第9話 深い森の奥の音

「ばか!だれがそうたを、ぶんかいするんだ!ぜったいにゆるさない!」


 エンアイナは強く反対した。彼女はずっと変わった考えを抱いていた。その前の二つの方法がダメだったら、混ぜてしまえばいいと思っていた。

 異世界の車の外見はそのままにしておき、中のエンジンやオイルタンクなどの部品を全部魔導具に変える。そうすれば特別な外見を保ちつつ、普通に走れるようになる。

 そんな考えを持っていたが、ずっと研究対象を見つけられなかった。

 漂流物の中には全部が車というわけではない。車があってもすぐに他の人に分解されて、別々の場所に売られてしまう。

 俺みたいに新品未使用の車は、初めて見たんだ。


「そうだね。いしきを、もつひょうりゅうぶつは、かんたんにこぼせないよ。このせかいにとっても、きちょうな、そんざいだから。」


 エンアイナは真剣だった。嘘をついている様子はなかった。

 自分の安全が保障されていると知り、少しは安心した。

 どうやらエンアイナは俺を大切に思っていて、様々な研究や改造を望んでいるらしい。

 研究対象として見られることは気になるが、少なくともこの体をバラバラにされることはない。それだけでも運が良かったと思う。

 この世界では、漂流物の所有権は最初に見つけた人に帰属する。だから、現在俺の所有者はカェウァナで、エンアイナは俺を一時的に保管しているだけだ。

 俺がただの漂流物ではないことを知ったカェウァナは、売却することを拒否し、一旦保留することにした。エンアイナは俺の研究と改造を望んでいたが、カェウァナはそれを絶対に許さなかった。そのため二人の間に溝が生じた。

 エンアイナがそう言っていたが、俺はカェウァナが彼女を信頼していると感じた。カェウァナは俺をあの布袋に戻すことを強制せず、ここに置き続けることにした。それはカェウァナがエンアイナを深く信頼している証拠だ。


「そういえば、カェウァナはどこに?」


 二人がケンカしたのに、なぜ話し合いがないのだろう?


「きょうもかのじょは、もりのおくふかくへたんけんとかり、そしてひょうりゅうぶつさがしにいきました。」


 エンアイナによると、この町は決して裕福ではない。周囲の土地が貧弱で、農業が難航する。基本的に、ほとんどの物資は商人たちに依存している。

 町の人々は生き延びるために、南の森に入り、凶暴な野獣を狩り、それを売る。得たお金はエンアイナのような商人たちから食べ物や日用品を買うために使われる。

 何故かその森には常に漂流物が出現する。危険な野獣を乗り越えて漂流物を拾い、高値で売りさばけば、それは一種のお金儲けの方法になる。

 カェウァナはヒャヤゥキエネェン族で、普段は日光と水があれば生きられる。でも、そんな生活は退屈なので、森に狩りに行ったり、漂流物を売ってお金を稼ぐんだって。

 退屈しのぎに狩りをしているらしい。なるほど、趣味の一環なのだ。

 金銭的な苦労がないから、俺を急いで売る必要はないのだろう。


「なるほど、冒険者なんだね。」


 異世界!剣と魔法!ギルドと冒険者!ふふふ、そんなものは、いろいろなライトノベルや漫画やアニメで見聞きしたことがある。


「ぼう……けんしゃ?」


 意外にも、エンアイナは困惑した顔をした。

 説明してやると、エンアイナは納得したように頷いたが、すぐに俺に首を振った。


「ごめんね、このせかいには、そんなものはそんざいしないの。」

「え?嘘だろ!」


 町の人々は森の奥で狩りや探検をするのは、ただの猟師として活動しているだけで、ギルドみたいな組織はないんだとか。

 ああ、やっぱりライトノベルや漫画やアニメは嘘ばかりだ。全部信用できないんだ。

 話をしていると、店にまた人が入ってきて、鈴が鳴った。エンアイナは一階に戻り、俺は再び一人きりになった。

 鈴の音が頻繁に鳴り、お客さんたちが出入りしているようだ。また、何か激しい音が聞こえてきて、エンアイナが何か問題に遭遇したのではないかと心配になった。しかし、現在の俺には動くことができない。不安と焦燥感が募るばかりだ。

 やっと地下室に戻ってきたエンアイナを見て、ほっとした。


「おかえり」


 緑色の水晶玉の杖にはまだ十分な魔力が残っていて、俺は自由に話すことができた。


「どうしたの?」


 エンアイナの顔には疲れが滲んでいた。俺は心配して尋ねた。


「べつに、ぎょうしょうにんがきて、ぶつぶつこうかんを、しただけだよ。」


 この森ではよく漂流物が見つかる。それが商人たちの目当てだ。町の商人は食料や日用品と交換する。互いに得する取引だ。

 それなら、エンアイナがあんな顔をする理由はないはずだ。


「もりのおく、またへんなおとがきこえたんだ。」

「おと?どんな音?」


 南の森には統一された名前はない。

 「巨大の森」、「暗黒の森」、「禁断の森」などと呼ばれることもある。

 でもみんな知っている。あそこはとても危険な場所だ。奥へ行けば行くほど、凶暴な生き物が住んでいる。

 だから森の周辺の国々は、自分たちの安全のために、森に手を出さない。この森のほとりにある小さな町も、森に守られて、ずっと平和に暮らしてきた。

 町の人々は森に出入りするときには特に注意し、深く入りすぎないようにしていた。でも最近、信じられないような変化が起きている。

 時々、森の奥から聞こえてくる聞いたこともない轟音に耳を澄ませる。

 その音はまるで何か凶悪な獣が吠えているようで、聞く者に恐怖を与える。

 それだけではなく、森の中に見知らぬ獣の足跡が現れたという話もある。

 獣の足跡は巨大で、大人一人が寝そべっても余裕で入るくらいだ。五本指で梅花形をしている。足跡は新鮮で、通ったところでは木々が折れて、歩く破壊兵器のようだ。しかし追跡しようとすると、突然足跡が途切れてしまう。不可解だ。

 どうやらこの未知の獣は何度も森の端までやってきているらしい。みんな心配している。いつかこの獣が森から飛び出してきて、町の人々を襲うかもしれないと。

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レッツゴー!~キャンピングカーに転生して美少女たちと異世界を旅する~ 桜語文化 @Arimani

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