ダンジョンに川を流し込もう

二歳児

第1話 ダンジョン発見

 迷宮ダンジョンという存在が一般で認知され始めたのは十五年前───俺、佐藤さとう淳介じゅんすけがまだ二歳で、立って歩いているだけで色々な親戚に「あらぁ、可愛いわねぇ」とよしよしわしゃわしゃと頭を撫でられ可愛がられていた黄金期の頃だ。いや記憶ないけど。


 ともかく、迷宮ダンジョンが出現してからというもの、人間の生活というのは大きく変化してきたらしい。記憶ないから分からないけど。迷宮ダンジョンなかったときまだ二歳だし。赤子だし。


 良く耳に入ってくる話とすれば、迷宮ダンジョン付近は、その魔力が漂ってることで魔物が発生しやすいらしく、容易に外を出歩くことができなくなってしまった。迷宮ダンジョンが発生したせいで旧東京から抜け出さなければならなくなってしまった。色々と発展した。等々。

 こういった話は基本的には父親が酒に酔った時に聞かされる羽目になる。姉はとっくに家を出て嫁いでしまったので俺しか聞く相手がいないのだが、酒に酔うと同じ話を何度も繰り返すのは切実にやめてほしい。飽きた。そろそろ精神が死ぬ。某精神と時に関する部屋でもこんな辛い思いしないと思う。


 そう言ったわけで、迷宮ダンジョン及びその付近と言うのは危険だ。コアを潰すとダンジョンは活動を停止するし、魔物を定期的に倒せばその分新しい個体が発生する際に魔力が使われて周辺に魔物が湧くことはなくなるらしいのだが。それでも魔物を倒すことを生業にするわけでもない俺にとっては十分命の危険だ。近寄れば。


 ただ、まぁ。一般人である自分には関りが無いはずのこの話をしたのは、それなりの理由がある訳で。


「………どうすっかなぁ、あれ」


 場所は自宅の裏山。一応は我が家の敷地らしい森の、その少し奥に入った所。川のせせらぎが聞こえる。一緒に魔物の呻き声が聞こえる。愉快だね。

 魔物は一体。犬というか狐というか、遠くから見ただけでは判別がつかない。

 そしてその魔物の隣には、穴。ぱっと見ではマジでただの穴。


 穴があったら入りたい~、などと頭の中で適当なことを考えながら、その場を去る。部屋に戻って迷宮ダンジョンについて調べてみようと思う。ポケットにスマホあるけどね。魔物いるからね。怖いし、煩いし。


 リビングで腹を出して眠っている父親を脇目に、階段を昇って自分の部屋に入る。パソコンを開いて、検索フォームを開いて文字を打ち込む。一番上にヒットしたページは、定期テスト対策のために色々と纏められたサイトだった。

 安っぽい、所謂な感じのネット記事だが、きっと間違ってないだろうと、そう信じる。


 正直迷宮ダンジョンについてはまだ習っていないので、詳しいことはあまり知らない。高校三年になったら教科書も配られて色々と学ぶことになるのだが。


 あまり面白みのない記事を読み進めて行くこと五分。面白くはなかったが丁寧に書かれていたので、面白くはなかったが分かりやすかった。

 書かれていた内容は基本的に二つ。まず一つ目は、迷宮ダンジョンは未知に溢れているので気を付けましょうという話。いや、そうなんでしょうけど。十五年でどこまで調べられるねんって言う話でしょうけど。も少し頑張って調べてもろて。

 そして二つ目が、魔物の発生について。基本的に迷宮ダンジョンにおいて大切なのはこの二つらしい。


 魔物の発生で気を付けなければならないことは幾つかある。一つ目は、先ほど言ったように、迷宮ダンジョンの周辺で魔物が勝手に発生してくること。ちなみに魔物は魔力がある場所を好むそうだが偶に街に繰り出してくることもあるので注意、と。やばいやん。我が家めっちゃ危機やん。

 そして二つ目は、迷宮ダンジョンのなかでの魔物の発生ポップには色々と規則性があるということ。ちなみにこれは魔力の流れがうんぬんかんぬん、魔力が逗留する場所が定まってうんぬんかんぬん。読み飛ばしました。はい。

 ということで、迷宮ダンジョンの中で魔物は湧き続け、それを定期的に倒さない限り迷宮ダンジョンの外にも魔物が湧き、それが襲い掛かって来るよぉー、とのこと。


 さて、そんな絶大な危機にある我が家をどうしてくれようか。虞や虞や汝を如何せんだよマジで。


 迷宮ダンジョンを発見したらどうするかみたいな公的機関の案内があったから探して読んだけど、「私有地の迷宮ダンジョンは自分で責任もってネ」「魔物溢れたら君の責任ネ」「どうしようもなかったら無償でその土地貰ってあげるヨ」とのことだった。

 どうしましょうねぇ。家の裏手程度だったら人にあげても良いような気がするが、公的機関の持ち物になるというのは頂けない。我が家の唯一の利点は静かである点ですから。


 その後色々と考えたものの、何も思いつかなかった。

 く、この我が頭脳をもってしても手も足も出ない、だと………?


 ということで、一旦迷宮ダンジョンの様子見てきます。敵情視察ってやつです。

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