都会から帰省してきた妹の様子がおかしい件

畳アンダーレ

第1話

 今日は妹が帰ってくる日だ。私と違って妹は地元ではなく都会の大学に進学したんだ。特に私と妹との仲が悪かった訳じゃないよ? むしろあの子は私にべったりな甘えん坊だったから離れて暮らすのは心配されたくらいだよ。心配といえば、姉たる私は一人暮らしが面倒だからという理由で地元の実家から一番近い大学に進学したことが、周りの大人たちを心配させたんだ。お前そのままで大丈夫かって、妹がいる姉として良いのかってね。うるさいわいっ。私だってあの子を心配しているんだよ? 高校生というもう大人になる一歩手前という時期になっても私の背中をちょこちょことくっ付いてきていたんだから! そんな大きなヒヨコが都会で一人暮らしなんて本当にできるのかってね? そんな私の心配は徐々に消えていったんだ。


“都会って想像していたよりすごいんだけど! コンビニめっちゃ多い!”

“バイト始めた! 服買った! 部屋に虫出た助けて!”

“サークル超楽しい! バイトもマジで楽しい! 自炊飽きた!”


あの子が都会に引っ越した次の日から、毎日こんなメッセが飛んでくるんだからさ、今となっては心配する気はとっくに失せてしまったんだよ。でも、そんなメッセも徐々に来る頻度が落ちていって、今は一週間に一度あるかないかってくらいに落ち着いた。


「いよいよー……ね」


今はセミがせわしなく鳴き続ける夏。大学にも高校と同じように夏休みという概念があったみたいで、私はその恩恵をありがたくいただくことになった。そしてあの子にも同じ天の恵みをいただいたみたいで、せっかくだから実家に帰省してくることになったんだ。今日がその、あの子が帰ってくる日。


「久しぶりに会うのかぁ、どんな風に変わってるのかな。いやたった数か月だしそんなに変わらないよね」


布団の上でスマホを弄りながら、私は一人つぶやいた。お父さんもお母さんも外に出ているので、家にいるのは私一人だから、その独り言に返事を返してくれる人もいない。


「ただいまー!」

「おっ……帰ってきた帰ってきた」


玄関の引き戸を開けて、その引き戸のガラガラという大きな音に負けず劣らずの大きな声が聞こえた。


「そっか、今家に私しかいないから、私が出迎えなきゃ……」


握っていたスマホを横に置いて、よっこいしょと声を出して布団から起き上がる。あれ、高校生じゃなくなった瞬間に人ってこんなに老いるものなのかな。んなわけない! 私まだ10台だっての!


「あれー? 誰もいないのー?」

「はいはい。今行きますよっと」


高校を卒業してからの数か月間、スマホ越しでしか聞いていなかった声。都会に出てもあの子の活発なところは変わらないんだなぁと思いながら、私は身体を引きずるように、自分の部屋を出て玄関に向かって行った。う、私今夏バテ気味かも……

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