忠誠を誓った旦那様に追放されたので、被虐生活の中で得たチートスキルで復讐したらトントン拍子で商売繁盛!〜旦那様は発狂して気が触れたそうです(笑)〜

mimiyaみみや

作者:瓜生閏

「金輪際ワシの前に顔を出すな。出ていけ!」


 そう旦那様から蹴とばされても、亀吉はなにも言い返せなかった。旦那様の言葉には「喜んで!」としか言えぬ悲しき太鼓持ちの性である。


 ことの発端は、亀吉が酒の座敷で酔った蟷螂に扮し、遊女たちを追い回して盛り上げていた時のこと、天井の梁からつうっと降りてきた手のひらほどの女郎蜘蛛だ。遊女たちは悲鳴を上げ、場が白けることを恐れた旦那様は「こりゃ珍しい、女郎蜘蛛対蟷螂じゃ。蟷螂よ、見事女郎蜘蛛を捕食したなら、褒美をやろうぞ」と亀吉に命じた。「喜んで!」と暴れる女郎蜘蛛を目を白黒させながらやっとのことで飲み込んで顔を上げると、旦那様ただひとりが大笑い。とりまく遊女たちは忌みものを見るように亀吉を見ていた。

 場は白々と冷えていた。

 旦那様はすっかり機嫌が悪くなり、亀吉を罵り「出ていけ!」と言ったのだった。


「喜んで!」


 亀吉は涙を流しながらそう言った。亀吉が泣くのは、遊女のひとり、千歳と離れるのが悲しかったからだ。旦那様やまわりの遊女たちは惨めな亀吉を笑った。千歳も笑っていた。しかし亀吉にはわかった。彼女の心は泣いていた。旦那様が笑えば笑うのが、遊女の性である。




 寒空の下、亀吉は吉原の堀へと嘔吐した。胃の腑から女郎蜘蛛が飛び出しすぐに見えなくなった。

 暗い堀の内を見ていると悪い考えが頭をもたげてくる。

 ハッと我に返った時には亀吉は柵の上から堀へ身を投げていた。


(いけねえ、まだ死ねねえ、生きてまた千歳と会うんだ)


 落ちゆく途中、懐から飛び出してきたものがあった。南京玉簾である。太鼓持ちとして二十余年。亀吉が極めた宴会芸(スキル)は優に百を超える。


 ──スキル:南京玉簾、瀬田の唐橋


 玉簾にて橋を作りて間一髪。見れば先ほどの蜘蛛も、糸を吐いて塀にぶら下がっていた。

「お前え、もう座敷には近づくなよ」

 と、亀吉は堀の上へと上がった。

 そしてその様子見ていた男がいた。


「おめさん、面白い技を持ってやがるじゃねえか」


 この男こそ天下の大泥棒、鼠小僧次郎吉である。次郎吉は、亀吉を追い出した旦那様の屋敷へ盗みに入る途中であった。



   ※



「さてさて今宵ご覧いれますは、世にも珍しき鳥人間、鳥人間でござい!」

 ひっそりと静まり返った屋敷を前にそう口上を述べた亀吉は、扇子を両手に広げ、


 ──スキル:形態模写、里雀


 顔を真っ赤にし雀のように羽ばたくと、ふわあっと浮かんで塀の向こうへひとっ飛び、

 裏口の閂を外し次郎吉を招き入れると、次郎吉は音もなく勝手口の戸を開け中を物色し始めた。


 さて、手持ち無沙汰の亀吉、

(この屋敷にはたしか、お清さんとかいう旦那の奥方がいたはずだ。飼い猫が死んじまって気が触れたという………この部屋かな)


 と部屋を見つけ出し、中をそっと覗くと、


 ぼさぼさと髪を逆立たせた女、清が猫のように四つ足でぺたぺたと部屋を歩き回っていた。清は「にゃーお」と鳴いた。と思うと、不意に亀吉を見、奇声を発しかけ、亀吉は慌てて、


 ──スキル:曲屁福平、マタタビ


 清が騒ぎ出す前に褌を解いて尻をまくると、ぶうっと一発マタタビの香の屁を部屋に放ち、清は「にゃあ………」と酔っぱらって倒れ臥し、「すまねえ、静かにしていてくれ」亀吉、畳に上がり、清を布団へと寝かしつけ、そうこうしていると、


「畜生、今夜は散々だ。それもこれも亀吉の野郎のせいだぜ」


 と酔っぱらった旦那様の声。


(もう帰ってきやがった!)


 のっしのっしと足音近づき、スッと戸が開けられた。


 ──スキル:早着替え、二人羽織

 ──スキル:声帯模写、お清さん


「あら、お帰りなさい」


 清の着物の中に潜りこんだ亀吉、清の声色を真似てそう言うと、旦那様は目を見開き、


「お清、おめえ、正気に戻ったのか」


 大粒の涙をほろほろ落とした。駆け寄り抱きしめようとする旦那様を避け、(ええい、ままよ)と


「お前さん、先に湯へ行って頂戴」とシナを作ると

「おお、すまねえ」


 この間に逃げなければと着物を脱ごうとするが慌てて結んだ帯の結びは固く、亀吉、尻を突き出し悪戦苦闘、

 旦那様、清が正気に戻ったことが信じられず、忍び足で再び部屋を覗くと、艶めかしく動く尻。「むぅ、こりゃたまらん」とその尻に飛びついた。




 亀吉は毛深い腕にむんずと掴まれ、あれよと言う間に太いモノが尻に───


「お清、愛してるぞ!」


 ズドン。


「喜んでェェェェエエ!」


 亀吉の絶叫、帯が解け、着物を跳ね上げ現れた亀吉に、旦那様は仰天、


「かかか亀吉が出たあ!」


 亀吉、激痛に意識朦朧の中、負けてはならぬと最後の力を振り絞り、括約筋を締め上げ、


 ──スキル:ケツ割箸、へし折り


 ぽきん。


「悪夢じゃあああ!」


 旦那様は泡を吹いてぶっ倒れた。


(はあ、はあ、もうこんなところおさらばだ)


 尻穴を庇いながら褌を締め、ふと振り返るとニヤニヤ笑いの旦那が四つ足で歩き回り「にゃあ、にゃあ」


(旦那の方が猫になっちまった……)




 雀になってひとっ飛び、塀の向こうでは次郎吉が待っていて、


「ほら、お前の取り分、一両だ。閂外し代としちゃ十分だろ」


(畜生、馬鹿にしやがって)亀吉はもはやスキルでも何でもない巴投げで次郎吉を塀の向こうへぶん投げると、


「にゃあお!」「にゃあ!」「うわ、なんだ、俺は猫はダメなんだ。痛てえ、痛てえ、食い殺される!」


 哀れ、これが鼠小僧の最期となった。


 亀吉は着物についた泥を払い、ふらつく足を律し、吉原へ向かった。 



 ※



「それでよ、『旦那様が千歳さんを屋敷に招いている』って嘘をついてな、手付として百両を渡したんだ」

「まあ。でも亀さん、一両しかもらえなかったんでしょ」

「それは……店で俺とお前でよ、芸者や旦那の目を盗んで文を交換していただろ、お前の懐から文を抜いて、俺の文とすり替えて」

「あの巾着切りの早わざで鼠小僧から百両盗んだってわけね。悪い人」


 千歳──今は名をお鶴と変えているが──は亀吉の肘をつねって微笑んだ。

 あの晩、千歳を連れ去った亀吉は、自分の田舎へと帰ってきていた。女を連れて帰ってきた倅に両親は大喜びで、あれよという間に商売にしていた団子屋を継がせた。


 最初、亀吉は「旦那の心遣いで一緒にしてもらった」と千歳に嘘をついたが、すぐにばれた。そしてようやくことのあらましを話したのだった。


「ほら、もうすぐお客さん来るんだから、シャキッとして。亀さんがこの店の顔になるんだから」


 千歳は元遊女とは思えぬ手捌きで火をおこし団子を並べている。


(しかし、親父が団子屋だったのはちょっと具合が悪いや)


 千歳が団子に串を挿すたび、あの日の尻の傷が痛むのだ。そんなことを知ってか知らずか、「鶴亀団子店」は今日も大賑わいとなるのであった。




※※※


初めまして、瓜生閏(うりゅう うるう)と申します。

「忠誠を誓った旦那様に追放されたので、被虐生活の中で得たチートスキルで復讐したらトントン拍子で商売繁盛!〜旦那様は発狂して気が触れたそうです(笑)〜」の第1話を読んでいただきありがとうございました( ˙▿˙ )


結婚はゴールではなくスタートだと言われる通り、亀吉とお鶴の物語もまだまだこれからですので、ぜひ引き続き応援おねがいします!

(早く第2話の展開考えなきゃ…… Σ\(˙▿˙ ;)ォィ


実はこの第1話、つい筆が乗ってしまい1000文字ほど削ってまとめたという経緯があり、展開が早過ぎ分かりづらいのではと心配しています(´;▿;`)ウルゥ。。

感想をいただけると嬉しいです(笑)


あと、これはお願いなのですが、少しでも面白いと思っていただけたら⭐をつけていただきたいです。

作者のモチベーションが上がりますので、どうぞよろしくお願いしますm ( ˙▿˙ ) m ペコッ

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