第2回『平原の厄介者・ディグラビット1』
この世界にはさまざまな生き物――モンスターが存在しています。山と見紛うほどに巨大なドラゴンをはじめとして、陸海空を問わず人間よりもはるかに広大な範囲に生息するモンスター達。
しかしその生態を知っている人は、意外と多くありません。私たちにとって身近な存在でありながら最も遠い存在。
そんなモンスター達の生態に、迫っていきましょう。
第2回はスライムと同じぐらい、我々が普段から目にするモンスターのディグラビット。
一般家庭にも食用肉として並ぶことが多く、スライムと同じように街道沿いの平原を動き回っているところを目にすることがあるでしょう。
我々が知る動物のウサギとは、見た目こそ似ていますがその生態は全く違っているディグラビット。
自分が良いと思った場所なら、コンクリートで舗装された道ですら穴を掘ってしまう彼ら。
その生態から、平原の厄介者としても知られています。
最近の研究では、そんな彼らの知られていない生態も明らかになってきました。
今まで知らなかったその生態に、今回は迫ってみたいと思います。
それでは世界モンスター紀行、はじまりです。
●世界モンスター紀行
第2回『平原の厄介者・ディグラビット』
今回の舞台は、前回と同じくトーキョーの周りに広がる平原。
他の街へと続く舗装された道路以外には、次元融合以前にあった建物の残骸以外、人工物は見当たりません。平原の奥には森が見えますが、今回の主役である牙ウサギが主に生息するのはその少し手前。
トーキョーから10kmほど離れた森と平原のちょうど中間地点に広がる、背の高い草が生い茂る地帯。彼らはその付近を拠点として広く生息しています。
このあたりの地面に目を向ければ――ありました。
直径40㎝ほどの少し大きめの穴が、周辺の地面のいたるところに空いています。あちこちに空いているこの穴こそ、ディグラビットの巣穴なのです。
体長はおおよそ40㎝、そして体の高さはその半分ほどで体重は平均して2㎏前後。
体の表面には地面と同じ茶色の体毛が生え、通常のウサギと同様長い耳も持っています。
見た目だけなら愛くるしいディグラビットですが、モンスターと呼ばれるだけあって、通常のウサギとは大きく違っている部分も数多く持っています。
「ディグラビットは、基本的に巣穴の中だけで生活をしています。
背の高い草が生えている地帯の近くに巣穴を掘るのは、あまり巣穴から離れずに餌を集めるためですね」
解説をしてくれるのは、前回と同じくレナード博士。
博士は我々の生活に特に関わりの深いモンスターを研究しています。ディグラビットもまた、食肉として我々の生活に深く結びついているため、こうしてまた解説をお願いしました。
「ディグラビットの特徴として、あまり知能が高くないというものが挙げられます。
実は彼ら、非常に記憶力が低いモンスターとして、我々研究者の間では有名なんですよ」
あまり記憶力が無いからこそ、巣穴から離れることができないディグラビット。
時折街道でウロウロしている個体は、巣穴の位置を忘れてしまって帰れなくなっている個体らしいです。
だからこそ、巣穴の位置を忘れないように――そして忘れてもすぐに判別できるよう、えさ場の近くを好んで巣穴の場所として選んでいるのでしょう。
ちなみに記憶力だけでなく、ほぼ暗い地中にいることで視力もあまり良くありません。
そのため、余計に道に迷うことが多く巣穴に戻れなくなる個体は意外と多いようです。
「巣穴の横にいるのに、位置を忘れて別の場所に新しい巣穴を掘る個体もいます。
まあ、そのせいで平原のあちこちに穴ができてしまい、落とし穴のようになっているのですが……」
そう。ディグラビットが『平原の厄介者』と呼ばれる最大の理由は、彼らのこの習性にあります。
地面に巣穴を掘るディグラビットは、それこそ適していると思ったならどこでも穴を掘り始めてしまいます。それはこういった平原の地面はもちろん、コンクリートで舗装された道路も共通です。
体が大きい分穴も大きいため、人の足はもちろん車のタイヤなどもハマってしまう危険があります。
この穴が原因で怪我をする人は後を絶ちません。探索者の中には、戦闘中にディグラビットの穴に足を取られて、それが原因となって命を落とす人も多くいます。
穴を掘って巣穴の中に住む。
この習性と記憶力の低さ、この両方が原因でもたらされる穴害。
平原においてもっとも嫌われているというのも、納得できるのではないでしょうか。
「ディグラビットの習性は知られていますが、明らかに生息数よりも多く穴が掘られていることは、気づいている人は意外と少ないんですよ。そういうモンスターだから穴を掘っている、と思ってしまうんでしょうね」
確かに取材班も、博士に解説してもらうまでディグラビットが穴を掘るのは、そういう習性だと思い込んでいました。
まさか自分の巣穴を忘れてしまい、そのせいで別の場所に巣穴を掘ろうとしていたとは驚きです。
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