第34話 鉄パイプ三号とキッチン

 そして更に買って来たのがですね、こちら、新しい武器でございます。


 父親から貰って使い続けていた金属パイプ二号────という名を冠しておきながらパイプですらなかった彼奴でも、流石に体の固い魔物を殴り続けていたら変形もしてくる。なるべくダメージを与えないようにしたり、毎回叩く向きを変えたりして色々と工夫はしてきたのだが、流石にそろそろ限界が近づいていた。


 ということで、購入してきました新しい武器。バッグの一番上に入っていた武器に手を伸ばして、一旦振ってみる。家でも少し触っては見たが、やはりこうして広い場所で振ると感覚が違った。

 材質は、以前のものよりもしなやかさのある鋼鉄。硬度があるだけだとやはり衝撃に耐えきれず、勢いのままに曲がってしまうこともあるため、こうして少し柔らかさがある方がトータルでは丈夫になるらしい。

 更に以前までの武器とは違う点は、その太さだ。威力を上げようと思うとやはり重量を増やしたい。しかし長すぎても、この狭い洞穴の中では扱いにくい。そこで間を取って、握りづらくならない程度で少しだけ太さを変更した。以前と比べて握力も変化してきているので、この程度の太さでは握る際に困ることもないだろう。


 そしてそのグリップについても、今回買って来た物がある。というのも、今までは金属の棒を素手で掴んでいたために、やはり血液で濡れて滑ってしまうことが少なくはなかった。手持ちの部分にテニスラケットのグリップテープを巻き付けたりと色々試してみたのだが、急いで拾った際にどちらが持ち手側か分からなくなるなど、やはり扱いにくさはなくならなかった。

 そこで、今回は滑り止め付きのシリコン製グローブを買って来たのだ。薪ストーブなどで斧を用いて木を割る時に使う、黒い地に手の甲の部分が赤くなっているものだ。素手の方が感覚が鋭くはなるかもしれないが、こうして滑り止めが付くだけでもかなり思い切って武器を振れるようになる。


 怪我をしないようにプロテクターなどを買ってくることも考えたのだが、怪我を心配する魔物の様子を考えると、あまり意味がないような気がして買ってこなかった。現状では自分の体の頑丈さの方が信用できる。


 そしてもう一つ、大きな買い物がある。

 それは、移動式キッチン。


 食の大革命である。


 ……………迷宮ダンジョンに初めて長期間潜った時、持ってくる食事は大失敗した。その後にも、持ってきたサンドイッチがいつの間にか潰れて居たり、警戒して持ってきた弁当箱が潰れたり、買って来たペットボトルが魔物に奪われて潰されたり、食べ物関連での非常事態は尽きることがなかった。

 しかし、仕方がないことではあった。いかに迷宮ダンジョンに長期間潜ると言っても、その期間の長さはせいぜい二日程度。その短い時間では、空腹で辛くなることはあっても、餓死するような事態にはならない。であれば、食事よりも重要視しなければならないのは、身軽さだ。逃げる際にも、闘う際にも、巨大な荷物を背負いながらではあまりにも動きにくい。だから、そう、仕方がないのだ。

 

 ただ、やはり、疲労には美味い食事が良い。

 というより肉が食べたい。こちとら男子高校生ですからね。幾ら紐みたいな体してるって言っても、やっぱり肉が活力なんですよね。いや、マジで肉がないと生きて行けないから。


 しかし、この迷宮ダンジョンに持ってくることはできない。というのも、材料としての食肉を買おうとすると、この迷宮ダンジョンとは反対側にある栄えた街の方向に向かわなければならず、それだけのためにクーラーボックスを持ってくるというのは流石に柚餅子にとっても負担だ。今までは二日だけだったが、今後はそれ以上長くなることを考えると、流石にその期間生ものを常温で放っておくというのは避けたい。少し乾燥させてとか、色々と考えはしたがやはりどれも面倒だ。


 ということで、魔物肉。試してみようかと。


 人類の敵として方々から憎まれている魔物だが、その実態は動物と殆ど変わらないらしい。見た目からしても色々な動物が混ざっているが、身体機能に関してもそうらしく、動物を大まかにカテゴライズした際に同じ分類に入った動物を全て混ぜて作ったかのような状態のだと。

 であれば、きちんと処理すれば食べられるはず、ということでありまして。


 勿論、こんな森の中孤独に腹を下すのはあまりにも惨めなので、色々と調べて準備はしてきた。血抜きの方法も調べて来たし、洗い方とか、どこまで火を通せば安全に食べられるだとかの情報は種々仕入れて来た。流石に魔物の肉を食べた者をネット上に発見することはできなかったが、必要な情報は集められたと思う。


 移動式キッチンというのも、キャンプ用に過去に販売されていたが売れ行きが悪くなって倉庫の主となっていたものを安値で買い、塩胡椒辺りの基本的な調味料も揃えて来た。中にはローズマリーだとか、バジルとかいうハーブの類も幾つかある。

 野菜に関しては、高めだったので少ししか買ってきていない。サラダになりそうな葉物と、何かと便利そうなジャガイモやら人参やらだけだ。ただ、この辺があれば大方の料理は出来るはず。


 父親と二人暮らしをしている関係で、日頃から割と料理はしている。ただ、何かと便利なシステムキッチンがない場所での野外クッキングというのは流石に経験がなくてですね。

 少し不安は残るが、まぁ、自分一人しか食べないのだから例え失敗しても別に良いだろう。


 さて、こんな感じのが今回の荷物です。勿論、色々と快適になるように、大量の着替えやらタオルやら洗剤やら歯ブラシやらも持ってきた訳ですが。

 ということで、これからの迷宮ダンジョン攻略は色々と様変わりしそうだった。料理の匂いで魔物が誘き寄せられたらどうしようとか色々と不安はあるけどね。まぁ、何とかなるでしょう。

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