宝石の涙

葉月 陸公

魔女と涙

 「先生って、泣いたことあるんですか?」


可愛い愛弟子からの問いに、ふと、思い返してみる。


「……ないな」


思えば、記憶にない。周りの女性は皆、泣いていることが多かった。戦地から帰還した男性を見て泣いて、戦地へと送られていく息子を見て泣いて、戦地から持ち帰ってきた戦士の亡骸を見て泣いて……何かと、泣いていた気がする。だが、私はどうだっただろう。女でありながら泣いた記憶がない。大切な仲間と共に帰還したところで、大切な仲間が戦地に行ったところで、大切な仲間が死んだところで、泣くことはなかった。むしろ、泣く行為を無駄だと思っていた。


 愛弟子は少し寂しそうな顔をすると、一冊の本を持って来た。歴史書だろうか。パラパラとページを捲りながら、彼女は話す。


「先生。魔女の涙には、宝石と同じ価値があるらしいですよ。しかも、恋愛成就の効果もあるみたいです。夢がありますよね!」


本には、確かに、そんなことが記されている。


「どうだかねぇ? 案外、嘘かもしれないよ」

「その『魔女』である先生なら、知っているのでは?」

「はて?」

「もーっ! いっつも、そうやって誤魔化すんだからぁー!」


ハムスターのように頬を膨らませる愛弟子の頭を、そっと撫でる。ふわふわとした髪の感触が心地良い。

 今、私が最も『幸せ』を感じる瞬間は、これだった。こんな、何気ない一時が何度も訪れることを、ずっと、ずっと願っていた。

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