花は猫に狂う

 花は大の猫好きなのですよ。

もぉそれはそれは猫センサーがビンビンで街なかでも瞬時に猫を発見するのです。

夜の暗闇でも「あっ猫しゃん」ってなるのです。


何とか触りたくて奮闘しますがほとんど駄目ですね。

パーソナルスペースは絶対に死守する猫さん。

猫を猫たらしめるゆえんです。


花がクタクタになってアパートに帰宅した時の事です。

もう夜中でしたね。


 一匹の猫さんが

 「あおーんあおーん」と鳴いていました。

 花は

 「どうしたんだい君?」


と近づきました。

逃げませんでしたね。

どうやら飼い猫さんのようです。

アパートの住人が気まぐれに餌でもあげたのをまた催促に来たんでしょう。


撫でる花。

ごろんごろんする猫。

わしゃわしゃする花。

膝に乗る猫。


猫さんの「私可愛いでしょ?」アピールはたまらんですね。

よだれものですよ。

ひとしきり可愛がって花は自室へ向かいました。


すると猫さんはそれが当たり前のようについてきます。

何ならドアを開けるのを待ってる感まであります。

でも花は困りました。

当時の同居人は動物が苦手でした。


 花は思いました

 「そんなん知らん、猫こそ正義」


ドアを開けるとやはり猫さんは普通のごとく入っていきました。

猫さんは花の住まいを入念に探索しております。

むふふかわゆいでわないか。

同居人が寝ている寝室にも入っていきましたよ。

起きたら発狂してたかもしれませんね。

でもセーフなのです。


一通り探索し終えた猫さんはキッチンの一角で鎮座します。

なるほどなるほど、乾物入れの前ですね。


箱を開ける花。

覗き込む猫。

物色する花。


猫さんのお眼鏡にかなったのはアミエビなる乾物でした。

花のしらんものでしたね。

花が買ってないので、同居人の酒のツマミか何かでしょう。

ええいいいや、です。

人のもんは花のもんです。

一つまみ猫さんにあげました。


 満足した猫さんは

 「玄関開けろ」


と言っていますね。

玄関を開けると猫さんは去っていきました。


この日から、同時間帯になると花と猫さんの密会が行われる事になりました。

同居人にバレるのではないかというスリル。

何ともいえない背徳感。

それらが花の心を燃え上がらせました。


そしてこの関係は一夏続くのでした。

一夏のアヴァンチュール。

甘酸っぺえ。


今年も彼に会えないかと心の隅で思ってしまう花なのでした。

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