキは相良を抱き締めるような体勢になると、相良はそのまま両足を抱え上げミサキが宙に浮いた。

「えっ?…あっ…やぁっ」

支えるものは二人が繋がっている部分だけだ。

相良の腕力と腰の力で浮かされ重力と自分の体重で深く入り込む。初めての感覚に、ミサキは相良に強くしがみつくことしかできなかった。

「あっ、あっ…」

ミサキの弱い部分に相良の先端が当たる。思わずぎゅっと締め付けてしまい、相良は気付いたようにニヤリと笑った。

ゆっくり降ろされると、今度はシンクを前にして手をつき、後ろから腰を掴まれる。相良は再び弱い部分を狙い挿入すると、器用にそこだけを突き始めた。

「あぁっ…!やっ…」

膝はガクガク震え今にも折れてしまいそうだが、骨盤を強く掴まれやっとの思いで立てている。

相良が背中をかがめ、ミサキの顔を振り向かると唇を重ねてきた。激しく動く腰つきとは違い、柔らかく蕩けるようなキスが気持ちいい。

再び頭に靄がかかるような感覚がし、相良を締め付ける。

「はぁ…だめ…またっ…」

稲妻のように快感が前身を貫き(イキそう)と思った頃には既にイってしまっていた。力が抜け、床につきそうになる下半身を相良が力強く支えてくれている。

「俺も、もう結構やばい」

まだ力の戻らないミサキの骨盤を掴み、自分の腰と打ち合わせる。背後から相良の控えめな吐息が聞こえてきた。

徐々にスピードが上がり、相良から余裕がなくなってきたのが感じられる。骨盤を掴む力が一瞬強くなると、すぐに中から引き抜かれ太ももに熱いものがかかるのが分かった。

背後から全力疾走した後のような相良の息が聞こえてきた。

全ての力が抜けミサキがついに床にペタリと座り込んだ。汗でぐしゃぐしゃになった前髪を掻き分け、相良がミサキの額にキスをした。

「気持ち良かった…ありがと」

最後まで表情だけは少年のような男だった。


まだ唯一止められていない水道で太ももを洗い流し、身なりを整えた。

相良も着替えが終わりさっぱりとした姿で改めて向かい合う。

「本当、すみませんでした。あの…良かったらなんですけど…連絡先交換してもらえませんか?これだけだとあまりにも悪質なので…」

さっきまで敬語なんて使ってなかったくせに、急に仰々しくなっている相良に思わず笑ってしまった。言ってることとやってることのギャップが激しすぎる。

「はい」

携帯をお互い取り出しQRコードを読み込んだ。

可愛らしい猫のキャラクターのアイコンが表示され、追加ボタンを押した。


玄関を出て、相良がトラックに乗り込む。

「この度はご利用ありがとうございました。お荷物新居の方に届けてきますね」

「よろしくお願いします。お気をつけて」

短くクラクションを鳴らし、トラックがどんどん小さくなっていく。

携帯を取り出し、LINEの画面を開き再び猫のアイコンを見る。

この家での物語は今日で終わりだと思っていたのに、今日からまた何かが始まりそうだ。

「今までありがとうございました」

玄関から部屋に向かって頭を下げ、鍵を閉めた。

「あっつー…」

まだ日差しが強く照りつける中、ミサキは額を流れる汗を手で拭う。

鍵を不動産屋に提出する封筒の中に入れると、踵を返しミサキは歩き出した。




end

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