2燿2話-② 海底国家ロネウネ・モイス

 王都を囲う石造りの城壁の外側。

 色鮮やかな魚達ですら寄り付かない深い海溝の暗闇に、頼りない青白い光が揺れる。

 海ほたるの光は合わせて5つ。

 それらを従えるのは、いずれも7、8歳ほどの少年少女達。長寿な人魚族といえど、まだまだ子供として育てられる年齢だ。

 一同に見守られながら、ひとりの少年が手にしていた杖を高く掲げる。

 すると視界がぐにゃりと曲がり、次の瞬間、彼らの姿は消えた――。



「『追郷の貝郡』?」

 時同じく。クレアとナナのふたりは、イルカのポセイドンの背に乗り、海溝の中を進んでいた。

「そんな場所あったの? 初めて聞いたよ」

「これまで行く必要がなかったのよ。でもそこが目的なら、宝杖を盗んだことも納得できるわ」

「どうして?」

 ナナは前方のクレアの顔を横から覗き込む。

 クレアはナナを一瞥し、視線を戻す。

「『追郷の貝郡』は特別な地。ロネウネ・モイスワタシの故郷に限らず全ての記憶が、水を通じて泡となり、流れ着く場所なの。そして、その道を拓けるのは、ワタシとルアが所有する宝杖だけって話ね」

「だからそこに向かっているんだね。でも違う可能性も捨てきれないよね? 本当に売ってお金にするのが目的だったりするかも」

「ええ、そうね。無駄足だとしても犯人は見つけられるわ。だってそこには、全ての記憶があるのだから」

 「ついでに『エターナルスター』の在処も見つけちゃいましょう」と、本来の目的をついで扱いされ、ナナは苦笑顔を見せる。なにはともあれ、想定よりも早く見つけられそうだ。

 『キュ』の音とともに、ポセイドンの体が揺れる。

 彼女らは会話を終え、ポセイドンの背から海底に降り立つ。辺りに目ぼしいものはなく、終わりが見えない海溝の景色だけが広がっている。

 クレアは一歩前へ進み、軽く腕を振るっては“本物”の『ロネウネ・オーブ』を召喚。杖先を前方に翳し、光を放つ。

 視界と同時に体が左右に伸びる感触を覚える。

 数秒間耐え凌げば、そこは暗い海の底ではなく――無数の貝が点在する異空間に辿り着く。

「ここが『追郷の貝郡』? 綺麗だね〜」

 色とりどりに発光する貝の口は開かれ、天よりふわふわと流れる泡が中央に鎮座する真珠の中に吸い込まれている。クレアの話通りなら、泡のひとつひとつに世界の記憶が眠っているのだろう。

「神秘的だね」

「……アナタが言うのね、それ」

「でも閉じてる貝もあるんだね」

 目立たないものの、閉じ切っている貝もそれなりに見受けられる。

「ある程度記憶を集まったら閉じてしまうのよ。宝杖コレで突けば開けられるけど……見たい?」

「要らない要らない。それよりほら、犯人見つけないと」

 急かされたクレアはくすくすと妖艶に笑み、こっちよとナナを連れて貝郡を進む。


「……あら」

 声音を変えたクレアが足を止めたのは、それから暫く進んでのことだ。

 一際目立つ大きさの貝を、人魚族の子供が5人、ぐるりと取り囲んでいる。クレアの話ではこの場所に来れるのは限られており、一般人が滞在することは出来ない。

 ならば――クレアは子供のひとりが握り締める杖に、目を細めた。

「見つけたわ。犯人達」

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