ROBOTAURANT

シマモフ

本編

 ロボットが一般のありとあらゆる分野において普及してから数十年、複数の企業グループがロボットを運用し街を管理していた。その中の二大巨頭『スカイホークグループ』と『ゼンシングループ』が強い影響力を持ち、社会を統治していた。

しかし、その社会に新たな脅威が襲い掛かっていた。

 ロボットの暴走を引き起こす起源不明の異常なプログラムを用いたテロ。このプログラムが記録されたメモリがロボットに接続されることによって、プログラムが実行され、プログラム自体の異常な情報量がエネルギーと質量に変換され、ロボットに巨大化や武装の追加など攻撃的変化を伴う暴走を引き起こす。

 こうした暴走変異したロボット、テロボ("terrorism"と"robot"のかばん語)に対抗するため、各企業グループはテロボを鎮圧するための兵士を雇っていた。


〜〜〜〜


 瓦礫が散らばり、自己増殖したロボットがひしめく『グレイグー・スポット』と化した、スカイホークグループのとある街を1人の強化外骨格を着た人間と1機のロボットが走っていた。


 人間は隣を走るロボットに問いかけた。

「ペッパー!注文した武器はまだ届かないのか?!」

「お届け中だそうです!ストラさん!」


 彼らは、スカイホークグループに雇われている兵士だが、テロボ化したエビ型輸送ロボット『ゼリヤー』への奇襲に失敗し、ゼリヤーが生み出した子機の小エビの大群に追いかけられていた。


「クソっ!いつまで経っても撒き切れない!」

悪態をつくストラ。その瞬間、前方の交差点の脇にある地下鉄入口(スカイホークグループ傘下企業トトヤ・レイルウェイのもの)から小エビが飛び出してきた。ペッパーが咄嗟にショットガンを発砲し小エビを破壊するも四方の地下鉄入口から続々と小エビが出てくる。


「地下鉄を通って回り込んで来たみたいです!」

「囲まれた……!万事休すか!」


 交差点の中心に立ち止まったストラとペッパーに小エビ達はジリジリとにじり寄っていく。


「あーあ、こんなことになる前に銃を握る仕事から寿司を握る仕事に戻れていたらなあ……」

「前の仕事って言っても寿司屋の受付係で一回も寿司握ったことないだろお前」

「うるさいですねぇ!上手くいかなかった過去なんて盛って話すくらいが丁度良いんですよ!!」


 背中合わせで言い争いながら残った銃器で小エビを撃つ2人。そんな中、けたたましいエンジン音と砲撃音が小エビ達の後ろから近づいてきた。


「通してほしいにゃあ!」


 それはスカイホークグループの武器販売企業『グストゥス』から注文の品を届けに来た武装輸送車(通称ランチプレート)だった。運転席の窓から身を乗り出し、バズーカで小エビを吹き飛ばし道を切り開いているのは、ネコ型ロボットの『ベラ』。

目的地にたどり着いた輸送車はブレーキをかけ、ストラ達の目の前で止まる。運転席のドアを開け、飛び降りてきたベラは腹部のラックから2丁のガトリングガンを取り出し、周囲の小エビを一掃した。そして輸送車のリヤドアを開けて言った。


「ご注文のお品物を持って来ましたにゃん♪」


「ありがとうベラ!」

「え〜、ちょっと来るのが遅くないですか〜?」

「お客様がやたらと逃げ回ってたのがいけないにゃん」

ストラとペッパーは注文した武装を荷台から受け取る。

「ご注文ありがとうにゃん♪と、いつもならここで失礼しますけど、今回はランチプレート自体も注文していただいてるので、お付き合いさせていただきますにゃ」


 ストラとペッパーは輸送車の後部に乗り込み車上ハッチから上半身を出す。

「しっかり捕まっててにゃん」

運転席のベラがアクセルを踏み込む。

「道案内と小エビ駆除はおまかせするにゃ」

「わかりましたー。私が道案内するので、ストラさんが駆除をお願いします」

「了解、任された」


 3人を乗せたランチプレートは瓦礫と小エビのサラダボウルと化した街を疾走する。


「ゼリヤーの反応はこの先です!」

「了解にゃん!」

ストラの放ったロケット弾が小エビを吹き飛ばし、ゼリヤーの姿を露わにした。


「発射にゃあ!」

底触爆弾を載せた多目的自走トレイがランチプレートの下部から発射され、ゼリヤーの足元に向かって行く。戸惑うような素振りを見せるゼリヤーの足元に潜り込んだトレイは爆発し、ゼリヤーを宙に吹き飛ばす。

「ストラさん!」

「ああ!」

強化外骨格によってもたらされた跳躍力によってストラは、宙を舞うゼリヤーの腹部に飛びかかり、ブースター付き大型ディスクソー『ルーナ・ピエーナ』を突き刺した。

「ハアーーーッ!!!」

ブースターによって仰向けに地面に叩きつけられるゼリヤー。その腹部をルーナ・ピエーナは中枢もろとも切り裂いた。


 ゼリヤーとその子機である小エビ達は一斉に動きを止め、その機能を失った。

エビの駆動音と切断音が鳴り止み、街に静けさが訪れた。

「やりましたね、ストラさん……!」

「はぁ…はぁ……ああ!」

ストラはゼリヤーの腹部から飛び降り息をついた。ペッパーとベラもランチプレートから降り駆け寄っていく。

「早速テロボの鎮圧完了を報告しますね!」

「お疲れ様でしたにゃん♪こちら領収証ですにゃ」

ベラからストラは紙で、ペッパーはデータで渡された領収証を見てペッパーは驚きの声を上げた。


「うわっ、こんなにするの!?ストラさん?これ駆除1回分の報酬とほぼ同じくらいじゃないですか!?」

「いや、その……相談せずに注文してすまなかった……」

「特にこの新しく買ったディスクソー!高すぎですよ!これ返品……」

「それじゃあ失礼するにゃ」

「ちょっとぉ!?」

ランチプレートに乗り去っていくベラをペッパーは呼び止めようとするが無視されてしまった。


「えぇ〜……とにかくディスクソーに関してはストラさんの方で払ってくださいね?」

「わかった……本当にごめん」

「……でもお互いに無事で駆除を終わらせられて良かったです。特に今回は。あっ迎えが来ましたよ」

ペッパーはテロボの鎮圧完了の報告を受けて飛んで来たヘリコプターに指を差した。


〜〜〜〜


「意外とあっさりと止められてしまったが、まあ良い。『SA-02』のデータは十分取れた」

街を囲っている隔壁の上に、ベラと似た姿の黄衣をまとった単眼のロボットが立っていた。

ロボットは手に持っていた記録メモリを眺めるのをやめ、自身の胸部にあるディスプレイに近づけた。するとメモリは光の粒子になってディスプレイに吸収されていった。

ロボットは街を走り去るランチプレートへと向き直り言う。

「ベラ、君はいつまで猫を被っているんだい?」



1人の人間と2機のロボットは陰謀と策略にまみれたテロと企業抗争に巻き込まれていくことをまだ知らない。

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