私の小説作法 / 聖女の像

mimiyaみみや

第1話

私の小説作法


私がどのように考えてものを書いているかをまとめたものです。


《着想》

はーいみなさん! 好きなものは何ですか? 最近、何を面白いと思いました? ムカついたことでもいいですよ。それがおはなしの種になります。

「俺はアニメが好きだぜ!」

結構、結構。

「コロナで出歩けないからムカつく!」

大変よろしい!

それを掘り下げてみましょう。


アニメであれば、関連ワードやお決まりのパターンなど、調べてみましょう。例えば「作画崩壊」。なんか、アニメの絵が下手なやつです! 面白いですね! 調べてみると作画崩壊には、作画者の技術不足のパターンと躍動感のある動きを表現する為にわざと絵を狂わせてるパターンがあるようですね。後者は厳密には作画崩壊ではないのだとか。

さあ、見えてきました!


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「作画崩壊」

不美人に悩む少女の渾名は「作画崩壊」。彼女はあるとき閃いた。私は作画崩壊なんかしてない! 躍動感のある動きを表現してるだけなの!

彼女は反復横跳びを始めた。

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コロナについても調べてみましょう。核に突起のある気持ち悪い形をしているようです。

さあ、見えてきました!


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「コロナ」

人類が諦めかけたころ、立ち上がったのはT美容クリニックだった。古今東西あらゆる手法ーーすなわち「毛抜き」「ブラジリアンワックス」「レーザー」などの脱毛技術を駆使してコロナウイルスの表皮を滑らかにしていった。

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着想できました!




《設定と展開》

お次は、見えたおはなしの種を最大限に生かせる設定、展開を考えましょう。

上記の「作画崩壊」であれば、主人公は女の子がいいですね。「可愛くなりたい!」と奮闘する様子はなんともいじらしいじゃありませんか!

止まると作画崩壊と呼ばれることに怯えた少女は写真を撮られるたびに反復横跳びを始めます。「こら、じっとしてなさい!」と怒られたって彼女は負けません。「手振れ補正になんか負けないんだから!」なんて決め台詞もかっこいい!

俊敏さを買われてスポーツ選手になっちゃうかも!


「コロナ」であれば、ひとつひとつ脱毛するのは現実的ではありません。コロナウイルスって何個あるか知ってますか? いっぱいあります!

でも大丈夫。日本には美容師が五十万人います。コロナにも負けない数だと思います! コロナのせいで客足が減った美容師たちが徒党を組み、コロナたちを三つ編みにしたり、ウルフにしたり、ボブにしたり。

頑張れ美容師たち! あなたたちが最後の砦です!

設定と展開は、常識なんてぶっ飛ばして自由に妄想しちゃってください!




《オチ》

オチは、考えた設定をひっくり返したり暴走させたり、作者の腕の見せ所。設定という梯子を外してもいいですね。ただ、きれいにまとまり過ぎると、こぢんまりして記憶に残りにくい作品になるという弱点もあります。

作風によってはオチをつくらずに、一歩手前で切り取り、想像の余地を残すと読者の記憶に残る話になると思います。

いろんなオチを考えててみましょう。


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「作画崩壊」

一、反復横跳びしすぎてバドミントンのオリンピック選手になるも、インタビューしようにも反復横跳びしながらどこかにいってしまう。

二、卒アルで何一つまともな写真がなく、誰の記憶にも留まらなかったので心霊写真としてお祓いされる。

三、同じ思想の反復横跳び男が現れる。二人の相対速度はゼロとなり、見つめ合い恋に落ちる。

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「コロナ」

一、様々な美容師によって個性を持たされたコロナは、それぞれが新型となって人類は滅亡する。

二、女子高生の間で、カリスマ美容師にカットされたコロナに感染することがステータスとなる。

三、下手な美容師にカットされたコロナが自身を恥じて感染自粛するようになる。

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どんなオチがお好みですか? ここまで頭に描いたら、いざ書き始めましょう。時に思いもよらぬ方向に物語が進み、作者を笑わせてくれます!

さあ、いよいよ書いてみましょう!




※※※


聖女の像



「馬鹿、これは作画崩壊じゃなくて中割りをキャプっただけだろ。素早さを表現するためにわざと崩してんだよ」

 アニメの批評をみていると、その一文が目に飛び込んできた。眼から鱗が落ちた。これぞ青天の霹靂!

「作画崩壊」と渾名されるノゾミは、自分の顔に自信がない。しかしノゾミは気付いてしまった。そう気づいてしまったのだ。

「私って、素早さを表現してるだけなんだ!」


 その日からノゾミは、人の目の触れるところでは常に反復横跳びで過ごすようになった。


「最近ノゾミやばくね?」

「頭がイカれちまったよな」

 怪訝な顔でノゾミを盗み見る男子たちに、

「ほらね! 素早さを表現してる私は可愛く見えるんだ!」

 と注目を集めたことに喜んだ。


 ノゾミはすっかり自信を取り戻し、人前に出ることを厭わなくなった。ただし、反復横跳びだけは欠かさなかった。反復横跳びをしながら往来を進むとよく目立つ。ノゾミをみた通行人は皆、関わりを避けるように目を伏せた。

「ほらみんな美しい私に照れてる!」


 ※


 一方その頃、世界では新型のウイルスが蔓延し始めていた。日に日に感染者が増え、景気は底無し沼に沈み込んだ。唯一ウイルスを弱体化させる方法は、核を取り巻く毛状のニヒルエミ線を取り除くこと。これにより受容体への結合を抑止し感染を防ぐことができる。このために編み出されたレーザー脱毛作戦により、美容外科医たちが駆り出された。ウイルスをウイルス取り網で捕まえて、医師による問診を経た後にレーザー脱毛を開始する。二週間後に取り逃がしたムダ毛をさらに脱毛し、ウイルスを赤ちゃんのような卵肌にし街に放つ。この作戦により四十八個のウイルスを弱体化させることに成功した。しかしそれを最後に医師ら全員のウイルス感染が確認された。医師たちは「やれやれ、人生に意味などないというのに」などとウイルス感染者特有のニヒルな文言を垂れ流し救急搬送された。日本には想像以上のウイルスが蔓延していた。外出禁止令が出され街ではウイルスだけが我が物顔で跋扈していた。人類滅亡へのカウントダウンが始まったかのように思えたが、立ち上がった男女がいた。美容師である。日本には五十万人の美容師がいた。彼らは生まれた時から人生の意味など考えたことはなかった。すなわちこのウイルスに対し無類の抵抗力を持っていた。「ウェーイ」と五十万人の美容師が街に放たれウイルス個々の核の形に合わせてモテカワ似合わせカットを施していった。ついに全てのウイルスは美容師たちによってシャレオツに生まれ変わった。人類に希望の光が差した。それも束の間ニヒルエミ線をどんなに可愛くカットしても感染を防げないことが判明した。「ウェーイ」と五十万人の美容師は撤退していった。美容師によって個性的になったウイルスたちは自我を持ち、「やっぱナチュラルなのがいいっしょ」「脱毛を求めるのは男のエゴで女の尊厳を踏みにじっているわ」などと脱毛を拒否しウイルスたちは栄華を極めた。人類は家から一歩も出ることはなくなった。


 ※


 ノゾミは自室の鏡を見て泣き狂った。

「動いてない私なんてただの作画崩壊よ!」

 外出禁止令が出てから外に出られず反復横跳びを封じられたノゾミは生きる意味を見失っていた。そしてついに何かに導かれるようにフラフラと外に出ていった。


「人間だ! 人間だ! 感染させるぞ!」

 ウイルスたちはほどなくノゾミを見つけ追いかけ始めた。

「反復横跳びよ! 反復横跳びできるわ!」

 ノゾミは久しぶりに外に出て、思う存分反復横跳びをしていた。

「なんだこの人間! 速いぞ! 追え!」

「みんな見て! 美しい私を見て!」

 ノゾミはすっかり狂っていた。三日三晩反復横跳びでウイルスを躱し続け、ノゾミはついに世界の果てにたどり着いた。

「ああ、いくら反復横跳びしても誰も見てくれないわ。結局わたしは作画崩壊のままの女なのね。」

「おい、人間が止まったぞ! 飛び込め! 感染だ!」

 全てのウイルスが一斉にノゾミの体内に侵入した。同時にノゾミは世界の果てから身を投げていた。世界中に蔓延していたウイルスを一身に受け止め、ノゾミはこの世界を去った。


 ※


 やがて一人、また一人と外出する者が現れ、人類はウイルスの危機が去ったことを知った。世界は再び活気を取り戻した。

 人々はノゾミを称え、各地に像を建てた。ノゾミの顔を正確に把握する者がいなかったため、その顔は極めて美しくかたどられた。

 自分の顔を嫌い反復横跳びを続けた少女は、今は動かぬ像となり、美しい顔で微笑んでいる。

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