第2話 突然の婚約破棄
「ラヴィニア・ソティス嬢……君とはこの場をもって婚約を破棄したい!」
「……は!?どういう事!?」
ここはわたしの婚約者であるアーサー様の誕生日パーティー。
「来賓者の方々にお話ししたい事があります」とアーサー様がおっしゃり、わたしを隣に呼びよせて、いわれた事がこれだった。
何を言われるのかと不審に思っていたが、まさかこんな内容だなんて思わなかった。
「ラピス様!!」
わたしとアーサー様がいる壇上まで勢いよく駆け上がってきて、わたしを気遣わしげにみつめるのはトールだ。
何で空気を読まず、ここに来たのだろう。普通、この状況で、アーサー様から指名でもされない限りは壇上になんて上がってこないだろう。恐らくわたしの事を心配しての事だろうが。
トールとわたしは本家、分家の関係で、わたしが本家でトールが分家。よってわたしはトールの主人のような立場だ。
トールは厄介な男だった。どんなに鬱陶しいと言っても、手酷く扱っても、わたしに「ラピス様、ラピス様」とつきまとってくる。
わたしがトールの本家だからで、わたしに恋してるとかではないだろうが……トールが好意をよせている相手は他にいるし。
ちなみにラピスとはトールが勝手に作ったわたしのあだ名だ。トールにこんな風に無駄に親しげなおかつ変な呼び名で呼ばれるのは大変不快なのだが、何度言ってもやめようとしないので諦めた。
その代わり、わたしもトールの事を酷いあだ名で呼んでやってる。本名はトーヴァというのだけど、昔読んだ絵本に出てくるどんくさい男の名からとって「トール」である。
トールはこのわたしの呼び方を大変気にいっているというが、恐らくわたしに逆らえない立場だからそういってるだけだろう。トールもその絵本の事を知っているのだし。
「トーヴァ、君は何でここに来た。君は明らかに部外者だろ」
「ソティス家の分家の僕にとっても、ラヴィニア様とアーサー様の婚約は無関係ではありません。いわば主にも等しい方の婚約ですから。ぜひ僕も同席させて頂けませんか」
「……まぁいい。分かった」
分からないでください、と思ったけど、口を挟まないでおく事にした。
本題が進まなくなってしまう。……それが、進めるのに嫌な予感が伴うものだとしても。
「ラヴィニア嬢。君はここにいるアンネ嬢を苛めていたな。……かなり悪質な方法でもって」
気づけていなかったが、アーサー様の隣にはいつのまにかアンネがいた。
……確かに、わたしはアンネを苛めていた。
わたしとアーサー様とアンネと、あとついでにトールは同じ学園に通っていた。アンネはわたしやアーサー様がトールが二年に進学してから新入生として入ってきた女なのだが、入学して以降彼女はアーサー様にひたすらアタックし続けていた。
わたしはアーサー様の事を特に好きでもなんでもなかったけど、彼と結婚すれば得られる王族の一員という立場には大きな魅力を感じていたから、アンネは邪魔な存在だった。それに人の婚約者に手を出す非常識な女には多少のお灸をすえてやるべきだと思っていたのだ。
しかも彼女は昔のわたしのお付きのメイドと外見が非常に似ていて、その顔でそういう事をされると余計に苛ついたというのもある。
「うう、私、私……ずっと我慢していたんです!相談できる相手もいなくて、悲しくて辛くて……」
「大丈夫だ、今は私がいるだろう?」
「アーサー様……」
「アンネ……」
「いちゃいちゃしてないで話を先に進めてください」
わたしは大変腹立たしい気持ちで、二人の世界の邪魔をしてやった。
「こほん、証拠はあがってるんだぞ。アンネに酷い事を言ったり、一方的に勉学や運動にて勝負を挑んではアンネを敗北に追い込み、罰といってアンネの大切なものを次々と奪った」
「それはわたしとの勝負に勝てないアンネにも責任があるのではないですか?」
「それは強者の理論ですよ、ラピス様。弱者にとってはあまりにも残酷です」
トールはわたしをなだめた。
こいつはどっちの味方なんだと内心舌打ちする。そんな事を言ったらトールに味方してほしいみたいに取られるかもしれないので、言わなかったけど。
そんな事を思われるのはわたしがトールに甘えてるみたいで腹立たしいし、このわたしに逆風が吹いてる状況ではトールが下手にわたしの味方にならない方がいいのは確かだった。
こいつをわたしの問題に巻き込むなんて論外だ。
「トーヴァ、お前は本当にまともでいい奴だな」
「トーヴァ様はいじめの主犯だったラヴィニア様の側仕えのような立場なのにも関わらず、わたしの事を気を遣ってくださって、とてもいい人なんですよ」
「トーヴァは確かにいいやつだが……そんな風に他の男を褒められると、正直妬けるな」
「アーサー様、私が愛してるのはあなただけですよ」
「アンネ……お前は何て俺を夢中にさせる奴なんだ……」
「ふふ、アーサー様、かわい……」
「会話の合間にいちゃいちゃを挟まないと死ぬ病気にでもかかってるんですか?あと、トールはわたしの側仕えではありません。勝手に付きまとってくる鬱陶しいコバエです。どうしてここまでわたしの側にいたがるのかしら」
わたしはいつも通り、トールの事を悪し様に言う。
「まるでトーヴァがご自分に好意をもっているとでもいいたげな言動だな。トーヴァはラヴィニア様には本家の人間だから仕えているだけで、アンネを苛めるラヴィニア嬢には辟易としたものを感じるといってたぞ」
「そうなの、トール」
まぁ別に意外でもなんでもないけど。トールはわたしのアンネへのいじめにいつも苦い顔をしていたから。
それにトールにはいつも酷い態度をとっていたから、嫌われていてもおかしくはない。
わたしは何故か感じた胸の痛みを無視しつつ、トールに視線を向ける。
トールは少し焦った様子を見せつつ、「そんな事はありません。ラピス様の事は心からお慕いしております」とはっきりと告げた。
……口では何とでも言えるわよね。
「よく動く口ね。わたしよりアンネの味方をしたいなら、あちらにいっていいわよ」
「ラピス様、意地悪はやめてください。僕が大切なのはラピス様だけです」
「ふん、心にもない事を。あんたはクソ善人だから、わたしを厭い、アンネに肩入れしてる事ぐらい分かるのよ」
「ラピス様は何故僕の事を信じてくれないのですか」
信用してない訳ではないが、あんたがわたしを好きだなんて思い上がり、出来る訳がないじゃない。
……とは口には出さずに心の中だけで思う。
「君たちもいちゃいちゃしてて話を止めてるじゃないか。そろそろ本題に戻るぞ」
「は?誰がいちゃいちゃしてるというのです」
「君とトーヴァだよ。……さて、ラヴィニア嬢は先ほど述べた事だけでなく、他にもアンネに対して悪質な行動に出ていた」
「なんですって?」
わたしは眉をひそめる。わたしがアンネにしたいじめは、先ほどアーサー様が言った事だけだったからだ。
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