第82話 旅行編 二

 さて、移動を続けること一時間程度。辿り着いたのは、少し開けた広場的な場所。周囲の迷宮ダンジョンは既に破壊され尽くしていて、魔物が見られるとしても全員顔見知り。

 結局普段の行動範囲内であることには変わりないのだが、少し景色の良い場所、しかも常日頃から生活している場所から少し離れるとなると、やはり気分は上がる。


 ということなのだが、まずテントの設営をしなければならない。完全に初心者なので時間が掛かること請け合いなのですが。まぁ、それも一つの楽しみだと思えば。

 ちなみに日和さんは爆睡中。折角私が運んでたって言うのに腕の中で凄い眠ってましたからね、あの人。まぁ、ここまで無事辿り着いたから良いけどね。彼女は今も、豆腐と仲良く柚餅子に寄り掛かって、昼寝を続けている。流石にこの場所に着いた時は起きたのだが、結局寝ぼけたまままともな返答もできなかったので、いつものように柚餅子さんに寝床になってもらって寝かせた。そこに豆腐が飛び込んできて一緒に眠ったという寸法。

 豆腐に関しては、初めての外なのだからもう少し燥げばいいのにとは思わなくもないものの。まぁ、柚餅子さんも初外出するときそんな騒いでなかったし。これも血筋なのでしょうかね。


 そして買って来たテントだが、実は二人用所ではなく四人用でありまして。折角だから少し広めのものを買おうかと思い、つい。別に狭い場所に寝泊まりする予定はない上、特にテントが必要になりそうな行事も思いつかなかったので、この買い物に関しては完全にただの散財だったりする。

 つまりは設置するのが異様に面倒っていうことなんですけどね。決断する前に深く考えないせいで後から後悔するのは、最早恒例行事と化してきている。つい規模を大きくしようとしてしまうのは悪い癖だと分かってはいるのだが…………。


 えっちらおっちら荷物を地面に並べ、俺のことを囲んで寝転がり眺め始めた三匹の魔物の視線を感じつつ、準備を進めて行く。別に餃子さんと胡麻さんはどこかで遊んでても良いのですが。何故ここまで凝視されなければならないのですかね。


 付属の設営方法説明書的なものを眺めつつ、指示に従ってゆく。先ず初めに必要なのは、平坦な場所。特に山の中かどこかで設営する場合には、なるべく傾斜が少ない場所が良いそう。その点に関しては、この場所は問題なかった。

 次に、地面にある岩を取り除く。開けた場所、つまりは小さな草原的な場所を選んだお陰で、木の根はあまり見つからない。少しでも硬い物が下にあると寝づらいとの事だったので、木の根の影響がなさそうな場所を探し、岩をなるたけ取り除いて行く。と言っても、私たちは普段から岩でできた床の上で寝ている訳で。割と体は順応しているのではないかと思ったり、思わなかったり。まぁ、初回はミスしたら怖いのでガイドに従いますが。

 あと設置場所に関しての指示は、風雨を避けて設置すること程度だった。もう一度手引書を流し読みし、見定めた場所が条件に適うことを確認して、一旦そこに場所を決める。


 次は実際の設営。まずはグランドシートを敷き、そしてポール諸々の組み立て。外布の中にポールを通して、その端を穴の中にはめ込む。ここに来て急に見慣れたテントの形に変貌した。

 陳腐な感慨を抱きながら、外側から更に一枚シートを被せる。後はペグ打ち。それが終われば紐を括って完成ですね。一応何とかなったものの、確実に一人でする作業ではなかった。次はできれば日和さんにも手伝ってもらいたいところ。


 そして悪魔のように語られることも多いペグ打ちだったが、私の場合は手でぐっと押し込めば地面の中に収まってくれたりもするので、案外楽だったり。ここら辺の力仕事が凄い楽になったのは一連の出来事の中でも嬉しかったりするよね。凄い昔の川の埋め立てなども、今の自分であれば数分で終わるような気がする。

 とは言っても、あれがなければ今の自分はないわけで。卵と鶏の問題のようにはなるが。…………いや、タイムマシーン祖父殺害事件の方か。


 とにかく、テント設営終わり。

 後は持ってきた荷物類を柚餅子の背中から取り外し、テントの中へと運び込んで行く。テントの中とはいえども、その横に着いたタープ屋根の下なだけだが。ともかく、ここに置いておけば雨に濡れるようなこともないだろうので。

 今ままで迷宮ダンジョンの中という完全に乾燥した環境にいたために、何かしらの湿気で持ち物が駄目になるのが心配だったりする。出来ることは何もないのだが、それはともかく。


 ここに来るまで色々と頑張ってくれた柚餅子の頭を撫で、乾燥肉を一切れ上げる。このサイズ感では肉一切れなど腹の足しにもならないはずなのだが、柚餅子さんは割と喜んでくれるのでね。人に喜ばれるとつい繰り返したくなるというのが人の常というもの。

 ずっと拘束されっぱなしの柚餅子を開放するために、日和と豆腐を起こす。豆腐は目を覚まして直ぐに俺に頭突きをした後、そのままの勢いで羊羹の方へと走って行った。あなたの体格だと凄い衝撃を受けるってことを分かってないんでしょうか。完全に吹き飛ばされたんですが。

 日和さんは相変わらずの寝起きのようで。ここに来るまでにどれだけ寝ましたよ、貴女。何故まだ目が覚めないんでしょうかねぇ。どうせ考え事してて夜眠れなかったとか言うんでしょうけど。


 寝ぼけてふらふらしている日和を持ち上げて、そのままテントの中に放り込む。既に寝袋が敷いてあるから直ぐ寝れるでしょうね。

 ということで、今日の仕事は終わり。後は適当にこの辺りを散歩でもするかな。

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