第1回『平原の掃除屋・スライム6』

「もちろん、そういった試みは何度かされてきました。

 ですが結果として、人の手でモンスターを飼育する試みは全て失敗しています」



 我々取材班の、スライムなどを飼育できないのかという質問に、博士は少し残念そうな顔でそう答えてくれました。

 飼育したスライムは十分な餌や魔力を与えているにも関わらず、1週間ほどの時間をかけて徐々に小さくなり、最終的には消滅してしまう。これは飼育環境を変えたとしても、全て同じ結果となってしまったとのこと。

 現在も複数の研究所で試みがされていますが、あまり芳しい結果は出ていないと博士は言います。



「モンスターがどうやって増殖しているのか、専門家の間でも確かな結論は出ていません。

 種類わけに関しても、現在はっきりと出現方法が分かっているモンスターを基準に、見た目や捕食方法からおそらく同じ種類なのだろうという仮定で行われている有様ですからね。

 モンスターの生態については、分からないことの方が多いくらいです」



 確かに取材班の中にも、毎日のように見かけるスライムですら、数を増やしている場面を見た記憶がある者はいません。

 なにより、通常の生物なら絶対に見るはずの子供――小さな個体ですら、見たことがある人はいないでしょう。



「毎日相当の数が狩られているはずのスライムですら、姿を見なくなったという情報はありません。

 王国全体でみれば、それこそ毎日1万体以上は狩られているのに……です」



 博士が言うように、モンスターは増殖防止などさまざまな目的で狩られています。それは探索者にとって収入源であると同時に、我々の生活を支えるための資源を手に入れるためでもあります。

 そうして毎日王国中で狩りが行われているのに、それでもモンスターが減っている兆候や、絶滅したという情報を聞いたことは今まで一度もありません。それどころか、1か月ほど特定の地域で狩りが行われなければ、その地域ではモンスター大量発生の発生率が大きく上がってしまうのです。


 ですが、だからこそモンスターの素材を私たちの生活に役立てようとすることができるとも言えます。



「私たち研究者は、モンスターのことを研究し続けなくてはいけません。

 人類が少しでも効率的に、安定して素材を回収し続けることができるように」



 事実、研究を進めていくことによってモンスターによる被害は大きく減少しています。

 さらに探索者ギルドに情報が共有されることで、探索者たちの狩りに関するリスクも小さくなってきたと聞いています。それに加えて、素材の利用方法も新しく発見されるなど、いまだモンスター研究に終わりは見えません。



「私たちは研究者ですからね、分からないことをそのままにしておけないんです。

 何せモンスターの生態は何十年も研究されているのに、分からないことの方が圧倒的に多いですからね」



 楽しそうに語る博士。しかしそんな博士たちの研究があるからこそ、今日こうして私たちはモンスターの生態を視聴者の皆さんに紹介することができるのです。

 我々にとって身近な生き物でありながら、もっとも遠い存在でもあるモンスター。


 最も目にするスライムですら、今日だけで初めて知ることも多くありました。

 博士が今日、我々の取材に同行してくれたのも、知識をたくさんの人と共有することで新しい発見に繋がるかもしれないという目的があったからです。


 私たちにとってもっとも身近な存在であり、それ以上に遠い存在でもあるモンスター。

 今回の異世界モンスター紀行では、その中でも一番ポピュラーなスライムについて紹介をしてきました。


 攻撃手段を捨て、その代わりに魔力の乏しい平原で生きる術を身に付けたこのモンスターは、私たちにとってはモンスターである以上に、得難い隣人なのかもしれないのです。





◇◇◇◇◇



ここまでお読み下さりありがとうございます。

作者のラモンと申します。

こちらの作品は、もともとは全部まとめて掲載していたのですが、分割した方が読みやすいかもというご指摘を受け、実験するつもりで分割版として再投稿しました。

もし、これでも長い、読みにくいなどの感想がありましたら、ぜひ教えてください。





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