酒飲みすぎて異世界転生したら捕まってた
@RandomBoat
第1話 飲みすぎて
「DJホリオがお送りする深夜の馬鹿騒ぎ!さぁ今週も始まりました、お相手はオゲレツギャグで優勝のアレヲシタインさんです!」
「どうもー、って誰がオゲレツやねん!あと優勝ってなんやねん!何も優勝してへんわ!あとアレヲシタインって誰やねん!」
「相変わらずツッコミにまとまりがないですねー」
「誰のせいや!」
「さーてリスナーさんには結局この人が誰なのか分からないでしょうがここで最初のナンバー……」
ふざけた冒頭には不似合いな寂しいブルースが12小節を終える頃には、すでにグラスが空になっていた。さぁ、もう一献。
鶏の首みたいにウィスキー瓶を引っ掴み、机上に引き揚げる。立ち上がって冷蔵庫まで歩くのが面倒で、いや正確には特に何の感情もなくただグラスを満たしたく、片手でハートを象るような指の動きで蓋を捻り開け、頬杖をついたまま茶色の液体を注ぐ。無気力の衝動にはストレートで十分。
袋に手刀を突っ込んで炒り豆を掌いっぱいに握り、口に押し込む。咬合力にまかせてバキボキと破砕すれば香ばしい旨みと塩気が口腔いっぱいに。すかさずライムの半切りを鷲掴みにし、口内を満たす豆のペーストに絞り、舌でよく撹拌して飲み込む。ここで下品な音を立ててウィスキーを啜れば、ムワッと熱くて、たまらない。孤独が野蛮に引き摺り込むのだ。
もう1周して24小節目、いや、48節目、とにかく何らかの12の倍数だろうが細かいことは判然としない。男が何か言っているが気にしない。さぁ、もう一献。ウィスキー瓶から雫が滴る。
コマ送りの意識の中、鶏の首を探して丸机の下を大振りにまさぐる。本当は冷蔵庫の辺りにもう二、三本くらい置いてあることは分かっているのだが、もう立っていられない。口が寂しいので炒り豆を鷲掴みにしようと試みるが、空を切ったためつまらない二つ三つを摘んで渋々唇に差し込む。ライムはさっき皮ごと食ってしまった。アルコールで浄化されきって柑橘の香など残ってはいないが。
女が何か言っているが気にしない。気力を振り絞って渾身の力を込めて腰を上げ、冷蔵庫に向かう。もはやベルクソン的連続性を喪失した視界は遠心力を増して刻一刻数秒を切り取り、様々な角度でリビングの景色が眼前に、いや再生として脳裏に立ち現れる。たまらない。
さぁ冷蔵庫だ。無性に氷が欲しくなったのでガラッと製氷室を空けて顔を突っ込み唇で摘みとろうと一瞬企んだが、出血の予感がしたので唇に張り付く前にやめた。辛うじて残っていた理性はスコップを手に取らせたが、剥き出しの野生がスコップから指で摘み取らせた。指に張り付き痛いがどうしても氷が食べたかったので、思い切り大きなのに噛みつき剥がして頬張り、表面を唾液でツルツルに溶かしてから噛み砕いた。口いっぱいに爽やかな凍えが楽しい。
しかし本当に欲しかったのは水だった。氷などでは満足できない。もう手遅れなのだからチェイサーではなく末期の水だ。アルコールが脳をぐわんぐわん揺らしていた。胸の辺りが流水を求めて足が突き動かされたので、ミネラルウォーターなど眼中になかった。シンクに上半身を預けて限界まで栓を捻り、頭を掻き洗うように頬伝いで水をかっ喰らう。端的に言うと吐きそうだったのだ。
その後どうやって吐瀉物を処理したかは覚えていないが、目が覚めたら檻の中にいた。
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