第19話
藍色の宇宙に数多の星が瞬く空間に創造主はお気に入りの青い星の上に腰掛け寛いでいる。
「今日は君とよく会う日だね」
ニコニコと上機嫌に笑う主。
「大切な、妹のたっての願いだからね。今回は聞き入れてあげるけど、二度目はないよ」
弧を描いていた神の目が真剣なものになり我に釘を刺す。
「それで、君自身はどうしたい?」
『どうしたいとは?』
質問の意図が分からず問い返すと神は試すような笑みを浮かべて再度、問いかけた。
「このままか、以前の君に戻りたいか」
以前の我……。それはどんなだったのだろう?答えられず沈黙を保っていると神が一つ提案を持ちかけた。
「君が今のままでいたいなら、君にふさわしい至宝を作り直してあげるよ。今ある至宝はもうガラクタだからね」
『今ある至宝とは先程のもののことですか?』
感情などないはずなのに問いかける声が自然と硬くなる。
「そうだよ。あれは今の君にはふさわしくないガラクタだ」
違う違う違う。あれは、……彼女はガラクタなんかじゃない。我のたった一人の至宝。
『彼女はガラクタなんかじゃない!』
自分でも信じられないほど声を荒げて反論していた。そんな我を主は満足そうに見つめている。
「答えはもう決まっているようだね。さあ、君を待っている者たちの所にお帰り」
そう神が告げるのと同時に光に包まれた。
ん?ここは?一面銀色の床の眩しさに思わず目を細める我の顔を夜空のようなぱっちりとした藍色の瞳に流れるような銀髪の少女が覗き込む。
「そなた、私に見覚えはないか?」
尋ねる少女の面差しには見覚えがあった。教会にあった女神像に似ている。
『教会でお会いした女神でしょうか?』
自信なさげに返す我に女神は嬉しそうに膝をついている我の首に飛びつき、後ろで心配そうな面持ちで見つめているリトスとコキネリに笑顔で振り返った。
「そなたら喜べ、そなたらのクリューソスが戻ってきたぞ」
聞くと同時にリトスとコキネリが全力で駆け寄り我に抱き泣き出すリトスとペチペチと胸当てを叩いてくるコキネリ。
「良かった、クリューソスぅぅぅ」
「クーのバカァァァ!」
コキネリの叩くのが徐々に強くなりペチペチがベシベシに変わるも我は全く痛くはない。それよりも……
『そんなに叩いたらコキネリのほうが痛いだろう』
少しばかり鍍金の剥げたコキネリの前脚をそっと握った。
「何で一言も相談しなかったのよ」
怒りながら聞くコキネリの問いにウンウンと我の胸当てに顔を埋めるリトスも頷く。
『相談したら、絶対反対するだろう』
「するに決まってるじゃない。だって、私はクーのこと……」
「そなた、クリューソスの事を好いておるのか?」
ニンマリと神にしてはその笑みは下品でないですか女神と言いたくなるような笑みを浮かべながら話に割り込む銀月の女神。
「そそそそそ、そんな事ありませんわ」
盛大にどもりまくるコキネリから女神はいやらしい視線を我に向ける。
「で、そなたの方はどうなんだ?」
『我は……』
我にとってのコキネリ。なんと答えるのが、どの言葉を選べば表せるだろうか。
悩む我に焦れる女神。いつの間にかリトスも好奇心に輝く瞳で我を見つめている。
「正直に答えたら、特別にそなたの願いを叶えてやろう」
出血大サービス、これで答えぬなら強制的にでも吐かせてやるという気迫を女神から感じる。いや、そんなにしなくても……。
『……俺にとって彼女は存在をかけて守る価値のあるたった一人の至宝です』
ゴクリと女神とリトスの喉が鳴り、顔を真っ赤にしたコキネリがパタリと倒れ、我の手の中に落ちてきた。
「それを人は愛してると言うのだ!」
期待通りの回答に女神は大層喜んだ。喜んだ拍子に隣りにいたリトスを巻き込んでクルクル回り踊りだす始末。
「私の期待に応えたそなたに褒美を渡そう。そなたは何を願う?」
上機嫌に尋ねる女神を前に我は困惑していた。我の願いは……。助けを求める様にリトスを見ればその目は貴方の好きにしなさいよと語る。コキネリも同じ様に我に判断を任せている。
現状に満足している我にはこれ以上望むものはない。我にはなかったが、一つだけコキネリが願い叶わなかったことがあるのを思い出した。
『それではコキネリに人の姿を与えてくださいませんか』
彼と一緒に冒険をしていた頃、街ですれ違う少女たちが着飾って歩く姿を羨ましそうに眺めるコキネリの姿を見たことがあった。「わたしもあんなふうに可愛くなってみたいな」本人も誰も聞いていないと思っていた独り言。
「クーに聞こえちゃってたんだ……」
恥ずかしげに顔を俯かせるコキネリに女神が尋ねる。
「そなたもそれを望むか?」
女神の問いにコキネリは「はい、喜んで」と笑顔で頷いた。
「汝の願い、この銀月の女神が叶えよう」
女神が宣言するとコキネリの身体が眩い光に包まれる。徐々に光が薄れるにつれて、コキネリを乗せていた右手に重みが増してくる。大体リトスを抱き上げた時と同じくらいの重さだろうか。
そんな事を思いながら光の消えた右腕の方を見てみると、テントウムシの髪飾りを付けた金色の髪はゆるく波打ち肩まで流れ、翠玉の瞳をくりっと開いた愛らしい褐色の少女が黒い丈の長いスカートに身を包んですっぽりと我の腕の中に収まっていた。
!?
『コキネリ……なのか?』
「そうだよ。クリューソス」
我の問いに少女は愛おしそうに我の名呼びながら頷いた。
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