グレタ
mimiyaみみや
グレタ
IPCCの報告によると、ここ10年ほどで地球の平均気温は1.07℃上昇し、今後20年以内にさらに1.5℃上昇すると予測している。これにより最大30%の生物の種が絶滅の危機にさらされる。それは食糧難や自然火災や水害を引き起こし、人間の生活をも脅かす。
地球温暖化は二酸化炭素に代表される温室効果ガスの濃度上昇により引き起こされ、それは人間の経済活動が原因であると彼らは断定した。
地球温暖化は今なお加速している。
ニューヨークで開かれた国連・気候行動サミットの壇上で、少女は強い口調で警笛を鳴らした。若者代表だとか、人間代表、ましてや地球の代弁者を気取るつもりはさらさらない。ただ、自分の生活が他人に脅かさせるのが許せなかった。自分が死ぬ前に聴衆の多くは寿命を迎えるだろう。だからいつまでたっても他人事で、問題を先送りにしている。
スピーチは拍手喝采の内に幕を下ろした。彼女の脳は1300gに満たなかったが、その喝采が大道芸人に送られるそれと変わりないことを理解していた。
ただ、その伸ばした手の爪先に僅かな引っかかりを感じていることも確かであった。少しずつではあるが世の中が動き出していた。彼女に賛同し行動を起こす人間は1万人にも達そうとしていた。”学生らしいごく普通の”生活を送るため、自分の青春を犠牲にしてきたことは間違いではなかったと感じた。
帰りの列車の中でひと息ついてTwitterを開くと、彼女についての記事が目に入った。
“怒れる少女 ボーイフレンドと散歩”
記事は彼女がボーイフレンドと歩いているところを写真に収め、どこをどう歩いたとか、どんな様子だったかなど詳細に記していた。
彼女は激しい怒りを覚えた。人が真剣に”未来”について憂いているのを”怒れる少女”などと彼女をあくまでマイノリティだと揶揄し──。
彼女は記事にたった今ついた”極めて私事的な”コメントを見て思考が止まった。
“環境のためスキンは使わないんだろうなw”
そのコメントの”いいね”のカウントは50、100、1000と瞬く間に増えた。
“いいね”は1万を超えてなお増え続けている。
列車の窓には高層ビル群を行き交う人々が溢れている。
大気の二酸化炭素濃度は今も上昇している。
スマホの電源を切り、彼女は息苦しさに喘いだ。
グレタ mimiyaみみや @mimiya03
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