宝石の涙
葉月 陸公
魔女と涙
「先生って、泣いたことあるんですか?」
可愛い愛弟子からの問いに、ふと、思い返してみる。
「……ないな」
思えば、記憶にない。周りの女性は皆、泣いていることが多かった。戦地から帰還した男性を見て泣いて、戦地へと送られていく息子を見て泣いて、戦地から持ち帰ってきた戦士の亡骸を見て泣いて……何かと、泣いていた気がする。だが、私はどうだっただろう。女でありながら泣いた記憶がない。大切な仲間と共に帰還したところで、大切な仲間が戦地に行ったところで、大切な仲間が死んだところで、泣くことはなかった。むしろ、泣く行為を無駄だと思っていた。
愛弟子は少し寂しそうな顔をすると、一冊の本を持って来た。歴史書だろうか。パラパラとページを捲りながら、彼女は話す。
「先生。魔女の涙には、宝石と同じ価値があるらしいですよ。しかも、恋愛成就の効果もあるみたいです。夢がありますよね!」
本には、確かに、そんなことが記されている。
「どうだかねぇ? 案外、嘘かもしれないよ」
「その『魔女』である先生なら、知っているのでは?」
「はて?」
「もーっ! いっつも、そうやって誤魔化すんだからぁー!」
ハムスターのように頬を膨らませる愛弟子の頭を、そっと撫でる。ふわふわとした髪の感触が心地良い。
今、私が最も『幸せ』を感じる瞬間は、これだった。こんな、何気ない一時が何度も訪れることを、ずっと、ずっと願っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます