美人看護師(幽霊)が一目惚れ〜入院したら退院まで取り憑かれてしまった話〜

フクロウ

入院初日①

 カーテンを開ける音


 何もない空間でノックする透明な手


「コンコンコン、聴こえてますか〜? 深夜の病室回診で〜す」


「……ん? そこの患者さん、この世の終わりみたいな驚いた顔してどうしたんですか? 美人看護師の深夜の特別回診ですよ~いいでしょ〜」


「……ん? そうじゃなくてって? あらあら、金魚みたいに口をパクパクさせて〜それに人を指差すのはよくないですよ~」


「ふーん? そうそう、入院したらよくあることなんですよ〜みなさん、体が透けているのを見てびっくりするんですよ~」


 急に顔が目の前に現れる


「でも、ほら、ナースキャップつけてるでしょ! 白衣も着てるし! 正真正銘、私は美人看護師なんです!」


「それにただの美人看護師じゃないんです。そう、何を隠そうこの病院に取り憑く幽霊なんです。つまりはーー」


 ゆっくり離れたかと思うと、真横へ移動し耳元でささやく


「美人幽霊看護師なんです」


 悲鳴をこらえるような声


 慌てて正面へ移動する


「あっ、ま、待ってください。お願い、声を出さないで! 他の病室の患者さんに聞こえちゃいます!」


「そうそうそう、そう。はい、大きく息を吸って〜吐いて〜もう一度大きく息を吸って〜吐いて〜。いいです、いいです。そんな感じ。どう? 落ち着きましたか?」


「……いいですね。大丈夫。私は美人幽霊と言っても看護師なので、入院患者さんを取って食おうなどと、そんなことは微塵も、ええ微塵も考えていません。……そうそうそう、憑依もしませんし。……はい、モノを動かしたりとか、ラップ音とか、不気味な声とかも何もなしです!」


「私はただ、退院まであなたのサポートをしたいなって。……そうなんです、看護師としてのね、務めを果たそうと思っているだけです。なので、なんでも話してください。きっと、緊張されていることでしょうし、不安もね、たくさんあると思うんです。ねっ?」


「……ん? なんで自分なのかって? いやぁ~ははぁ、それはその〜好みのタイーーじゃなくて一目惚ーーじゃなくて……そう、そうそうそうです! こんな遅くまで起きてるあなたはきっと入院生活に不安と緊張を抱いているのではないかと思いまして。はい、それでサポートしがいがあるなぁ、と。そ、そんな感じです」


「……はい、はい。やっぱり! 入院初日でなかなか寝つけないと! そうだと思ったんですよ! うん、それに入院が初めて! しかも検査も手術もあると! それは、本当に、ほんっとうに大変だと思います。ただでさえ、環境も違いますし、病院は夜中でもいろんな音がしますしね」


「でも、しっかり寝ないとストレスも溜まりますし、手術を乗り越えるためにも体力が必要です」


 また真横へ移動し、そっとベッドの上に手を置いて耳元でささやく


「どうですか? 眠れない夜に、この美人幽霊看護師の私とお話して、退院まで、一緒に乗り越えませんか?」


「……はい。ありがとうございます。それでは、今日から退院まで担当させていただきます。よろしくお願いします」

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