業の坑

言葉の犬

― 壱 ― 業の坑 

1.目を開くと 落ちていた

暗くて狭い不思議な世界


右も左もありゃしない

上も下もない世界を落ちていくのは僕 俺 それとも私?


一体僕は誰なのだろう

記憶は白く何も映さず


ただ 誰かの声が頭に響いて

胸は苦しみに掻き乱された


「お前自身がお前を落とした」

「お前の業がお前を裁く」


僕が落ちていくこと それが

僕が抱えた罪のせいだというのならば仕方ない

清算すべきだ


人は皆 忌み深き業を抱えて生きる

そいつは己に還る時を待っている

因果だよ


僕の罪は僕の下へ

あなたの罪はあなたの下へ


因果は電池が切れた主人の下僕の様に

忠実にその内に還り往く



2.目が醒めた時 意識が生まれた

何もないまっさらな魂


暗い坑を落ちて往きながら

何なのかも解らない自分を 必死紐解く


誰も知らない何も解らない

存在は曖昧模糊に漂う


と突然 真っ白な頭に

鐘鳴るような声響き渡った


「僕の業は僕へ還る」

「僕の因果が僕を裁く」


穴の底に何も見えないこと それでも

唯落ちていくしかできない今を僕が選んだ

自業だね


人は皆 己に業を抱え生きてきた

その縁は切り離せない

因果だね


帰る道もない業の坑

天上見上げれば遥か彼方に月光が揺れる


消えた筈の記憶が目に染み込んで

フラッシュを焚いたかのように

変だな涙が出てきたよ


此処から出られやしないのかい



因果は凡て主人の下へ


そいつを産み落とした親の下へ


善行も悪行でも

哀しみに喜びも 希望も絶望も

総じて受け入れろ


役目を果たし終えれば

業の坑は消えるから

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