最終話 日本の車窓から

 犯人の立て篭もる家に松葉杖と拡声器を武器に乗り込んだ古田。いよいよ彼の戦いが始まる。


「先輩、大丈夫っすかねえ……」


 佐藤が二階の窓を見上げながら呟く。


「信じろ。あいつはやるときにはやる男だ」


 佐藤の隣で、捜査一課長の谷が腕を組んだまま自分に言い聞かせるように言った。

 静寂に包まれた現場。すでに古田が家の中に消えてから10分が経とうとしていた。


「ん……何か音がしなかったすか?」


 最初に気付いたのは佐藤だった。犯人が立て篭もる家から、何かが動くような音が聞こえる。現場はにわかに緊張に包まれた。

 佐藤達が見守る中、二階の窓が開き古田が顔を出し、拡声器を構えてしゃべりだした。


「……隷属……愛の束縛……犬が西を向けば……尾もまた旅人……智に働けば角が生え……情に棹させば窮屈……」

「先輩! 意味がよく分かりません! とりあえず状況を教えてください!」


 佐藤の言葉を聞いた古田は何かを思い出すような表情をして斜め上45度の方角を見つめた。


「……警察……人々の営みを……国家権力の名の元に……マッシブ……諸君らに……告ぐ……抵抗を止めよ……」

「先輩! 犯人はどうなったんすか!」

「犯人……犯罪を……人りじめ……だが今は……我が同志……我々は……日本を変える……変えてみせる……」

「先輩! 人質はどうなったんすか!」

「人質……人を……質に入れて……バックレ……我々は……同志……我々三人で……日本を変える……まずは……おまえらを……」


 佐藤が困りきった表情で谷の方を向いた。


「あの、すいません。自分には古田先輩が何を言っているのかよく分からないんですが」

「俺にも分からん」


 谷はそれだけ言うと、予備の拡声器を口の前にもってきた。


「古田! 状況を説明し」


 谷の言葉が終わる前に、古田の横から若い男と若い女が現れた。三人は眼下の警察に向かって元気よく叫び声をあげる。


「日本を変えろー!」

「我々に従えー!」

「……もはや……是非もない……かくなる上は……男もすなる……日記というものを……」


 三人が警察に向かって唾を飛ばしながら声をあげる様子を見ていた谷は、眉間の皺を5,6本増やしながら隣にいる機動隊の隊長に話し掛けた。


「お願いします」

「突入!!」


 力強い言葉と共に突入が開始された。


「日本を変えうわなにするやめ」

「我々に従ちょとなにするの」

「……いまこそ……天よ……我々に力痛い……そう……痛みこそ……生きている痛い……」



 こうして事件は解決した。

 だが犯罪と戦う男達に休息は無い。また新たな犯罪が彼らを待っている。

 がんばれ古田。懲戒免職になるその日まで。

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バキューンポリス 古田マグナム @marucyst

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