第6話 残酷な異世界

 エンアイナが話している言語はエヌウンコンというもので、エヌウンセン族の母語であり、今のこの世界でもっとも使われている言語です。

 この世界では、時々異世界から人や物がやってきます。エヌウンコン語では、そういう人や物を「DyavyarZyar」と呼びます。

 「DyavyarZyar」は、「外来のもの」という意味を持ちます。俺の先輩である異世界転生者と転移者が、もっとふさわしい訳語を提供します:「漂流物」。

 俺はとても興奮して、転生者と転移者はどこにいるのか、先輩たちに会うことができるかどうか尋ねました。

 相変わらず苦しそうな表情のエンアイナ。彼女は俺の質問に正面から答えず、ぽつりとため息をつきました。


「ほんとうに、こううんだ、そうた、ね」

「何が?」


 エンアイナは何かを決心したように、大きな絵を掛けました。


「ち……ちす」

「え?」

「これ、ちず」


 ちず……地図……ですか。

 地図だったのか……それって自由すぎるだろ?

 比例尺もないし、等高線もない。

 自由に描いた絵みたいなもので、下部一帯は適当に黒く塗って、何か分からない文字を書いてある。他のところは、単純に山や森や街を描いて、見慣れない文字で地名を示している。


「エルヴィファア、ベロネニア、カランディクメー……これ、ちかくの、くに。」


 地図上に赤い線で国境線を簡単に描いてある。三つの国は国土が小さくなく、それぞれ地図の左中右の大部分を占めている。他に散らばっている小さな国々については、エンアイナは特に名前を挙げなかった。


「ここが、こち、わたしたち」


 エンアイナは地図で指さした場所で、三つの国と黒い地域の間にある細い隙間だ。


「みっつのくに、かんりしない、じゆうなまち。」


 エンアイナは自分が知っている日本語で、俺に地理的な背景を説明しようとしました。

 理由は分からないが、今いる街は三大国の間にあって、どの国にも支配されていない、まさに中立地帯だ。


「みっつのくに、なかが、わるくて、たがい、たいりつして、あらそって、けど、きょうつうてんが、あるんだ。」

「きょうつうてん?」

「かれらは、いせかいから、きたにんげんに、たいして、ぜんぶ、ころす」


 エンアイナはわざと首を切る仕草をした。

 全部、殺す?

 まだわかないわ。もっと詳しく説明してくれと頼んだ。

 それでもとエンアイナさんは、どの質問にもとても優しく答え、辛抱強く事情を話してくれました。

 遠い昔、こっちの世界は異世界から来た人間を歓迎していた。

 なぜなら、転生者や転移者はよく異世界の先進的な思想や技術を持ってきて、こっちの世界の文化や科学を進歩させてくれたからだ。

 しかし、彼らが持ってきたのは、異世界の思想や技術だけではなく、こっちの世界とはまったく違う価値観だった。

 「地動説」や「万有引力」や「動力学」や「民主主義」や「資本主義」や「社会主義」や「共産主義」など、群衆の見方を受け入れる人が増えると、群衆はさらに大きくなり、民間で影響力が広がっていった。

 国家に民主的な選挙を求めたり;無産階級主義を掲げて資本家階級や貴族階級に攻撃したり;奴隷制度を廃止するために奴隷市場を襲って奴隷を解放したり;「ヤハウェ」が唯一神であるという宗教を民衆に伝えて、こっちの世界の宗教を邪教だと非難したり……

 そういうことが次々と起こり、こっちの世界の王権や大貴族や大商人や大地主や教会聖職者に脅威を感じさせた。それで彼らは手を組んで、あらゆる手段を使って、すべての転生者や転移者を殺し尽くすことに決めた。

 問題を起こす人間を排除すれば、問題はなくなると考えている。

 恐ろしい異世界転移だ。

 もし俺がキャンピングカーにならずに、人間の姿のままだったら、きっと異世界の服を着て、異世界の言葉を話していた。誰に会っても、すぐに俺が異世界から来た人間だと分かるだろう。

 改めて、ここは現代文明と法治主義が全く浸透していない原始的な社会だということを痛感した。


「そう言えば、どうして俺を殺さなかったんだ?」

「きょうみなかったわ。」


 少し考えてから、エンアイナはひょうきんな顔になった。


「みんな、いせかいのにんげん、きらっている、わけじゃないし、わたしに、とっては、むしろ、いせかいのちしきを、えたい、と、おもっている。」


 確かにそうだ。

 知識に無限の欲望を持つエンアイナが、異世界の未知の知識に興味を持たないわけがない。


「まえに、きいた、ことが、あるんだけど、ひょうりゅうぶつのなかに、にんげんのたましい、やどって、じぶんでかんがえる、ことが、できるものが、あるんだ。なんねんも、さがしてい、たけど、やっと、みつけたんだ。どうしても、きみを、かいとりた!」


 エンアイナは言った。

 俺みたいな意識のある漂流物を探すために、あの緑水晶玉の杖を特別発明したんだと。漂流物に出会うたびに、それで伝言魔法をかけてみたんだと。

 偶然にも、その杖のおかげで、俺の心の中の思いが声に変わって、その杖から伝わったんだと。

 どうやら俺みたいに魂が物品に宿っているのは非常に珍しい例外だけど、唯一無二ではないらしい。

 そう言えば、他にも同じように漂流物に宿っている先輩と出会えるチャンスがあるかもしれない?

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