第113話 龍退治

 さぁ、早速翌日でございますが。本当にね、こちらとしても痺れ気を切らしそうな感じですからね、早いとこ終わらせてしまいましょうということで。

 どうにも気が急いて仕方がないが、こんなところで躊躇っても仕方ない。焦りに身を任せるぐらいのつもりで行きましょう。


 ということで辿り着いた御龍様のお膝元。一ヶ月常温で放置された魚みたいな目をしている龍に初撃を叩き込む。甲高い音、そしてそれに続くように破裂音。砕けた鱗がはじけ飛ぶのが視界の端に写る。

 龍が顔を上げてこちらを睥睨した。いつものように気合が入っているのが分かる。目の奥で炎が燃えているような、光のまたたくく双眸。…………それが普段よりも冷えて見えるのは、偶然か否か。まぁ、そんなこと気にしても仕方がないんですけどね。


 龍の背後にある岩場の方へと跳ぶ。まだ午前中の早い時間帯で、太陽は、目障りな程には高く昇ってはいない。浅く息を吐いて、足に力を入れる。

 こちらを振り向いた龍は、微塵も躊躇わずに炎を吐き出す。それを、止める。頭の変な部分に力を入れているような、気持ちの悪い感触。


 炎が止められたことには最早驚かない龍は、そのまま翼を広げ、そして飛び上がった。しかし翼を翻したのは一度だけで、そのままこちらに突っ込んで来る。

 巨大な質量はそのまま岩場へと着地し、辺り一面に岩石の破片を撒き散らした。砂塵の隙間を縫うようにして龍の足元から離れた。


 砂塵が晴れるまでもなく、龍の巨体は確りと視認できる。静かに振り返った龍の瞳からは、先程のような炎は消えていた。


 態勢を低くした龍は、大きく足を踏み出して、駆け出す。その巨体に見合わぬ俊敏さで、龍は速度を上げた。

 垂直に走ってそれを避けようにも、龍の巨体に対しては逃げ切ることはできない。無理に跳ねて龍の軌道から逃げた。そして振り返り様に、龍の足に剣を叩き込む。魔力の薄膜で覆った剣はやはり堅固で、龍の鱗が砕け、そしてその奥の筋にまで剣がめり込んだ。


 右手に力を入れ、剣を引き抜く。龍が低い声で唸り、翼で自分のいる辺りの地面を払った。その爬虫類然とした翼をモロに食らって、体勢を崩す。軽い脳震盪を起こしたのか、一瞬だけ足がふらついた。


 薄く見える翼でも、尋常ではない程の硬度を誇っている。魔力の作用か、それとも純粋な物質の性質か。何にせよ、無視できない存在であることは間違いない。


 炎を吐き出した龍を、魔力で止めることはせずにそれを避け、炎の死角を辿るようにして龍の許に迫る。先程から攻撃している足元に、更に一撃を叩き込む。


 ─────と、龍の足が不意に跳ね上がる。腹部に龍のつま先が刺さり、胃が潰れるような衝撃と共に視界が回転する。

 視界の半分が青に染まった。太陽が眩しい。浮遊感が全身を襲う。


 地面に叩き付けられた衝撃が、脳から思考を一瞬奪う。何を考えれば良いか、はっきりしない。次の動きは。


 龍がそれを待つことはなかった。


 龍の足の裏が迫ってくる、そう思った一瞬後には、信じられない程の重みが全身にかかっていた。決死の思いで、血液に魔力を巡らせる。熱い魔力の塊が全身を巡って、心臓の鼓動が一呼吸の間だけ強く拍動した。


 身体が世界から消える。


 先程の空中での浮遊感が児戯に思えるような、空虚な恐怖が精神を襲った。叫びながら、周囲の魔力を搔き集める。

 自分の体は、直ぐに現実世界へと戻って来た。


 ぶっつけ本番で使うようなものではない。そう思ってはいたが、本当にその通りだった。全てが自分の知り得ない感覚で、世界から自分が消滅したような不安感が、未だに胸の奥に巣食っている。息切れだけのせいではなく、心臓が早鐘を打っている。


 龍が此方に気が付いていない内に、また足元に狙いを定める。全身を伸縮させて込めた力を、剣に乗せて、放つ。

 鈍い音と共に、何かが千切れるような音がして、龍の足が切れた。


 龍は飛び上がらない。翼を広げるだけ広げて、また炎を口から吐き出す。その炎を止めて、エネルギーとして収束させる。

 龍が吐き出した熱量は、一吹き、ただそれだけで絶大だった。固形化し、剣を形成する。握って、それをそのまま龍の顔面へと投げつけた。

 素早い動きでそれを避けた龍は、そのまま翼で地面を低く薙ぎ払う。それを態勢を低くして避けた。頭上を鈍い羽音が通り過ぎる。


 遠くへと飛んで行った炎の剣を、そのまま戻ってくるように操作する。頭痛がして、それと同時に視界の端にオレンジ色の物体が写り込んだ。

 それをそのまま、龍の頭の方へと飛ばす。鈍い音共に、その頭蓋に剣が刺さった。


 …………ただ、それでも龍の動きは止まらない。


 雨に濡れた犬のように頭部を振るわせた龍は、剣が無事抜けたことを確認してから、一度後ろへと引いて態勢を整えた。その足は、既に再生している。


 さぁ、また初めから。溜め息が出ますねぇ。




――――――――――――――――――


 大変永らくお待たせしております。諸々が色々と収拾がついて、やっと落ち着いて生活が出来るようになってきたかな、という所です。

 ということで、更新再開します。本当にお待たせしました。

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