自販機に行くといつも居る女の子に恋をした話

めんたい粉

5月2日【前】


しゅう、今日カラオケ行かね?」


「ごめん、今日は早めに帰るからさ。」


…なんか今日は遊ぶ気分じゃないなって時にはこうやって適当に断る。




―俺、伊地知いじちしゅう は、周りの人間と比べたら社交的な方だと思う。


高1の時も友達は多かったし、進級してまだ1ヶ月も経ってないが、もうクラスのほとんどの人とは打ち解ける事ができた。


それはいい事だが、ほぼ毎日遊びに誘われるのが少し面倒だ。

俺は相手の顔色を気にしてしまうタイプだから、乗り気じゃない日は適当に理由つけてやむを得ずって感じを出しながら断ってる。



―そして、今日は特に乗り気じゃない日だ。





◆◆◆





「周、お前いつもこっちから帰ってんだろ?俺らも道同じだから一緒に行こうぜ!」


…正直、めちゃめちゃ面倒くさい。

今日は人と話す気分になれないんだよな。



「ごめんな、俺帰り少し寄らないと行けない所あるから。今日はこっちなんだ。」


今まで通ったことの無い細い道を指さしてそう言った。



「ああ…そうか。じゃあまた明日な!」






…はぁ、なんとかなった。

とは言っても、流石にああ言っておいていつもの道で帰るのは怖いから…


さっき自分で指さした、知らない道へと足を運んだ。





◆◆◆





しばらく歩いていると、ただの住宅街に出た。


5月と言えど暑いな…飲み物が飲みたい。ここら辺にコンビニとか無いのか?


少し熱を持ったスマホのマップには、1番近いコンビニはここから2kmと表示されている。


…流石に遠すぎる。


「くそ、訳分かんない道なんて通らなければ良かった。」



そうボヤいていると、



ピッ―

ガラガラッ

ガタンッ




と、音が聞こえてきた。

水分を欲している俺は、その音が何かすぐに分かった。



誰かが自販機で飲み物を買ったんだ。

ってことは近くに自販機があるはず…。


汗を拭って、キョロキョロと周りを見ながら歩き出した。






「あっ。」



車通りの少ない十字路を抜けた先の細い路地裏に、その大きな箱はあった。



ポケットから財布を取り出しながら、少し薄暗い路地裏へと駆け込んで行った。





◆◆◆





ピッ―

ガラガラッ

ガタンッ



自販機から吐き出された水を手に取り、浴びるように飲んだ。


水分不足で狭くなっていた俺の視野は、少しずつ広がっていった。

そして、その視野に、1人の女の子が映りこんだ。



その女の子は、自販機の横で胡座をかいていた。

ボーッと俺の方を見つめながら。

と言うより、

眺めながら。



何故さっきまで気づかなかったんだろうと思う程堂々と座っているその女の子は、日本人らしい長い黒い髪と黒い瞳をしていて、ここの近くの高校の制服を着ていた。



こんな路地裏で胡座をかいてボーッとしている人にあまり関わりたくはなかったが、流石に興味と心配が勝って、


「どうかしたんですか?」


と、声をかけてしまった。


声をかけてから5秒間、風が木に触れる音だけが響いた。

その音が止むと同時に、

彼女は瞳孔をこれでもかという程開かせながら



「な、ななんでもねえよ!」

と、野良犬のような目つきで、

でも折れてしまいそうな程細い声で言った。



あまり刺激しちゃだめかもな…大人しく帰ろう。


「げ、元気そうでなによりです。じゃあ俺はこれで…」


俺はそそくさとその場を立ち去ろうとした。



「待てよ。」


すると、彼女はさっきよりも少しだけ太くなった声で、俺を止めた。







「す、少しだけ話し相手になれよ。」

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